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「あれ?マークじゃん、食堂にいるだなんて珍しい」

 男子学生が昼食のサンドイッチを食べているマークに声をかけた。

「外で食べるのが一番美味しいだろ?」

「雨だよ雨。」

「あぁ、雨降ってるんだ」

 窓を見ながらマークの前の席に座る。

「通り雨っぽいけどなぁ。そういやお前インサニアと同じ科だろ?あいつ昼どこで食べてるか知ってる?」

「あぁ?…あいつ食べないんじゃないの。あいつと付き合ってた女が言ってた気がする

 ゴハン一緒に食べようと思ったらあの人お昼は食べないんですってー…ってカンジに」

「へぇー」

「マーク…友として言っておくがあいつと付き合うの止めた方がいい。最近のお前はあいつのことばっかりじゃないか。

 あれか、惚れたのか。むしろ掘りたいのか掘られたいのか」

「違うわぁぁぁぁぁあ!!!!」

「あ、マーク君がいるー超珍しい!なになに?何はなしてるの?」

 マークの友達が数人寄ってくる。

「インサニアを掘りたいのか、もしくは掘られたいのかの議論を」

「何それ?」

「お前らバカじゃねーの」

 無垢な顔で首を傾げる女子や呆れた顔をする男子。

 ちゃっかりテーブルを占拠している。込み合っているから仕方が無いのかもしれないが。

「俺はただ放っておけないだけなんだよ。あいつちょっと間が抜けてるし…」

「インサニアってあのプチ派手な人でしょ?」

 女子が問いかけるように呟く。

「ぷち派手…なんだその造語」

「まぁ多少目立つよな、あの格好は……白いし」

「あの人こわーい。すぐ怒るんだもん。無口そうなのに結構毒吐いてるんだよね」

「お前も結構毒吐いてるけどな…マーク、インサニアと距離置いた方がいいってベタベタしすぎだ。

 お前童顔だしっ……その気があるように思われるぞッ…!!」

「ねぇよ」

 項垂れながら否定するマーク。

「ま、冗談は置いといてアイツの噂はヤバいのもあるし…その内お前に毒牙をかけるかもしれんぞ」

「ドSという噂があるからなー」

「大丈夫だって。あいつ男ダメだし。それに噂ほどヤバくないよ。ちょっと偏り思考なだけで」

「そこまでいうなら仕方が無いな…。掘られて泣いてても放置するからな」

「薄情な…」

「掘られるってなに?」

 きょろきょろと男子を見ながらいう女子。

「お前にはまだ早い…」

「あぁ…大人になったらわかるよ…」

「もう!わたし大人ですぅ!」

「精神面がちょっとアレじゃないか。あー、マークお前夏休みどうするの?」

 女子を宥めるように頭をくしゃくしゃ撫でながら聞いてくる。

「田舎に帰るよ。祭りがあるんだ、その手伝いしなくちゃ」

「いいなー田舎あるところはー」

(そうだ…インサニアはどうするんだろう…)

 マークはふと、そんなことを思いながら談笑していた。









「休みは勉強。母さんがしろというからな絶対」

「マザコン~~~」

 マークは頭を抱えてインサニアに言う。

「マザコンとは違うと思う。母がわたしのために学費を払っているんだ、それに答えなければ筋が通らん」

「お前が働けばいいじゃんか」

「働いている暇があるんだったら勉強しろって母さんが」

「またそう『母さん』がくる…。息抜きも必要だぜ?」

「別に気にしない」

 素っ気無いインサニア。

「…その母さんはお前がSMプレイしてるのも知ってるのか?」

「……いや、それは……」

 うろたえるインサニア。そんな姿を初めて見たような気がする。

「そんなプレイしてる暇あったら勉強しろっていうよな」

「……気が狂う」

「つまりっ!」

 マークはプニッとインサニアの頬を指で突っつきながら、

「お前の息抜きは無意識にセックスになってるわけだよイ・ン・サ・ニ・ア・君」

 ぷにぷにぷに

「そ、そうなの…か…?」

「そう!つまりそれを別のモノに切り替えればいいわけだ!うーんと旅行とか…なんかそんなカンジに健康的なモノ!」

「趣味じゃない」

 マークの手を掴むインサニア。

「なんか趣味はないの?」

「セックスも健康を保つ為に良いと思うんだが…」

 詰め寄るインサニア。

「お前の場合病的だ」

「そんなことないと思う」

「ん!?」

 不意打ちでインサニアがキスをしてきた。

 思わず身を引くマークなのだが、そのまま壁に押さえ込まれる形になってしまい逃げられなくなる。

「んー!?んんー!!」

(こ、これは…やばい……)

 舌がヤバい。侵入してくるインサニアの舌の動きが。

 ディープキスは初めての体験であった。

 生まれて此の方、女性と付き合うことはあってもそこまで持っていけなかったという黒歴史があるのだ。

「ん…んぅ……」

 力が抜けていく。

(なんか…あぁ…小説とかで読んだのと一緒っぽい……)

 脳の芯が溶けるような、なんともいえない感覚。

 インサニアの腕が腰に回り、崩れそうなマークを支えながら尻を撫で始める。

(おまえ…っ…舌とか手とか…えろいんだよ…)

「はぁ…」

「ま、マーク……」

「ふぇ?」

 熱で頬を染め、ほんわりしているマークに対して、インサニアは顔が真っ青だ。

「やっぱりキスはダメだった……」

 口を押さえて崩れるインサニア。

「無理すんなよ阿呆!!うわあああああここで吐くなバカ!待て!もう少し堪えろ!!!」

 騒ぎながらマークはインサニアの口を押さえながらトイレに走ったのであった。








「他人の唾液に触れてると思うと…うぐっ」

「なんで無理したんだよ…女にもしてないこと俺にするなんて」

「マークだからイケると思ったんだ」

 泣きながら言うインサニア。

「あのキスが最初で最後になるのかね…気持ち良かったのに勿体無い」

 背中を擦ってやりながらため息を吐くマーク。

「……お前は感じやすいんだな」

「な!?変なこというなよ!!」

「感想を言っただけだが…」

「ぐっ…」

「もう落ち着いた…」

 立ち上がるインサニア。

「服また汚れたな…」

 ドアを開きながら呟くマーク。

「……」

 インサニアは手を洗いうがいを済ませると、手袋を洗い始める。

「脱いでコレ着ろよ。」

「え」

 マークが自分の服を脱いで差し出していた。

「でも…」

「ほら、俺下にTシャツ着てるし気にすんなよ、あとで寮に戻って服取ってくるし。脱げ脱げ」

「ん………」

 汚れた服を脱ぎ、マークの黒服を着る。

「お前、世話焼きだな」

「普通ここは『ありがとう』だろうが…」

「……」

 インサニアの頬が少し赤くなる。照れているのだろうか。

「ま、いいよ。ただ消毒液は勘弁してくれ」

「消毒しないと落ち着かない」

「いや、気持ちだけでいいから…」



     ◆◆◆◆



「デスレプブリーク・ノルトライン行きの列車は出ませんよ」

「え!?」

 声を上げるマーク。

 駅員は困ったような顔をして、

「脱線事故がありまして。エルフ族の大規模な襲撃です。

 …現在デスレプブリーク方面行きの列車は運行見合わせ中です、当分かかりますよお客さん」

「ぜ…全部…?他の経由とかは…?」

「…レッブリカ鉄道は全力で運転再開できるよう努力しています。」

「…襲撃の規模、デカかったんですかぃ」

「えぇ……そのようで……」

 項垂れるマーク。

「馬車などをご利用ください」

「どーも…」

 この調子だといつ復旧するか予想がつかない。

 ゴブリンの襲撃で汽車がよく止まるとこはあったが今回はエルフ。

 エルフが森から出てきてまで襲撃するということはエルフの怒りが爆発しているのだ、おそらく魔法の撃ち合いも合ったであろう

 レールがやられてしまったのが容易く想像できる。

 汽車…蒸気機関車は大気を汚す、レールを引くのに森を削る…森に住んでいるエルフ族たちにとっては腹立たしいことだ。

「せっかく帰れると思ったのに寮生活に逆戻りかよー」

 公衆電話の受話器を手に取り小銭を入れながらボヤくマーク。

 電話番号を押してしばし待つ。

「あ、母さん?俺だよマーク…うん…それがさぁー汽車止まっちゃって帰れるのいつになるかわかんないんだわ…

 いや、馬車はヤダ。汽車に乗りたい。…男のロマンだって!なんでわかんねぇの!?」

 何やら熱く語り始めるマーク。

 よほど汽車が好きらしい。

「あーはいはい、祭りまでに間に合いそうになかったら馬車に乗るよ……うん、うん……はいはいじゃあ切るよ」

 受話器を戻す。

「口ウルセェでやんの…結局最後は土産かよ……」

 とぼとぼと路面列車の乗り口まで歩くマーク。

 街中を走る列車は魔力石で動く魔法列車である。

 高スピードを長距離出していると魔力石に大きな負荷がかかり魔力が尽きたり石が砕けたりしてしまう。

 なのであまりスピードも出さず距離の短い運行をする街中では魔法列車が丁度良いというわけだ。

 この街、グラディエフは科学の発展に重点を置いて試行錯誤を繰り返している街であり、魔法の力を一切使わぬ蒸気機関車や

 魔力石を利用し運行する列車など、様々な実験をしている街で有名であった。

「…あれ?マーク?」

 路面列車から降りてくる男に声をかけられるマーク。

「インサニア!」

「…帰ったんじゃないのか?」

「聞いてくれインサニアァァァァ!!!」

 インサニアに抱きつくマーク。

「三時間も待たされたんだっ汽車がこないって待たされたんだよ三時間!

 で、原因が脱線事故だぜ!!しかもいつ復旧するかわからないんだって!!」

「馬車――」

「ヤダ。俺は汽車で帰りたいんだ!男のロマンだよ汽車は!」

「そ、そうか……で、寮に戻るんだ」

「…気が重い。寮は嫌いじゃないけど大学へ戻るまでしんどい。」

「……わたしの家で休むか?」

「え?近くなのか?」

「あぁ……帰るところだった」

「なるほど…お邪魔していい?」

「あぁ」

 歩き始めるインサニアについていくマーク。

 インサニアが紙袋を抱えているのに気づく。何だろう、香りからしてお菓子のようだ。

「インサニアってお菓子食べるんだ?」

「あぁ、これは母さんに。疲れてるだろうから甘いものをと思って」

「へぇ…」

 狭い路地に入っていく。

 段々と雰囲気が変わってくる。なんだか薄汚い。商店の裏側のせいもあるだろうが。

「なんか…寂しいな」

「貧民層」

「インサニアってなんか豪邸に住んでそうなカンジ」

「そうか。でも残念だったな、わたしの住んでいる家は長屋だ」

「長屋…?」

「隣と繋がってる家。」

「あ、あぁ…あぁ…」

「田舎には無いのか」

「土地が有り余ってるから」

「なるほどな…」

 薄暗い道を歩く。

 インサニアの白い服が、この風景から異様に浮いている気がした。

「ここ」

 招かれるマーク。

 ボロボロな家であったが、中は綺麗だ。

「お帰り…あら!」

 奥から中年の女性が出てくるなりマークを見て声を上げる。彼の母親だろう。

 母親の髪の色は茶色に近い金髪で、皺が目立つが綺麗であった。若い頃はさぞかし美人であっただろう。

 インサニアが父親似なのがなんとなく解った。母親と似ていない。口元は似ているが。

「友達」

「どーも、初めましてマルク=レーニって言います」

「あらあらあらあら珍しい!この子が友達連れてくるだなんて!ほら突っ立ってないで入りなさい!

 もーこの子ったらボーっとしてるんだからホラお友達に飲み物とか出してやりなさいよ大人なんだから私にやらせなくても出来るでしょ!」

「……」

 インサニアは神妙な表情でキッチンに向かう。

「ほら!あんたも座りなさい」

「は、はぁ」

 なかなか強引というかマイペースな母親である。

「マーク、コーヒー?紅茶?」

 顔を覗かせるインサニア。

「あ、えーとコーヒーでいいよ」

「……」

 黙って引っ込む。

(インサニアに何かしてもらうのがこれほど心苦しいとは…)

「やっぱり俺も手伝う…」

「いいよいいよ、やらせてやらせて」

 立ち上がるマークの手を掴む母親。

「はぁ…」

「あらやだあの子ったら黙ってちゃわからないじゃない」

 お菓子の袋の中身を見ながら言う。

「それ、お母さんにって言ってましたよ」

「私に?もーあの子ったら…」

 嬉しそうにしながら母親は皿を取り出しお菓子を取り出し始めた。ドーナッツだ。

「アンタも食べなさい!」

「は、はぃ…」

「母さん…マークは疲れてるんだ」

 トレイにコーヒーとミルクを乗せ、運んでくるインサニア。

「あぁ?そうなの?」

「脱線事故で…駅で三時間待ちぼうけ」

 説明しながらコーヒーを置いていく。

「そりゃ災難だったねぇ…」

「えぇ、最悪でした」

「故郷はどこだい?」

「隣の国です、デスレプブリーク。隣っていっても国境の境目にあるノルトラインって村なんですけど。」

「あぁ、ブドウの。そういやそろそろブドウ祭の時期だねぇ」

「そーなんですよ、その手伝いしなくちゃいけないんですけど帰れないのが…はぁ馬車はイヤだし」

「ブドウ祭?」

 首を傾げるインサニア。

「収穫祭みたいなものだよ。まぁ酒飲んで騒ぐだけなんだけど」

「テネブレはこの街から出たこと無いからねぇ、ダメだよもう少し周りのこと知らないと恥かくよ!」

「……」

 黙ってコーヒーを飲むインサニア。

「で、泊まる所は大丈夫なの?アパート?寮?」

「あ、寮ッス…」

「あらまぁ大変だねぇ、いろいろ苦労するでしょう?」

「はぃ…まぁ…慣れたんで」

 母の喋りに付き合わされ始めるマーク。

「…マーク、わたしの部屋に」

「え?」

 インサニアが立ち上がりマークの腕を引っ張る。

「そこの方が落ち着くだろう。母さんもゆっくり休んで。仕事で疲れてるんだから」

「別に気にしなくていいのに…」

 インサニアはマークを引っ張って隣の部屋に連れ込む。

「うわ、暗い」

 真っ暗な部屋である。

「……」

 インサニアはドアを閉めてマークをそのまま引きずりながらベッドに投げ倒した。

「何!?」

 暗闇で相手の動きがまったくわからず暴れるマークだが、インサニアは手馴れた様子でマークの両手を各自手錠で固定する。

「んぐぅっ」

 万歳のポーズで固定され逃げれなくなったマークの口の中にハンカチを喉の奥まで押し込まれる。

「我慢できない、マーク」

 インサニアの吐息が耳元にかかる。

「もう我慢できない、お前を甚振りたい。母さんと喋って羨ましい、わたしと同じ男なのに羨ましい……」

「うー!!!」

 ズボンが脱がされ、手袋を嵌めた手がナニに触れる。

「はっ…うふっ……」

「マーク……」

 インサニアの舌がマークの太ももの内側や付け根を這い、そして噛む様に吸い付いてくる。

(インサニアっ…やめろっ…やめっ……!!!)

 扱かれながらの愛撫に息が荒くなってくる。

『テネブレ!ちょっと来ておくれ!』

「!!」

 顔を上げるインサニア。

『テネブレー?』

 母親の呼ぶ声。

「……」

 インサニアは黙ってマークを解放すると慌てて部屋を出て行く。

「はー…はー…はー…」

 愛撫の余韻に浸るマーク。

 インサニアに言われた通り、自分は感じやすいのかもしれない。

「なんか灯りは…?」

 身を起こし手探りでテーブルの上にあった灯りをつけた。

「…うぇぇぇ…」

 ベッドを見て項垂れるマーク。

 拘束できるようになのだろう、ベッドに柵に手錠が繋がっていた。自分もこれで固定されたのだろう。足用の手錠もある。

「毎日このベッドで寝てるのかよ…」

 よく見ると何やら怪しげな道具まである。どうやら自室で女とヤっているようだ。

「…母さんか」

 自分に向けられた感情は嫉妬だろうか?母と喋っていただけで嫉妬?

 彼の心は母親中心なのは間違いない。悪い言い方だが、母親に支配されているような…そんな雰囲気。

 そして強姦魔の父親と自分を重ね合わせてしまう被虐性もあり、また父と同じ暴力的な素質もある。

 情緒不安定。安定させているのは母親か。

「…ややっこしい男だな」

 マークは身なりがちゃんとなっているか確認した後、部屋からでる。

「あれ?インサニアは…?」

 ドーナッツを食べている母親に問うマーク。

「あぁ、夕飯の買出しに行かせたよ。あんたも食べていくだろ?」

「は、はい…」

 断りきれず頷くマーク。

「…そこに座りよ」

「はぁ…」

 座るマーク。

「テネブレがアンタに何かしちゃったみたいだね」

「あ、いあ…その……」

 自分でも顔が赤くなるのが解る。

「悪い子じゃないんだけどね…悪い子じゃ…許しておくれよ、あの子ちょっと頭が悪いんだよ」

「え…」

「善悪の区別ができないんだ…。何度言っても理解しない。理解できないんだね…。

 怒られても、どうして怒られてるのかわからないんだよ…」

「そうなんですか…」

「悪いことしたら叱ってやってくれないかねぇ?…もう私はあの子の面倒が見れなくなる」

「それは、どういう意味で…」

「寿命だよ、そろそろね…なんとなく解る」

 目を伏せる母親。

「私が死んだらあの子がどうなっちゃうのか見当もつかないよ…想像したくないのかもしれないね」

「俺、インサニアの面倒みます。友達だから。そりゃあびっくりするようなことされますけど…悪意がないのはわかるから。

 それに友達が悪いことしてるのは見逃せない性格なんで」

 苦笑しながら言うマーク。

「すまないね…ごめんよ…」

「いえ…彼に声かけたの俺の方からだし、彼に興味があったのも事実ですから気にしないでください。」



    ◆◆◆◆



 翌日。

「まだレールの普及が出来ていないんです」

「あとどれぐらいかかるんですか?」

「三日もあれば…」

「三日か…祭りまでには間に合うなぁ…」

 マークは駅員に礼を言って引き返す。

「どうだった?」

「あと三日かかるってさ」

 インサニアに答えるマーク。

「そうか」

「仕方が無い、遊ぶか!インサニアも付き合え!」

「え!?」

「奢るからさ、映画見に行こう映画」

「映画ぁ?」

 マークはインサニアを引っ張って駅の外へでる。。

「俺ここの映画見たかったんだ。カラーだしフィルム使ってるんだぜフィルム!」

「????」

 全然解ってない顔をしているインサニア。

「あーつまりだなぁ、今までは魔力石に映像を記憶させていって短い映像をつなぎ合わせた…画面の小さい音なし映画とか、

 フィルムの方は画面大きくてカメラで撮った白黒フィルムが主流だったんだけど、カラーが出たの。それが見たいの」

「ストーリーは関係ないのか」

 路面列車に乗りながら呟くインサニア。

「ストーリーも見るよ、オマケだけど。こう、わかんない!?科学が進化していってるのを体感できるこの感動!」

「………わかった、お前…機械おたくだろう。」

「失礼な…そんなんじゃないよぅ。ただ俺は魔法に頼らない純粋な機械で動くのが好きなんだ、感動するじゃん」

「変わってる。だが科学だけだと自然を破壊する」

「う……まぁ…そうだけど…もっと発展すれば…自然を破壊しないで済むかもしれないじゃん…」

「何百年後の話になるやら、だな」

「いじわるだなー」

「しかし医者志望が科学好きとはな」

 苦笑するインサニア。

「いいじゃんかーそれぐらいはさ…」

「…マーク、昨晩はすまなかった」

「えっ…」

「無理矢理…ごめん。どうかしてた」

 遠い目をして言うインサニア。

「いや、びっくりしたけど別に今更だし」

「…本当は…嫌がるお前を無理矢理、犯したいのかもしれない」

「あぶねぇ発言するなよ…」

「本当なんだ…すごく興奮した」

 インサニアは項垂れ、窓に頭を凭れさせる。

「わたしは、やっぱり父にそっくりなんだと思う」

「ダメダメ!そんな風に思うからそういう思考になっちゃうんだよ!忘れろ!!…多分、お前は母親のストレスで精神的に疲れてるんだ」

「母さんの?」

「母親に答えようとしてる圧力がお前を疲れさせてるんじゃないのかな」

「……」

「だからさ、変に思いつめない方がいいって。…な?」

 マークはポンポンとインサニアの肩を叩く。

「お、次で降りるんだったかな?」

「あぁ、そうだ」

「楽しみー♪」

 目をキラキラさせてるマーク。

(変な男だ…)

 インサニアは自分のことを棚に上げてマークを観察していた。






 メトロポール劇場。

 劇場前で、インサニアは頭を抱えていた。

「恋愛物をなんで男二人でみなくちゃ…」

「男一人で見る方が恥ずかしいわ!!」

(そうだろうか…)

「好きな小説を原作にした映画だし見たいんだよ!さ、行こう行こう始まっちゃう」

「………」

 機械好きで恋愛小説も好き…なんとも多趣味な男である。

 劇場内は女性の方が比較的多かったがマークは気にせず飲み物を買い、席に座る。

「映画見るのは初めて?」

「あぁ…興味がないから」

「あ、そう…つき合わせちゃってゴメンね」

「いや、いい。気にするな」

「飲む?」

 ジュースを差し出すマーク。

「遠慮する……」

 そんな会話をしていると上映時間になり映画が始まる。

 大きな画面で映像が流れ、もの悲しげな音楽が流れ始める。

「……」

「?」

 マークの肩に凭れかかってくるインサニア。

(…寝るの早ッ!!!)









「ん…?」

「おはようインサニア~」

 小声で囁くマーク。

「あぁ、寝ていたのか…」

「ぐっすりと」

 苦笑しながらマークは言う。

 前を見ると映画はエンドロールに入っていた。

「帰ろうか」

「あぁ」

「あー、やっぱりいい話だったなぁー。脇役もステキだったし」

「そ、そうか…」

 劇場を出ながらマークの語りを聞かされるインサニア。

「本物のオペラ歌手も出てたんだよ。ほらこの人は割と有名なんだ、しってる?」

 パンフレットを差し出すマーク。

「この黒い服きた金髪の人」

 悲しげな表情を浮かべた女性の写真を指差す。

「知らない」

「ラクリマっていうんだ。歌声が素晴らしいらしいよ、映画の中じゃ歌ってなかったけど。勿体無いねー」

「ふーん」

 興味のないインサニアは適当に相槌をうつ。

「どこかで食べよう、奢るよ」

「あ、あぁ…でも母さんが作って…」

「電話して断れ!!電話して!!!」





END

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