インサニア直々に、バイスの目の前に置かれる料理はパスタ。
平打ちパスタに肉がメインのソースをあえている。インサニアが作ったものだった。
バイスは感動している。母の手料理は初めてだ。
「インサニア先生も料理が作れるのですね」
そして意外にも思ったので思わずつぶやいてしまう。めんどくさそうにはしていたが作れるのは凄いことだ。
「だいぶ俺と練習したけどね。食費ケチる悪癖があるんだよ。最初なんてパスタに塩ふっただけだもん」
「まぁ…」
具なしパスタ、美味しいかどうか以前に偏りすぎている食生活で体を壊しそうである。
マークがインサニアの食事の面倒を見ていた理由はそのあたりにあるのだろう。
ひとつ謎が解けた気分になるバイスだ。
ともあれデスレプブリーク式食事のお祈り(実りをいただきますという意味合いの祝詞を呟く)をバイスとマークはして一口。
「薄味…」
「また!ケチった!」
「腹に入れば味なんか解らなくなるだろ…」
二人の反応に眉を顰めながらインサニアは静かに食べる。
「ソーセージ安物だ!赤ワインこれ入れてないでしょ!?あとちょっとずつ減らしてるよね!」
手厳しいマークの批評が始まっている。
そこまで言わなくても…と思わなくもないバイス。
「なんで引き算していくの!?バイスくんに美味しいものを食べさせようって話したじゃん!」
ああそういうことかと理解するバイス。
マークはバイスのことを思って余計に怒ってしまっているのだ。
しかしインサニアは詫びることもなくちょっと視線を逸らすだけだ。
「…マーク担当かなぁって」
思わず笑ってしまうバイス。
「いいですよ、薄味でも気にしません。これがお母様の味ですからね」
「お母様じゃない」
「いいのバイスくん?怒っていいんだよ?いや怒ったほうがいいよ?」
「食になるとデスレプブリーク人は煩いな。」
「僕はなんでも美味しくいただけますので気になさらないでください。ありがとうございますマーク先生、気にかけていただいて」
「ううー、インサニアのせいで俺の計画が上手くいかないんだよー。
もっと、こう、あったかい感じの家庭を感じてもらいたいのに」
「高望みしすぎなんだよ。私たちの家庭を思い出せマーク、一般的な温かい家庭だったか?」
「う、うーーーん」
インサニアは母方のみ、マークも途中で母方のみだ、しかし家族団らんは知っている。
あんな感じの…ゆるやかな家族を望んでいる。
「……」
マークはインサニアの顔を見つめる。
「…片方がインサニアなんだよねぇ」
「なんで私のせいで出来ないみたいになってるんだ。まぁ、そうなんだろうが。
バイス、物足りなければオリーブぶっかけろ」
「そういう足し算するなら良いソーセージ買おうよ…」
呆れるマーク。バイスはちょっと考えて言われた通りオリーブを掛ける、もちろん少しだけ。
でも油分が増えただけで美味しくはない、ソーセージに含まれる旨味が必要なのだからオリーブにその旨味があるはずない。
マークは美味しいものを食べさせたがっているが、美味しくないものを食べるのはこれはこれでいいのかもしれないとバイスは思う。
不味いものは散々食べてきたのでその上の「味気ない、美味しくない」というのはちょっと新鮮に感じてしまった。
母の味だからというのもあるだろう。
しかし母はこれで十分食べれるものと感じているらしい。
自分の壊れた舌に母の舌は近いのだなぁと知れてちょっと嬉しかった。
「ふふ、インサニア先生がまた同じものを作るときは教えてくださいね。ソーセージ買ってきます」
「ほら、美味しくないんだよ」
「若いから濃い味が好きなんじゃないか?」
「……なるほど?だから俺も濃い味を求めてるんだ?若いから」
「は?なんで自分も若い側へ入り込もうとしてるんだ?現実を見ろ」
「ふふ、ふふふふ」
なんだか楽しくなって笑ってしまう。
お父様の前では絶対に出来ないことだ、笑っても二人は怒ったりしない。
いつの間にやら、バイスは3人で一緒に食べることが楽しくて好きになっていたのだ。
パスタはソーセージとエンドウ豆の自家製タリアテッレというやつを参考にしています。
なんかソーセージをミンチにして色々混ぜて1時間煮込んでる。