ラミレスルート

「ウォレスさん」



 ―――リチャード


 優し気な声と、頭を撫でてくれる優しい手の感触。
 母代わりの女は母と呼ぶには若かったし夜の仕事をしている関係で帰ってきてすぐ寝てしまう。
 でも帰ってきたときに出迎えると名を呼び頭を撫でてくれるのが嬉しかった。
 真っ黒に穢れてしまった心になったあとでも、それだけは綺麗な思い出だった。


「リチャードさんって呼んだ方がいいですか?」


 マークが金色の目を向けてラミレスに問う。
 その目も出会った当初…戦時中はナイフで抉ってやろうかとも思ったことがある。
 今もまぁ、出来ないことはないが。
 ラミレスは手を伸ばしてマークの頬を撫でる。

「なぁに?急に」
「クラレンスさんがラミレスさんのこと本名で呼んでるじゃないですか。
 俺も一応家族だから呼んだ方がいいのかなぁ?って思っただけですけど、どうですか?」
「…家族」
「家族ですよ?」
「肉奴隷じゃなイ?オマエの生活って」
「そんなことないですよ!ちゃんと家事やってるので俺は一応主婦なのでは!?」

 監禁先で自炊させられてるだけでは?とラミレスは思うがマークはそう感じていないらしい。

「…リチャードって呼んで欲しくナイワネ…」
「…そうですか」

 しゅんとなるマークが可愛くて面白くて、ラミレスは笑ってしまう。

「おもしれぇーなオマエ、別に名前なんてドウでもよくナい?」
「親しくなれてる感じがするじゃないですか、名前で呼び合うのは」
「そういウものぉ?」
「そういうものですよ」
「フぅん?」

 ラミレスは目を細めて宙に視線を這わせる。

「でもリチャードって呼ばれるのは嫌。これは特別だから」
「そうですか…」

 母代わりの女の声を忘れたくなくて。
 メアリーの声を覚えていたくて。
 なのにクラレンスは上書きしようとしてくるが。やめろと言ってるのにリチャードで呼んでくる。
 嫌がらせとかではない、あいつは悪意なく素で嫌なことをする天然のクズだ。大嫌いだ。

「特別にウォレスでイイわヨ。二人っきりの時だけね」

 目を輝かせるマーク。

「ウォレスさん!」
「こんなんで何デ喜ぶのォ?オマエすげー安上りなんですケド」
「俺にとってラミレスさんに近づけるのはラミレスさんの大好きな宝石並の価値があるんですよ。
 んふ、ウォレスさん」

 ほわほわと微笑みながらマークはラミレスの名をもう一度呼んでラミレスの手に頬を寄せる。

「可愛いわネェ?」

 ラミレスは親指でマークの唇をこじ開けてそのままキスをした。