ホラーか?(ヒトコワ系)
バイス10歳。一人で学校に通っている。
実家が太いため送り迎えが当たり前なのだが、マークと話し合って徒歩で行かせてもらっている。
将来のことを考えて甘えてはいけないとバイスは思ったのだ。
自分は「あいじん」の子であり「おうち」はサスペリア異母姉のものであるから。
自分自身の将来はどうなるかわからない。
一人で何でもできるようになっておかなければ困るのはバイスなのだ。
バイスは幼いながらにそう理解していた。
帰るために路面電車に乗る。
通学路でもあるため自分のような子供や少し上の年齢の学生たちが多い。
今日は帰ったらおやつを食べて母とお勉強をしよう、そう予定を頭の中で組み立てていく。
「バイスくん」
「?」
不意にバイスの頭上が陰ったと思ったのと同時に声を掛けられる。
大人の男の人の声、父ではないし知り合いの声でもない。
顔を上げると緑髪の男の人が微笑みながら屈んで自分と同じ目線の高さになる。
「だれですか?」
「お父さんの友達だよ。バイスくん今帰ってる途中?このあと予定とかない?」
「はい、家にかえります」
「ちょっと寄り道してお兄さんと一緒におやつ食べない?」
「なぜですか?」
「バイスくんにおやつを食べさせたいだけだよ!怪しくないよ、変なこともしない!」
必死である。
遠くで乗客が「車掌さんに連絡したほうが…」「ストゥルニの―――」とざわざわしている。
すとぅるに、バイスはこのおじさんが誰か解った。
お父様とお母様が気をつけろと言ってた人物、カルロである。
どうしようかな、とバイスはちょっと視線を宙に泳がせて再びカルロを見る。
「いいですよ」
頷くバイス。下手に抵抗して連れ去られるのは不味い気がしたので頷いた。
「ありがとう!」
手を握ってくる。お父様より大きな手であったが優しくふんわりと握ってきた。
「次で降りようか!」
「じゃあ停車場の近くにあるスイーツ屋さんに行きたいです」
大きな声でハキハキ言う。
「いいぞー。抱っこしても良い?」
「はい」
抱っこされるバイス。いつもの母親よりも視線が高くなったのがちょっと新鮮だった。
父にこうやって抱っこされたことないなぁ、と気づく。
カルロが小声で「ちっちゃいなぁ」「インサニアもこれぐらいの軽さ…」と不穏なことをぶつぶつ言っているが聞かないほうがいいだろうとバイスは思った。
二人は飲食ができるスイーツ屋さんに入る。
「インサニアって甘いもの好き?」
席についてから不意にカルロが問うてくる。
「おとうさまですか?んー?」
メニューを眺めながらバイスはどうだったかなと母の言葉を記憶から掘り返す。
「…おかあさまが言ってました、ストレスではっきょうして甘いの好きじゃないのにかくざとうをむさぼりはじめたとき怖かったって」
「…あぁ、あの時か?あれ砂糖だったのか」
なにやら友達同士の共通エピソードだったらしい。
お医者の仕事での事件なのか戦時中での事件なのかはわからないが。
「バイスくんは甘いもの好きなの?」
「ふつうです。ぼくはなんでもおいしいです」
「いいことだなー」
笑うカルロ。
これだけだと良い人だ、だがあの父が気をつけろといっていたので油断してはいけない。
「これにします、たべきれなかったらたべてくれますか?」
「いいの!?」
「はい」
「すごい、友達っぽいやりとりしてる」
友達というより親子っぽいのだがバイスは何も言わず店員を呼んで注文し終わる。
バイスは甘いものは好きな方である。脳を活性化させるには糖分だから。
特に好物というものもないかもしれない、バランスの良い栄養があるものを食べればいいのだと理解しているからだ。
なんでも美味しい、苦手なものは苦みのあるものだがこれはまだ自分が子供だからだと思う。
タルトの器にクリームやフルーツがいっぱい乗ったものが運ばれてきてバイスは食べ始める。
カルロはずっと眺めている。
お母様が眺めてくるのとなんか似ていた。
いやらしい感じが無いのだ。見守っているような感じの視線だ。
油断してはならない、バイスは父の言葉を思い出して姿勢を正す。
タルトは意外と食べきれるかもしれない。
「おひとつどうぞ」
さすがに食べさせないのは悪いかなと思ったバイスは上に乗るフルーツをフォークで刺してカルロに差し出す。
「ふぁ…友達どうしのやり取りしてる…」
絶対に違うと思うがバイスは突っ込まず待つ。
感動をひとしきり噛みしめた後カルロはフルーツを食べる。
「一生忘れないねバイスくん」
「きもちわるいです」
思わず正直に言ってしまうがカルロは聞いていないようだ、自分の世界に浸っている。
このひとなんなんだろう、とバイスは思うが理解しちゃいけないんだろうなと思った。
「ふふ、友達と買い食いノルマ達成…次は友達と公園で遊ぶんだ…」
「………」
やっぱりこの人こわいなと思うバイス。意味がわからなさすぎて。
そもそも友達ではない。40代のおじさんの友達は10代の自分にはいないのだ。
ふとお店がざわっとしたのでバイスは振り返る。
納刀した刀の先で肩をトントンしながら入店してくるインサニアの姿。
お父様の表情がキレている。
「カルロ=ストゥルニ…私に手間ァかけさせるんじゃない…」
「ひゃあ、いんさにあぁぁ…」
ビビリ散らかすカルロ。
「おとうさまだけなのですか?」
お母様がくると思っていたバイスは思わず問う。
インサニアは舌打ちしながら窓の外を指してバイスに伝える。
バイスは窓の外を見る―――普通なら見えないがレーニ家の目をもっているバイスは見えた、銃を構えている母の姿。
カルロをいつでも狙撃できるぞということだ。
小さく手を振ると母も手を振り返してくれた。
「呼びだされて…このガキを回収するためだけに呼び出されて…私の時間、どう返す気だ?ええ?」
「ごめんって…気の迷いが…ちょっと、ちっちゃい頃のインサニアの面影を追っていたらちょっと気が迷って…」
反省してなさそうなカルロはインサニアに刀で小突かれている。
あまり騒ぐのも周りに迷惑だし、痺れを切らした母が狙撃したらお店の窓が割れて余計に迷惑をかけてしまう。
バイスはそう判断して椅子から降りる。
「おとうさま、かえりませんか?」
「あ?…はぁ、そうだな」
インサニアはバイスを抱き上げる。
歩く早さがトロくさいからという理由で抱き上げたがバイスは気にせず純粋に嬉しかった。
「おとうさま、おみやげほしいです、おかあさまたちのぶん」
「はあ?」
「らくりまおかあさまにもおいしいケーキ、たべてもらいませんか?」
「………」
インサニアはしばし考えてカルロに振り返る。
「おい、買え」
「はい…」
カルロを財布にし、インサニアたちは家に帰った。
その間バイスは父に抱かれていて嬉しかった。
もちろん母に抱っこされているのは嬉しいが、父でも嬉しい。
マークが食後にみんなで食べようねと言ってくれて、夕食後が楽しみになった。
◇◇◇◇
子供たちが引き上げたあとのダイニング。
ラクリマとインサニア、そしてマークがまだ残っていた。
「バイスちゃんに何事もなくてよかったわ」
ラクリマは胸をなでおろす。
「油断したよ。まさか人の目を気にしないとかどんだけ追い詰められてたのか…。
そんなに小さい頃のインサニアって可愛かったの?」
「かわいいわけないだろ!くそ、ガキのころに私にしたかったことをやりたいだけだ。
一緒に下校して一緒に遊んで一緒にお泊りする!?!?!?頭沸いてるだろ!!!」
「きっしょ…」
インサニアとラクリマはドン引き。言葉も辛辣。
「そういう…性癖ってこと?えっと…自分が子供になる?って感じの?」
「……」
マークに頷くインサニア。
「ただのロリコンだと思ってたけど怖いよ…バイスにこれ以上の怖い目に合わせられないね。
次やったら殺そう」
「それがいいぞ」
インサニア家は一致団結した。