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まず初めに
某ロボットアニメの実写ドラマで過去の記憶がフラッシュバックし、2011年頃に書いたと思われる小説をこね回し始めたらなんかまた再熱してしまったのです。内容がアレすぎてそのまま出すの気が引けるし修正どうしよぉ…めんどぅ…となっていたのですが第一話だけならなんかそのままごっそり手直ししなくてもイケんじゃね!?となったのでプライベッターに載せてみました。
その勢いで全話いっちゃいました。
そういう感じです。

 バール連邦共和国ハンゼシュタット州中心都市グラディエフにあるベレッツヘム病院。
 そこにある個室病棟の一つに黒髪の医者が回診に来た。
 日常的な、普段と変わらぬ、そんな風景。

「エリザベス=ピエロニ、ご機嫌いかがかな?」
「インサニア先生…」

 ベッドに横たわっている10代の金髪の少女―――エリザベスは医者へ目だけを向ける。
 病気のせいで肌は青白く生気が無かった。

「明日の手術だが心配しなくてもいいよ、絶対に成功させるからね」

 微笑むインサニア・テネブラルム。

「パパは来るかしら。心細いわ」
「さぁ…先生は聞いてないからわからないな」
「絶対来ないわね。」

 エリザベスは天井へと視線を戻す。

「パパはわたしが死ねばいいと思っているのよ。」
「そんなことないよ。お父さんを悪く言っちゃいけない」
「…先生、わたしね。視えるの」
「何が?」
「先生の後ろにいっぱい怖い人がいるわ」

 エリザベスの手が伸びる。
 その指先が指す方へとつられて後ろを振り向くが付き添いの看護婦以外誰もいない。
 看護婦も眉を寄せて困った顔をしていた。

(…先生、いつものことですから)

 小声で耳打ちする看護婦。

「みんな苦しそう…先生もパパと同じなのね。いっぱい殺したのね」
「……手術は失敗したことは無いよ?何を言ってるんだ、もういい寝てなさい」

 インサニアは口調を荒げながら病室を出る。

「気持ち悪いガキだな」

 少女の前で見せていた穏やかな表情から一変して真顔になる。
 口調も穏やかさが消えていた。
 これが本来の彼である。

「はい…」

 相槌をうつ看護婦。

「あ、先生どちらへ?まだ回診がありますが。」
「アンナ=マリかジョン=ブレナンにでもやらせろ。地下へ行く。あいつの様子も診なくてはな」

 インサニアはイラついた様子で早足で病院の地下病棟に向かった。
 地下は収容所のような病室になっている。
 ここに入る患者は基本的に自殺しようとする者や暴れる者など少々社会に適合できない者たちを『治療』という名目で収容してあるのである。
 家族に捨てられた悲しい患者達だ。
 そのあたりはインサニアにはさして何も感じることはない。損切は必要だから。
 病院は貰い手の無いそれらを引き受けているのだから感謝してほしいぐらいだと思う。
 一番奥にある病室のドアの前で足を止めて、ドアの覗き窓を開く。
 患者がきちんと拘束されていることを確認し、ドアのロックを解除して入った。

「やぁマーク、今日も元気そうだな」
「っ………!!」

 はくはくと口が動く。何かを叫んでいるか、彼の喉はインサニアが声帯を潰してしまったので声は出せない。
 マルク=レーニ。インサニアの同僚だった男だ。

「あぁ…ずいぶんと細くなったな。」

 マークの短くなった腕に触れながら呟くインサニア。
 手足を1本ずつ潰していったのは楽しかったな、と思い返す。
 人体を破壊するのは楽しい。そのために医者になったのだ。
 ちょうどよかった。マークはいつも丁度いい男だったと思う。

「マークのことを思って私は忙しい時間の合間を縫って見舞いに来てやってるんだ。もう少し喜べよ。
 クク…お前が悪いんだよ、私の周りをウロウロするから…」

 低く笑うインサニア。

「殺されなくて良かったな…安心しろ、殺しはしない。死因は衰弱死だ。…耐えれていればだが」
「…!」
「何も知らず、ただ私の同僚であれば良かったんだ。
 嗅ぎまわらなければこんな惨めな『患者』ではなく晴れやかな『医者』でいられたのになマーク先生?」

 インサニアはベッドの横に並べている道具に向かい、手を伸ばす。
 医療器具もあるが、ほとんどは工具だ。
 マークに点滴で薬品を投与する。痛みが緩和されるはずだ。あくまで緩和。
 白衣を脱いで袖を巻くって手斧を手に取って、マークに微笑む。

「ソレもういらないよな。壊してやる」
「っ!!!!」

 インサニアの視線は股間に向いていた。
 マークは暴れる。しかし拘束ベルトでガチガチに固定されているので逃げられるはずもない。
 治療を含めた処置を楽しんだ後、インサニアは室内にある水道で付着した血を洗い流す。
 白衣を着てマークに背を向け歩き出すインサニア。

「また来るよ。お前の分の仕事もしなくちゃいけない」

 それだけ告げて病室をでた。






 インサニアには二つの顔があった。
 表の顔であるベレッツヘム病院の医師。
 裏の顔は依頼を受けて患者を殺す医師である。
 無論、裏の顔を表で接する者たちは誰も知らない。
 薄々感づいている者もいるであろうがマークのこともあり探りに来ない。
 マークは見せしめのようなものでもあったから。
 裏の仕事は主に患者の身内や知り合いの依頼により患者を殺す。
 患者を殺すことに抵抗は無かった。損切の手伝いのようなものだから。
 表の立場さえあれば良し。あとは小遣い稼ぎという感覚なのだ。
 今回の依頼はエリザベス=ピエロニの暗殺。父親からの依頼であった。
 彼女の心臓の手術は成功し、今後彼女は回復に向かい始めるだろう。生きていれば。
 真夜中、インサニアは静かに病室に入りポケットから携帯用アンプルケースを取り出し中から小さな注射器と薬を取り出す。
 針と薬をセットし、少女に手を伸ばす。

「やっぱり殺しにきた…!」

 エリザベスが身を起こしインサニアの手を払っていた。
 しかしその表情は苦しそうだ。

「だめだよ、治療魔法で傷口が塞がっていても体力は回復してない。安静にしないと…」

 笑顔を貼り付けたような顔で言うインサニア。
 本来なら麻酔がまだ効いているはずなのに、と内心苛々する。

「パパね!?パパが殺せっていったのね!?」
「そうだよ、君のパパが殺せって言ったんだよ…」
「うぐぅ!!!?」

 インサニアはエリザベスの口を塞ぎ被さる様に押さえ込んで腕に注射を打つ。

「君の死因は心臓マヒだ。手術は成功したけれど、予想以上に心臓が弱かったってことになる」
「ぐっ…うっ……」
「安らかに眠れ」

 インサニアは病室を出て行く。

「がはっ…あっあぁぁぁ…!!!」

 胸元を握り締めて身悶え始めるエリザベス。

(苦しい苦しい苦しい苦しい……)

 エリザベスの目が見開く。

(殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる…パパも皆もみんな死んでしまえ!しんでしまぇぇぇぇ…)

 す…と少女の表情がまるで眠っているようになり息を引き取った。



    ◆◆◆◆



 街にある酒場の奥のテーブルに二人の男がいた。
 片方はとても機嫌が良さげに酒を飲んでいるがもう片方はテンションが低く、置かれた酒にも手を出していなかった。

「先生、ありがとうございました」

 機嫌の良い男が懐から金の入った袋を取り出しインサニアに渡す。
 この男がエリザベスの父である。
 なぜ殺したかったのかという理由は気にもならなかった。

「どうもありがとう御座いますピエロニさん」

 簡潔に言いながらインサニアは中身を確認する。
 この男は喜怒哀楽の喜と哀が抜け落ちているのかもしれない。
 金が欲しい、ただそれだけ。金貨を眺めていると心が落ち着く―――
 不意に、身体が重くなった気がした。

「あ…?」
「先生?」

 インサニアの手が伸びて来て一瞬不思議がるピエロニだが、顔が強張る。
 ピエロニの懐にあった銃をインサニアが奪い、銃口をピエロニの顎に押し付けていたのだ。

「パパ、地獄に行きなさい」

 引きつった笑顔でいうインサニア。
 その目は焦点が合っていなかった。

「ヒッ――――」

 ピエロニの悲鳴は銃弾によって途絶え、銃声によって気づいたウェイトレスの悲鳴が響く。

「地獄にいけ地獄にいけ地獄にいけ」

 狂ったように呟きながら即死しているピエロニを撃ち続けるインサニア。
 かつん、かつんと、銃弾が切れてもずっと引き金を引き続ける。
 そんな彼の影が赤色に変色したかと思えば泡立って広がり、何かが勢いよく溢れてきた。
 血色の異形のモンスター。
 人間の二倍の大きさもあるモンスターがインサニアの影からどんどん溢れてくる。
 腰の抜けたウェイトレスや逃げ惑う客の頭を握りつぶす。

「なんだこれ!?開かねぇぞ!!!!」

 逃げようとした客が出入り口を叩く。
 壁のようにビクともしない。
 不気味な笑みを浮かべながら引き金を引き続けているインサニアの首にモンスターの手が伸び、首を締め上げた。

「ひぐ!?」

 正気に戻るインサニア。

「なっ…!?がはっ…」

 もがきながら肉色の手を銃で殴りなんとか逃れ、銃を撃つ。カチン。

「くそっ弾がない!…ハッ」

 銃を投げ捨て振り向いた瞬間、呆然となるインサニア。

「…な、んだ…これ……」

 モンスターに虐殺される人間達の地獄絵図。

「ぐぅ…!!」

 再び首を締め上げられる。
 他の者たちは軽々と捩じ切られているのにインサニアの首を絞める化け物は苦しませようとしているかのようだった。

「がぁっ…ぁぁ……」

 ジタバタと苦しむインサニアは、他者の血を浴びながら数分後に意識を失った。








「生存者は先生を含めて3人です。先生以外はもう正気ではなく…」
「……」

 点滴を見つめながら看護婦の話を聞くインサニア。

「私を襲ったモンスターは…?」
「いなかったそうです。酒場のドアを開けたら血が流れてきたとかで…ひどい有様だったようですけど」
「…なんだったんだアレは」
「今は気にしない方が…先生が心配で…、あぁ、そうだ先生…こんな時にいうのも、ですが…マーク先生が亡くなられたそうです。」
「なに?」

 視線を看護婦に向けるインサニア。
 看護婦は目を潤ませながら、

「自殺…だそうです」
「……そうか……」

 もう逃げられないと悟ったのか…『見舞い』、楽しかったのに。
 インサニアは目を閉じる。
 酷く身体が重い。誰かが…小柄な少女が上に乗りかかってくるような、重い感覚。
 どこが重いとかは具体的にいえない。重い、ただなんとなく身体が重い。
 疲れているのだ、ゆっくり休もう…ゆっくり、ゆっくり……

「きゃああ!!!?」
「なんだ!?」

 目を開くインサニア。
 あのモンスターが看護婦を襲っていた。

「た、助け…」

 首を捻られ、ポイっと捨てられる。
 モンスターはインサニアの首を掴む。

(か、身体が動かない!?)

『んふふふ、ふふふふふ…!』

 少女の笑い声が響く。

『先生…ご機嫌いかが?』

 半透明のエリザベスがインサニアの身体を通って姿を現す。

「え、えり…!?」

『戻ってきたわ。…というより天国に行かなかったわ。この世に留まった、という表現が適切ですわね』

 エリザベスはくすんだ色をした髪を掻き上げる。

『先生に纏わり付いていた憎悪が私を核として集まったの。その力は想像以上よ…地獄から魔物が呼べるほど』
「ぐっぅ…」

 顔を歪ますインサニア。

『ほほほほほほほ!苦しめ!苦しめぇぇぇぇぇぇぇ私達の苦しみを味わえ!!!』
「な、んで……わたしが……」
『何ですって?』

 モンスターの手が緩まる。

「なんでわたしがこんな、目に……悪いのは、殺せと言った患者の身内だろう!?」
『先生も同罪よ!本当ヒドい性格ね…!人の命をなんだと思ってるの!』
「ぐぁぁ!!!」

 モンスターに殴られる。

『先生、そこにペンが落ちてるんだけど拾ってくれます?』

 エリザベスが指さしながら呟く。

「な、何…?」

 床に看護婦のペンが転がっていた。
 身体が勝手に動く。
 点滴の針を引き抜いて、ベッドから這いずり落ちるとペンに手を伸ばす。

「なんだ…?なんで身体が勝手に…!」
『私が操っているからよ。怨みの糸は先生の全身に巻きついているの』
「やめろ…なにを…」

 真っ青な顔でペンを凝視する。首が動かないのだ。

『先生は痛みを知ったほうがいいわ。』
「ぎゃああ!!!!!」

 ペンを無造作に脚に突き刺す。

「やめっ…やめてくれぇぇぇ……」

『たしかワザと麻酔なしで患者を切らせたことありますよね…とてもとても痛かったそうですよ』

 休まずペンを突き刺すインサニアに微笑むエリザベス。

「あれはわたしじゃないっ…医療ミスだ…違う、わたしはっ…」
『細工したのアナタじゃない…視てるのよ、霊は』
「やめて…やめて……」





「先生!」

 医者と看護婦がドアを開く。

「ひっ…ここも…」

 看護婦の死体を見て立ち竦む。
 その死体の横で、座り込んで自分の足にペンを突き刺しているインサニアがいた。

「なにやってるんですか…!」

 医者が駆け寄ってインサニアを揺する。
 インサニアの目の焦点があっていない。

「やめ…やめて…やめ……たい…痛い…痛い…」

 ぶつぶつと呟きながら手を止めず機械的に動かしている。
 もう両足は血だらけであった。

「正気じゃない。インサニア先生を抑えて」
「はい!」






「例の事件の最後の生き残りです。他は全てモンスターに殺されたそうです。
 関係のない看護婦や患者も殺されましたが、インサニア先生だけは生き残っていて…」

 カツカツと足音を立てながら歩む医者が後ろからついてくる神官に言う。

「ショックで正気を失ったのかと思いましたが、どうやら夜だけ正気を失い幻覚を見るようで」
「幻覚ですか」
「えぇ、鎮静剤などを投与しても静まらず一晩中…正気を保っているのは先生の精神力が強いのだと思います。
 ただの気狂いではなく…悪魔に憑かれている可能性もあると思いまして。」

 ハッと軽く笑う医者。
 この街の住人は酷く信仰心がない。
 神官の立場は弱いものだった。この街は異常であると神官が感じるほどに。
 神も悪魔も存在はしているが、神官に何ができるのだ?という態度なのだ。
 まるで作為的にそう擦りこまれているかのようだった。

「インサニア先生もエリザベス…あ、亡くなった患者なんですが、その子が出てくると言って…」
「なるほど…」

 相槌をうつ神官。

「ここです」

 インサニアは病院の地下病棟、以前マークがいた病室で拘束されていた。
 医者はドアのロックを外し、神官を中へ招く。
 顔を顰める神官。

「邪悪な気が漂ってます」
「悪魔ですか?」
「悪魔とは少し質が違うような気もしますね…とても冷たい…」
「殺気だ」

 拘束されたインサニアが呟く。

「とっととエリザベスを追い払ってくれ。このままじゃ呪い殺される」
「怨まれるようなことをしたのですか?」

 神官がインサニアに問う。

「ハッ…するわけないだろう!むしろ感謝される側だ!わたしはあの娘の命を救ったんだぞ!」
「でももう死んでいらっしゃる…」
「心臓が手術に耐え切れなかったんだ、手術は成功したがそのあと死んでしまった!逆恨みだ!」

 吠えるインサニア。

「人が理由もなく他人を呪うだなんてことはそうそうないのですが…」

『インサニア…罪を認めないのか……』
「マーク…!?」

 突然の声に怯えるインサニア。
 医者の悲鳴が響く。

「がはっ…」

 医者の胸から布のようなものが無数に生えていた。
 包帯のようなものや拘束ベルトのようなものが混じっている。ただ通常のそれらよりも鋭利な…刃物のような雰囲気を放っていた。
 崩れる医師の後ろに人影があった。
 その姿はマークであるが肌の色は土色で、口から舌を噛み切ったかのように多量の血液が垂れ流れている。
 両手の袖から無数の帯が溢れていた。
 これでマークが後ろから襲い医師を殺めたのだ。

『こうやって貴方への怨みが蓄積されていくのよ…うふふ、その内耐え切れなくなって貴方は地獄に沈むでしょう』

 エリザベスが現れる。

「お前がこの死霊たちを操っているのですね」

 神官が構える。

『そうよ、私がこの中で一番強いでしょうね?』

 呪文を唱え始める神官。
 マークが神官に襲い掛かるが浄化の光を浴びせられ掻き消される。

『みんな死ね!みんなみんなみんなみんなみんな』

 ぼこっ…ごぼ…と音を立てながらインサニアの影からモンスターが湧いてくる。

「なっ…地獄の者…!?」
『しねぇぇぇぇぇ!!!』



     ◆◆◆◆



 インサニア以外の地下にいた者全員が殺された。
 手に負えなくなったベレッツヘム病院はインサニアを教会に渡し、インサニアは教会地下で拘束されていた。

「どうして誰もわたしを助けてくれない……」
『わたしを誰もどうすることもできないわ。わたしは魔女になったもの』

 エリザベスの声が耳元で囁かれる。

「黙れ黙れ黙れ!!!消し去ってやる、お前なんか絶対に消し去ってやる…!!!」

 キィ…と牢の扉が開いた。
 神官が数名はいってくる。

「インサニア・テネブラルム…君の処刑が決まった」
「なぜだ!私は何もしていないのに!」
「一種の呪いと化している死霊たちは君が罪を認めない限り、おそらく消えないだろう。
 しかしこのままにしておくのも君に苦痛を与え続けることになる上に被害も広がる。」
「だからってなんで殺されなくちゃいけないんだ!」
「君の周りで何人呪い殺されたと思っているんだ。その殺された者たちも呪いに取り込まれているんだぞ。
 今こうやって会話しているが、私たちだって君に巻き込まれる危険性があるんだ」
「わたしには関係ない…!勝手に取り込まれているだけじゃないか!
 わたしは何も悪いことはしてない!むしろ依頼をしてきた奴等が悪魔だ!」
「君は医者だろう。命の重さを知らないとは言わないだろうな?
 命を物のように軽く見ているように思うのだが…命とは尊いものだよ」
「わたしは…わたしは……」

 項垂れるインサニア。反省しているわけではない、必死にどうにかならないかと頭がそっちへ回るのだ。

「死にたくない…死にたくない…なんでわたしだけ、なんで!皆死んでくれ!皆だ、そうだ皆!
 依頼してきたやつ全員死ね!わたしだけなんて不公平だ!!」

 神官たちは顔を見合わせため息を吐く。

「もう決定してしまったことだ。今から祈り罪を悔い改めなさい」
「うあああああああああ!!!!!ここから出せ!死にたくないぃぃ死にたくなぁぁぁい!!!!」

 暴れるインサニアだが、神官たちはその重い扉を閉めた。

「なぜだ…わたしは何も悪くない…なぜだ…何故……」

 虚ろな目でぶつぶつと呟く。

「死にたくない……」

 その黒い瞳は深淵のように深く暗い色だった。






 処刑方法は火炙りであった。
 これも揉めた。
 形だけ縁を切っているとはいえバール十貴族に席を置くインサニア家の血筋の者なのだから非公開の斬首でいいのではないか、苦痛を求めるのならストゥルニ家の慈悲の杯(強い苦痛を与える毒杯のことである)でいいだろう等、話が出たが各方面から横やりがあり、インサニア家当主もインサニアの所業と被害を見て諦めた。
 損切だ。それだけのこと。
 事件の原因は盛大に処刑して終わらせよう、それだけ。

「インフェルノがきたぞ!」
「前から思ってたんだよ俺は。あの先生ヤバイってサ」

 ざわざわと声をあげる野次馬達。
 もはや『インサニア先生』と呼ぶものはいなかった。『インサニア家』の名を使うのは憚れたのもある。
 悪行も暴かれた今、彼のことは呪いでの殺戮もあって皮肉を込めて『インフェルノ』と呼ばれているようである。

(インフェルノ…地獄、か……)

 ぼんやりと心の中で呟くインサニア。
 自分の影と地獄が直結している今、笑えない。自分自身が地獄の化身になったような錯覚に陥ってしまう。
 しぶとく暴れるインサニアを無理矢理十字架に貼り付ける処刑人たち。
 そこでふつふつと怒りがこみ上がってきた。

「不公平だ!なんでわたしがお前達の罪を背負わなくてはならないんだ!
 わたしが何をした!?お前たちの代わりに殺しただけだ!死刑はお前達の方だろう!」

 叫ぶ。無論その者たちは牢の中にいるのだが、インサニアの知ったことではなかった。

「…最後まで悔い改めないか。…火を放て」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 絶叫するインサニア。
 火が燃え上がってくる。
 熱い、イヤだ、死ぬのはいやだ。死にたくない死にたくない、死にたくない――――



    ◆◆◆◆◆



 気が付くと、インサニアは地に倒れていた。

「何…?うぐっ」

 足が痛い。火傷を負っていた。火炙りは現実に起こったこと。

「なぜ助かった…?」

 足に回復魔法を施しながら辺りを見回す。

「あぁ…エリザベス…お前がやったのか」

 周りは血の海であった。

『貴方を殺すのは私よ…あと、皆同罪だもん…当然よねこの有様って。
 うふふふ、ふふふふふ…あははははははははははははははははは』

 壊れた笑い声が響く。

「…」

 立ち上がるインサニア。

『どこにいこうというの先生。このステキなお花畑を満喫しないの?』
「お前を消し去る方法を探す。きっと腕の立つ悪魔祓いがいるはずだ」
『無駄なこと。ま、この街にはもういられないでしょうしね。逃げましょうね先生』
「うるさい!」
『私達を殺して受け取ったお金いっぱい溜め込んでるものね、旅路に不自由はしない…。
 お金をそんなにためてどうする気だったの?』
「金があれば…自由に生きられると思ってた。死んだ母さんも喜ぶだろう…と、思っていたのに」
『今からでも自由に生きれば?あはは』
「お前のせいで自由に生きられん!絶対に消し去ってやる!!」

 憎悪の篭った目で宙に浮かぶエリザベスを睨む。

『そんなことできやしないわ…せいぜい苦しむことね先生』


 そうしてインサニアは旅に出た。
 当ても無い旅に。



    ◇◇◇◇



「くそっ!」

 銃が弾切れになり、インサニアは刀を抜いて血色のモンスターを斬る。
 しかし浅い。

「くっ…」
「大丈夫か!?」

 男の声と共にモンスターが真っ二つになり、掻き消えた。
 異国の剣士風の男がインサニアに声をかけ切り裂いたのだ。
 男は残りのモンスターをも切り裂いていく。

「セイスイったら張り切っちゃって…」
「地獄のモンスターみたいね…どうしてこんなところに」

 剣士の仲間なのだろう、同じく異国風の服装をした青年と、ハルバードを背負ったシスター姿の女がいた。

「あなた、大丈夫?」
「わたしに関わるな」

 刀を鞘に納めながら言う。

「関わるなっていっても…戦い方素人丸出しだし…訳ありそうな顔してるし…」
「は?」
「終わったぞー」

 剣士が戻ってくる。

「ありゃあ一体なんだ?この辺のモンスターじゃねーぜ」

 三人はインサニアを見る。
 ため息を吐くインサニア。

「あれは……わたしの影から出てくるモンスターだ」
「ふぅーん?」

 女はインサニアの影を見る。

「…邪気を感じるわ」
「何聖職者らしいこと言ってんだよ」
「私は正真正銘聖職者ですっ!」

 剣士にいう女。

「じゃあわたしの呪いを解けるか!?」
「ムリよ、多分。なんか刺激するとヤバい気がする。解呪しようとすると反射してくる、呪い返しの類の気配があるわ。
 私よりもっと浄化能力のある人間はいると思うからその人に頼んで」
「浄化より殲滅が得意だもんな」
「うるさいわね。うーん、でもこのまま放っておくのも心配だなぁ…」
「あんな戦い方見せ付けられるとなぁ…」
「…」

 インサニアは黙って彼らに背を向け歩き出す。

「待てよ、一人でどこ行く気だ」
「放っておいてくれ」
「ダメよ、聖職者的に貴方を放っておけないわ。」

 女がインサニアを引き止める。

「私には具体的な解決方法はできないけれど、浄化してくれる人を探すのを手伝うことはできるわ」
「え!?面倒見る気なの!?」

 青年が声を上げる。

「いいでしょ?どうせ私達も一人旅がつまらないから集まってるだけだし目的ができるのはいいことよ」
「そ、そりゃーそうだけど」
「貴方もいいでしょ?」

 女はインサニアに言う。
 確かにあの苦戦するモンスターを一瞬にして駆逐してくれたし、彼らはかなり強いのかもしれない。
 旅に慣れているようだし、何かと便利かもしれない…。

「私は花梨。こっちの青いのが山本青水、そっちの黄色が片山飛剛」

 服の色で名を紹介する花梨。

「どういう説明じゃ。ンまぁよろしくなー」

 頭を抱える剣士、青水。

「黄色って…なんかヤだな…黄色だけどさ。よろしく」

 呆れた表情をする青年、飛剛。

「白い人、貴方の名前は?」

「白…わたしか…。わたしの名は、…インフェルノだ」




END
↓↓当時のあとがき↓↓
サスパパのお話でした
かなり酷い性格ですがラクリマとラブロマンスを繰り広げてもこの性格は直らなかったようです(ぇー
↑↑ここまで↑↑

誤用していた表現を修正、描写不足の部分の追加、あとで生えてきた設定の追加(インサニアの実家とカルロのおうちの毒杯ですね)、テンポの悪いセリフ回しなどを修正しました。
本筋はまったく変わってなくてそのままです。

当時掲載した第一話原文→こちら

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