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インサニア×マークのキス描写ありますので注意。

「あれ?マークじゃん、食堂にいるだなんて珍しい」

 学生が自前のサンドイッチを食べているマークに声をかけた。
 魔導医学をメインにしているカルロだ。ちなみにマークは薬学をメインにしている。
 魔法薬の分野で講義が被っていてそれで知り合ったのだ。

「外で食べるのが一番美味しいんだろ?」
「雨だよ雨。」
「あぁ、雨降ってるのか。気づかなかった」

 窓をチラ見し、マークの目の前の席に座る。

「通り雨っぽいけどね。止むの待つの嫌だし。
 そうだ、カルロってインサニアのこと知ってるでしょ?あいつお昼どこで食べてるか知ってる?」
「あぁ?…あいつ食べないんじゃないの。あいつと付き合ってた女が言ってた気がする。
 ゴハン一緒に食べようと思ったらあの人お昼は食べないんですってー…ってカンジに」
「へぇー」
「マーク…友として言っておくがあいつと付き合うの止めた方がいい。
 最近のお前はあいつのことばっかりじゃないか。
 あれか、惚れたのか。むしろ掘りたいのか掘られたいのか」
「違う!」
「あ、マーくんがいるー超珍しい!なになに?何話てるの?」

 インサニアと同じ外科をメイン受けているアンナが寄ってくる。

「インサニアを掘りたいのか、もしくは掘られたいのかの議論を」
「何それ?」
「やめてよ…」

 カルロに首をかしげるアンナ。
 ちゃっかりマークの横に座ってテーブルを占拠している。
 込み合っているから仕方が無いのかもしれないが。

「俺はただインサニアを放っておけないだけなんだよ。あいつちょっと間が抜けてるし…」
「インサニアってあのプチ派手な人でしょ?」

 アンナが問いかけるように呟く。

「ぷち派手…なにその造語」
「まぁ多少目立つよな、あの格好は…白いし」
「あの人こわーい。すぐ怒るんだもん。無口そうなのに結構毒吐いてるんだよね」
「アンナも結構毒吐いてるけど…。マーク、インサニアと距離置いた方がいいって。ベタベタしすぎだ。
 お前童顔だし…その気があるように思われるぞ」
「童顔関係なくない?」

 項垂れながら否定するマーク。

「ま、冗談は置いといてアイツの噂はヤバいのもあるし…その内お前に毒牙をかけるかもしれんぞ」
「殴るらしいねぇ」
「大丈夫だって。あいつ男ダメだし。それに噂ほどヤバくないよ。ちょっと偏り思考なだけで」
「そこまでいうなら仕方が無いけど。掘られて泣いてても放置するからな」
「薄情…いや、掘られないけど」
「掘られるってなに?」
「アンナにはまだ早いかなー?」
「大人になったらわかるよ…」
「もう!アンナは大人です!」
「あー、マークお前夏の休みどうするの?」

 露骨な話題変えをするカルロ。

「田舎に帰るよ。祭りがあるんだ、その手伝いしなくちゃいけなくて」

「いいなー田舎あるところはー」
(そうだ…インサニアはどうするんだろう…)

 マークはふと、そんなことを思いながら談笑していた。









「休みは勉強。母さんがしろというからな絶対」
「マザコン~~~」

 マークは頭を抱えてインサニアに言う。

「マザコンとは違うと思う。母がわたしのために学費を払っているんだ、それに答えなければ筋が通らん」
「お前が働けばいいじゃんか」
「働いている暇があるんだったら勉強しろって母さんが」
「またそう『母さん』がくる…。息抜きも必要だと思うけど?」
「別に気にしない」

 素っ気無いインサニア。

「…その母さんはお前がSMプレイしてるのも知ってるのか?」
「……いや、それは……」

 うろたえるインサニア。そんな姿を初めて見たような気がする。

「そんなプレイしてる暇あったら勉強しろっていうよね」
「……気が狂う」
「つまりっ!」

 マークはプニッとインサニアの頬を指で突っつきながら、

「お前の息抜きは無意識にセックスになってるわけだよイ・ン・サ・ニ・ア・君」

 ぷにぷにぷに

「そ、そうなの…か…?」
「そう!つまりそれを別のモノに切り替えればいいわけ!うーんと旅行とか…なんかそんなカンジに健康的なモノ!」
「趣味じゃない」

 マークの手を掴むインサニア。

「なにか趣味はないの?」
「セックスも健康を保つ為に良いと思うんだが…」

 詰め寄るインサニア。

「お前の場合病的だ」
「そんなことないと思う」
「ん!?」

 不意打ちでインサニアがキスをしてきた。
 思わず身を引くマークなのだが、そのまま壁に押さえ込まれる形になってしまい逃げられなくなる。

「んー!?んんー!!」
(こ、これは…やばい……)

 舌がヤバい。侵入してくるインサニアの舌の動きが。
 ディープキスは初めての体験であった。
 生まれて此の方、彼女はいなかったという黒歴史があるのだ。

「ん…んぅ……」

 力が抜けていく。

(なんか…あぁ…小説とかで読んだのと一緒っぽい……)

 脳の芯が溶けるような、なんともいえない感覚。
 インサニアの腕が腰に回り、崩れそうなマークを支えながら尻を撫で始める。

(おまえ…っ…舌とか手とか…えろいんだよ…)
「はぁ…」
「ま、マーク……」
「ふぇ?」

 熱で頬を染め、ほんわりしているマークに対して、インサニアは顔が真っ青だ。

「やっぱりキスはダメだった……」

 口を押さえて崩れるインサニア。

「無理すんなよ阿呆!!うわあああああここで吐くなバカ!待て!もう少し堪えて!!!」

 騒ぎながらマークはインサニアの口を押さえながらトイレに走ったのであった。








「他人の唾液に触れてると思うと…うぐっ」
「なんで無理したんだよ…女にもしてないこと俺にするなんて」
「マークだからイケると思ったんだ」

 泣きながら言うインサニア。

「あのキスが最初で最後になるのか…気持ち良かったのに勿体無い」

 背中を擦ってやりながらため息を吐くマーク。

「……お前は感じやすいんだな」
「な!?変なこというなよ!!」
「感想を言っただけだが…」
「ぐっ…」
「もう落ち着いた…」

 立ち上がるインサニア。

「服また汚れたな…」

 ドアを開きながら呟くマーク。

「……」

 インサニアは手を洗いうがいを済ませると、手袋を洗い始める。

「脱いでコレ着ろよ。」
「え」

 マークが自分の服を脱いで差し出していた。

「でも…」
「ほら、俺下にTシャツ着てるし気にすんな。あとで寮に戻って服取ってくるし。脱いで脱いで」
「ん………」

 汚れた服を脱ぎ、マークの黒服を着る。

「お前、世話焼きだな」
「普通ここは『ありがとう』だろうが…」
「……」

 インサニアの頬が少し赤くなる。照れているのだろうか。

「ま、いいよ。ただ消毒液は勘弁してくれ」
「消毒しないと落ち着かない」
「いや、気持ちだけでいいから…」



     ◆◆◆◆



「デスレプブリーク・ノルトライン行きの列車は出ませんよ」
「え!?」

 声を上げるマーク。駅員は困ったような顔をする。、

「脱線事故がありまして。エルフ族の大規模な襲撃です。
 …現在デスレプブリーク方面行きの列車は運行見合わせ中です、当分かかりますよお客さま」
「ぜ…全部…?他の経由とかは…?」
「…レッブリカ鉄道は全力で運転再開できるよう努力しています。」
「…襲撃の規模、デカかったんですか」
「えぇ……そのようで……」

 項垂れるマーク。

「馬車などをご検討ください」
「どーも…」

 この調子だといつ復旧するか予想がつかない。
 ゴブリンの襲撃で汽車がよく止まるとこはあったが今回はエルフ。
 エルフが森から出てきてまで襲撃するということはエルフの怒りが爆発しているのだ。
 おそらく魔法の撃ち合いも合ったであろう、そしてレールがやられてしまったのが容易く想像できる。
 汽車…蒸気機関車は大気を汚す、レールを引くのに森を削る…森に住んでいるエルフ族たちにとっては腹立たしいことだ。

「せっかく帰れると思ったのに寮生活に逆戻りかー」

 公共魔導通信機の受話器を手に取り小銭を入れながらボヤくマーク。
 通信番号を押してしばし待つ。

「あ、母さん?俺だよマーク…うん…それがさぁー汽車止まっちゃって帰れるのいつになるかわかんないんだ…
 いや、馬車はヤダ。汽車に乗りたい。…男のロマンだって!なんでわかんないの!?」

 何やら熱く語り始めるマーク。よほど汽車が好きらしい。

「あーはいはい、祭りまでに間に合いそうになかったら馬車に乗るよ……うん、うん……はいはいじゃあ切るよ」

 受話器を戻す。

「口うるさい…結局最後は土産だし……」

 とぼとぼと路面列車の乗り口まで歩くマーク。
 街中を走る列車は蒸気ではなく魔力石で動く魔導列車である。
 高スピードを長距離で出していると魔力石に大きな負荷がかかり魔力が尽きたり石が砕けたりしてしまう。
 なのであまりスピードも出さず距離の短い運行をする街中では魔導列車が丁度良いというわけだ。
 この街、グラディエフは科学の発展に重点を置いて試行錯誤を繰り返している街であり、魔法の力を一切使わぬ蒸気機関車や魔力石を利用し運行する列車など、様々な実験をしている街で有名であった。
 マークの理想の街なのである。

「…マーク?」

 路面列車から降りてくる男に声をかけられるマーク。

「インサニア!」
「…帰ったんじゃないのか?」
「聞いてくれインサニアァァァァ!!!」

 インサニアに抱きつくマーク。

「三時間も待たされたんだっ!汽車がこないって待たされたんだよ三時間!
 で、原因が脱線事故!!しかもいつ復旧するかわからないんだって!!」
「馬車――」
「ヤダ。俺は汽車で帰りたいんだ!男のロマンだよ汽車は!」
「そ、そうか……で、寮に戻るんだ」
「…気が重い。寮は嫌いじゃないけど大学へ戻るまでしんどい。」
「……わたしの家で休むか?」
「え?近くなの?」
「あぁ……帰るところだった」
「なるほど…お邪魔していい?」
「あぁ」

 歩き始めるインサニアについていくマーク。
 インサニアが紙袋を抱えているのに気づく。何だろう、香りからしてお菓子のようだ。

「インサニアってお菓子食べるんだ?」
「あぁ、これは母さんに。疲れてるだろうから甘いものをと思って」
「へぇ…」

 狭い路地に入っていく。
 段々と雰囲気が変わってくる。なんだか薄汚い。商店の裏側のせいもあるだろうが。

「なんか…寂しいな」
「貧民層」
「インサニアってなんか豪邸に住んでそうなカンジするのに」
「そうか。でも残念だったな、わたしの住んでいる家は長屋だ」
「長屋…?」
「隣と繋がってる家。」
「あ、あぁ…あぁ…」
「田舎には無いのか」
「土地が有り余ってるから」
「なるほどな…」

 薄暗い道を歩く。
 インサニアの良い生地の白い服が、この風景から異様に浮いている気がした。

「ここ」

 招かれるマーク。
 ボロボロな家であったが、中は綺麗だ。
 入ってすぐ居間、左側に二部屋、奥はキッチンだろう。それだけの空間だった。

「お帰り…あら!」

 奥から中年の女性が出てくるなりマークを見て声を上げる。彼の母親だろう。
 母親の髪の色は茶色に近い金髪で、皺が目立つが美人であった。
 若い頃はさぞかし美人であっただろうと伺える。
 インサニアが父親似なのがなんとなく解った。母親と似ていない。

「友達」
「初めましてマルク=レーニって言います」
「あらあらあら珍しい!この子が友達連れてくるだなんて!ほら突っ立ってないで入りなさい!
 もーこの子ったらボーっとしてるんだからホラお友達に飲み物とか出してやりなさい
 大人なんだから私にやらせなくても出来るでしょ!」
「……」

 インサニアは神妙な表情で奥にあるキッチンに向かう。

「ほら!あんたも座りなさい」
「は、はぁ」

 なかなか強引というか強烈な母親である。

「マーク、コーヒー?紅茶?」

 顔を覗かせるインサニア。

「あ、えーとコーヒーでいいよ」
「……」

 黙って引っ込む。

(インサニアに何かしてもらうのがこれほど心苦しいとは…)
「やっぱり俺も手伝う…」
「いいよいいよ、やらせて」

 立ち上がるマークの手を掴む母親。
 ガサガサの手だ。自分の母親を思い出すマーク。

「はぁ…」
「あらやだあの子ったら黙ってちゃわからないじゃない」

 お菓子の袋の中身を見ながら言う。

「それ、お母さんにって言ってましたよ」
「私に?もーあの子ったら…」

 嬉しそうにしながら母親は皿を取ってきてその上にお菓子を出し始めた。ドーナッツだ。

「アンタも食べなさい!」
「は、はぃ…」
「母さん…マークは疲れてるんだ」

 トレイにコーヒーとミルクを乗せ、運んでくるインサニア。

「あぁ?そうなの?」
「脱線事故で…駅で三時間待ちぼうけ」

 説明しながらコーヒーを置いていく。

「そりゃ災難だったねぇ…」
「えぇ、最悪でした」
「故郷はどこだい?」
「隣の国です、デスレプブリーク。隣っていっても国境の境目にあるノルトラインって村なんですけど。」
「あぁ、ブドウの。そういやそろそろブドウ祭の時期だねぇ」
「そうなんですよ、その手伝いしなくちゃいけないんですけど帰れないのが…はぁ。馬車はイヤだし」
「ブドウ祭?」

 首を傾げるインサニア。

「収穫祭みたいなものだよ。まぁ酒飲んで騒ぐだけなんだけど、俺は収穫をしなくちゃいけなくて」
「テネブレはこの街から出たこと無いからねぇ、ダメだよもう少し周りのこと知らないと恥かくよ」
「……」

 黙ってコーヒーを飲むインサニア。

「で、泊まる所は大丈夫なの?アパート?寮?」
「あ、寮ッス…」
「あらまぁ大変だねぇ、いろいろ苦労するでしょう?」
「はい、まぁ…慣れたんで」

 母の喋りに付き合わされ始めるマーク。

「…マーク、わたしの部屋に」
「え?」

 インサニアが立ち上がりマークの腕を引っ張る。

「そこの方が落ち着くだろう。母さんもゆっくり休んで。仕事で疲れてるんだから」
「別に気にしなくていいのに…」

 インサニアはマークを引っ張って隣の部屋に連れ込む。

「うわ、暗い」

 真っ暗な部屋である。

「……」

 インサニアはドアを閉めてマークをそのまま引きずりベッドに押し倒した。

「何!?」

 暗闇で相手の動きがまったくわからず暴れるマークだが、インサニアは手馴れた様子でマークの両手を各自手錠で固定する。

「んぐぅっ」

 万歳のポーズで固定され逃げれなくなったマークの口の中にハンカチを喉の奥まで押し込まれる。

「我慢できない、マーク」

 インサニアの吐息が耳元にかかる。

「もう我慢できない、お前を甚振りたい。母さんと喋って羨ましい、わたしと同じ男なのに羨ましい……」
「うー!!!」

 ズボンが脱がされ、手袋を嵌めた手がナニに触れる。

「はっ…うふっ……」
「マーク……」

 インサニアの舌がマークの太ももの内側や付け根を這い、そして噛む様に吸い付いてくる。

(インサニアっ…やめろっ…やめっ……!!!)

 扱かれながらの愛撫に息が荒くなってくる。

『テネブレ!ちょっと来ておくれ!』
「!!」

 顔を上げるインサニア。

『テネブレー?』

 母親の呼ぶ声。

「……」

 インサニアは黙ってマークを解放すると慌てて部屋を出て行く。

「はー…はー…はー…」

 愛撫の余韻に浸るマーク。

 インサニアに言われた通り、自分は感じやすいのかもしれない。

「なんか灯りは…?」

 身を起こし手探りでテーブルの上にあった灯りをつけた。

「…うぇぇぇ…」

 ベッドを見て項垂れるマーク。
 拘束できるようになのだろう、ベッドの柵に手錠が繋がっていた。
 自分もこれで固定されたのだろう。足用の手錠まである。

「毎日このベッドで寝てるのか…」

 よく見ると何やら怪しげな道具まである。どうやら自室で女とヤっているようだ。

「…母さんか」

 自分に向けられた感情は嫉妬だろうか?母と喋っていただけで嫉妬?
 彼の心は母親中心なのは間違いない。悪い言い方だが、母親に支配されているような…そんな雰囲気。
 そして強姦魔の父親と自分を重ね合わせてしまう被虐性もあり、また父と同じ暴力的な素質もある。
 精神的に追い詰めてしまうのか、情緒不安定。
 どう接していけば正解なのかわからない。
 おそらく、母親も解らなくなってしまっているのかもしれない。
 愛しているはずだ。愛があったはず。じゃないと、普通は綺麗な服を着せて、学校なんていかせていないだろう。

「…」

 マークは身なりがちゃんとなっているか確認した後、部屋からでる。

「あれ?インサニアは…?」

 ドーナッツを食べている母親に問うマーク。

「あぁ、夕飯の買出しに行かせたよ。あんたも食べていくだろ?」
「は、はい…」

 断りきれず頷くマーク。

「…そこにお座り」
「はぁ…」

 ソファに座るマーク。

「テネブレがアンタに何かしちゃったみたいだね」
「あ、いあ…その……」

 自分でも顔が赤くなるのが解る。

「悪い子じゃないんだけどね…悪い子じゃ…許して、あの子はちょっと頭が悪いだけ」
「え…」
「善悪の区別ができない…。何度言っても理解しない。理解できないんだね…。
 怒られても、どうして怒られてるのかわからない…」
「そうなんですか…」
「悪いことをしたら叱ってやってくれない?…もう私はあの子の面倒が見れなくなる」
「それは、どういう意味で」
「病気、なの」

 目を伏せる母親。

「私が死んだらあの子がどうなっちゃうのか見当もつかないのよ…想像したくないのかもしれないわね」
「俺、インサニアの面倒みます。友達だから。そりゃあびっくりするようなことされますけど…悪意がないのはわかるから。
 それに友達が悪いことしてるのは見逃せない性格なんで」

 苦笑しながら言うマーク。

「ごめんなさいね…」
「いえ…彼に声をかけたのは俺の方からだし、彼に興味があったのも事実ですから気にしないでください。」



    ◆◆◆◆



 翌日。

「まだレールの普及が出来ていないんです」
「あとどれぐらいかかるんですか?」
「三日もあれば…」
「三日か…祭りまでには間に合うなぁ…」

 マークは駅員に礼を言って引き返す。

「どうだった?」
「あと三日かかるってさ」

 インサニアに答えるマーク。

「そうか」
「仕方が無い、遊ぶか!インサニアも付き合って!」
「え!?」
「奢るからさ、映画見に行こう映画」
「映画ぁ?」

 マークはインサニアを引っ張って駅の外へ出る。

「俺ここの映画見たかったんだ。カラーだしフィルム使ってるんだよフィルム!」
「????」

 全然解ってない顔をしているインサニア。

「あーつまり、今までは魔力石に映像を記憶させていって短い映像をつなぎ合わせた…画面の小さい音なし映画だったの。
 フィルムの方は画面大きくてカメラで撮った白黒フィルムが主流だったんだけど、カラーが出たの。それが見たいの」
「ストーリーは関係ないのか」

 路面列車に乗りながら呟くインサニア。

「ストーリーも見るよ、オマケだけど。こう、わかんない!?科学が進化していってるのを体感できるこの感動!」
「………わかった、お前…機械おたくだろう。」
「失礼な…そんなんじゃないよぅ。ただ俺は魔法に頼らない純粋な機械で動くのが好きなんだ、感動するじゃん」
「変わってる。医者志望が科学好きとはな。そっち方面へ行けばよかったのに」

 苦笑するインサニア。

「いいじゃんかーそれぐらいはさ…趣味の範囲だし」
「…マーク、昨晩はすまなかった」
「えっ…」
「無理矢理…ごめん。どうかしてた」

 遠い目をして言うインサニア。

「いや、びっくりしたけど別に今更だし」
「…本当は…嫌がるお前を無理矢理、犯したいのかもしれない」
「あぶない発言するなよ…」
「本当なんだ…すごく興奮した」

 インサニアは項垂れ、窓に頭を凭れさせる。

「わたしは、やっぱり父にそっくりなんだと思う」
「ダメダメ!そんな風に思うからそういう思考になっちゃうんだよ!忘れろ!!…多分、お前は母親のストレスで精神的に疲れてるんだ」
「母さんの?」
「母親に答えようとしてる圧力がお前を疲れさせてるんじゃないのかな」
「……」
「だからさ、変に思いつめない方がいいって。…ね?」

 マークはポンポンとインサニアの肩を叩く。

「次で降りるんだったかな?」
「あぁ、そうだ」
「楽しみー」

 目をキラキラさせてるマーク。

(変な男だ…)

 インサニアは自分のことを棚に上げてマークを観察していた。






 メトロポール劇場。
 劇場前で、インサニアは頭を抱えていた。

「恋愛物をなんで男二人でみなくちゃ…」
「男一人で見る方が恥ずかしいわ!!」
(そうだろうか…)
「好きな小説を原作にした映画だし観たいんだよ!さ、行こう行こう始まっちゃう」
「………」

 機械好きで恋愛小説も好き…なんとも多趣味な男である。
 劇場内は女性の方が比較的多かったがマークは気にせず飲み物を買い、席に座る。

「映画観るのは初めて?」
「あぁ…興味がないから」
「あ、そう…つき合わせちゃってゴメンね」
「いや、いい。気にするな」
「飲む?」

 ジュースを差し出すマーク。

「遠慮する……」

 そんな会話をしていると上映時間になり映画が始まる。
 大きな画面で映像が流れ、もの悲しげな音楽が流れ始める。

「……」
「?」

 マークの肩に凭れかかってくるインサニア。

(…寝るの早ッ!!!)









「ん…?」
「おはようインサニア~」

 小声で囁くマーク。

「あぁ、寝ていたのか…」
「ぐっすりと」

 苦笑しながらマークは言う。

 前を見ると映画はエンドロールに入っていた。

「帰ろうか」
「あぁ」
「あー、やっぱりいい話だったなぁー。脇役もステキだったし」
「そ、そうか…」

 劇場を出ながらマークの語りを聞かされるインサニア。

「本物のオペラ歌手も出てたんだよ。ほらこの人は割と有名なんだ、しってる?」

 パンフレットを差し出すマーク。

「この黒いドレスの金髪の人」

 悲しげな表情を浮かべた女性の写真を指差す。

「知らない」
「ラクリマっていうんだ。歌声が素晴らしいよ、映画の中じゃ歌ってなかったけど。勿体無いねー」
「ふーん」

 興味のないインサニアは適当に相槌をうつ。

「どこかで食べよう、奢るよ」
「あ、あぁ…でも母さんが作って…」
「連絡して断れ!!連絡して!怒られないから!!」





END

↓↓当時のあとがき↓↓
マークがツボったんでマークメインに書いた。反省はしていない。
街の名称などはいろいろ拝借したり地名をそのまま使ったりもじって使ったり。

インサニアたちが住んでいる街の名前「グラディエフ」
マークの出身国はデスレプブリーク王国・ノルトライン(村)。
↑↑ここまで↑↑

冒頭のモブ友人会話をカルロとアンナとの会話に変更しました、セリフは変わっていません。
マークの口調を現在の口調に極力変更。
あと細かい部分の修正。

>それに友達が悪いことしてるのは見逃せない性格なんで
この台詞伏線というかフラグですね、このせいでマークは1話目にあんな姿になってしまったのであった。
カルロはインサニアを遠くから見守ってるので周りからの情報収集してる感じです。
大学時代はアンナに付きまとってません、インサニアの面影がまだないから。

当時掲載した第四話原文→こちら

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