マークは時間が有るときは心の癒しを求めて格納庫に向かう。
 愛機(勝手に量産機を改悪した)を愛でるために。
 今日はカルロも一緒についてくる。
 マークがやらかさないようにという見張り役だ、やらかすとはなんだとマークは思うわけである。(無自覚)

「あ、思い出したぁ」
「何だマーク?」

 ふと、マークが気の抜けた声を上げた。
 首を傾げるカルロ。

「フレッド=クラレンスってどこかで聞いた事あるなーと思ってて、思い出したよ」
「へぇ?」
「FCシリーズの設計者だったはず」
「なんだっけFCシリーズって」
「ほら、カルロも小さい頃にテレビとかで見たこと無い?古いタイプの作業用機体」
「んー…あぁ、あれか」

 思い当たったのか声を上げるカルロ。

「今じゃもう見かけない作業用ロボかぁ」
「その設計した人だったと思うんだよねー。FCシリーズ俺あんまり好きじゃない。クセあるんだもん」
「急にディスるじゃん。ああ農業で使うから…」
「うるさいなぁ!」
「FCシリーズ素晴らしいじゃないかっ」
「ひぇぇ!?」

 後ろからグワシッと両肩をつかまれ悲鳴を上げるマーク。
 こういうパターンだと9割近くはインサニアなのだが、今回は違った。

「き、キュルテンさん…!?」
「FCシリーズは素晴らしいんだよ?」

 さっきよりも力を込めて呟くキュルテン。
 正直、顔が真顔で凄く近くだから怖い。

「いやっその何かわからないけどすみませんっ!!」

 半泣きで謝る。うかつであった、自分のきらいなものでも他人にとっては好きだったりするアレ。
 逃げようとジタバタするが、キュルテンの力が強い。

「レーニ先生は乗ったことあるみたいだね?FCシリーズ」

 マークを逃がさまいと捕まえたまま問いかけるキュルテン。

「はぁ…作業用のハインケルにしょっちゅう乗ってましたが…農業の手伝い程度ですけど…」
「あぁ、ハインケルか。小型だから操縦は楽な方だったな。」
「はい、そういわれてますね…でも物凄い窮屈で…。キュルテンさんの推しはなんですか?」
「メッサーシュミットは良いぞ。フォッケよりもいいぞ。
 FCシリーズを生み出したクラレンス博士は素晴らしいね」」
「いやぁぁぁぁっ何か怖いっ!怖いですキュルテンさん!!!」

 もしかして自分も他人にいろいろ語ってるときってこんな感じなのかな、などとちょっと気づくマーク。
 農作業を手伝わされていたためFCシリーズには良い思いではない。
 型も旧型で今のように乗り心地も良くない。
 薄暗いしコクピット内は狭いし操縦は難しい、視界は180度が限界…まず閉所恐怖症の人は乗れないだろう。
 ただ一般人でも購入しやすい価格と改造(カスタム)のしやすさは良いかもしれない。
 今じゃFCシリーズより良いものが出ているが。(椰弓重工製など)

「ところでクラレンス博士ってMAPW開発してた人でもあるんだよねー…FCシリーズは黒歴史だったりして」
「えぇっ!?」
「いや冗談です…って、どうして俺はキュルテンさんに抱きしめられてんの!?」

 肩を掴れていただけだったのにいつのまにか後ろから抱きしめられている。
 インサニアとはまた違った感じだ。
 インサニアだとなんだかフワフワしてて柔らかいのだがキュルテンはやはり軍人だからかしっかりと肉が付いており制服と相まって硬い感じがする。

「いや何か…抱きしめたくなる背中だからつい…」

 にっこり微笑んで答える。

「インサニア先生以外に抱かれるのは嫌い?」
「えぇっ!?どうしてインサニアがでてくるのそこで!」
「いやーいつも抱きつかれてるじゃないか」
「そ、そーだったっけ……」
「あーマークが浮気してるー」
「浮気じゃないよ!」

 カルロのボケにツッコミをいれるマーク。

「レーニ先生はからかうと面白いな」

 マークを解放するキュルテン。

「それじゃ」

 手を振って去っていく。

「あの人かわってるよね…」
「クセは強いな」
「うん…」

 頷くマーク。

「…マークの趣味っぽい感じだよな」
「趣味!?趣味ってなに!?」
「男の好みだよ」
「男って…俺は女の子が好きだよ!ただインサニアは…ほうっておけないっていうか…」
(それカノジョがいうセリフじゃねーの?)

 頬を赤く染めて、カルロから視線をそらしながら呟くマーク。彼女ヅラである。


「暴力は、イヤだけど心配なんだよね。インサニアってどっかいっちゃいそうな感じじゃない?」
「そうか?結構神経ズ太いけど…」
「普段はそうだけどさ…なんかね、そんな感じするんだ。
 キュルテンさんはちょっと変わってるなって思うだけで別にそんなことないんだけど…」
「ふーん。いつも思うけど、お人よしだよなぁ。」
「…良い顔してほしいんだ。笑ってて欲しい」

 それだけ呟いて微笑む。
 いつもと違う、ちょっと眉を顰めた笑み。
 カルロはそれには触れずにマークから視線をそらせる。

「よし、そろそろ戻るかー」
「そうだね」



   ◆◆◆◆



 マークは一人、通路を歩く。
 勤務を終えたので医務室から自室に帰宅中だ。
 ラグナロクは広いわりに人数が少ないせいなのか、人の気配がなくてちょっと寂しい。
 今日の出来事を思い返す。
 そんなに自分はインサニアを気遣っているのだろうか…。
 ただ、人の泣く姿や壊れた姿を見るのが嫌なだけだ。
 戦争で死んだ父の姿、戦争で負傷し心を失ってしまった兄。
 その姿を見てどれだけ絶望したことか。
 しかし、母親は強く明るく振舞って…あぁ、自分もそうなりたいと―――

 『医者になりたい』

 マークなりの決意だった。
 絶対に笑顔が見たいわけじゃない、ただほんの少しだけでも心を暖かくさせることができればと思った。
 出来ているのかどうかは、よくわからないけど…。

「あれ・・・?」

 ぽろぽろと涙が零れ始めて慌てるマーク。

「あれ、変なの…」

 久しぶりに父と兄を思い出したからだろうか。
 涙が溢れてくる。
 兄が生きていれば今頃自分より少し大きな姿に成長しているんだろうか、とか余計なことばかり浮かんでは消えていく。
 マークは袖で目を擦りながら駆け出した、その時―――

「うわっ!?」

 誰かとぶつかって後ろへ倒れるマーク。

「大丈夫か?」

 相手はキュルテンだった。

「だ、大丈夫です…」
「そうかい?泣いてるけど」
「えっあ、いやこれは違う…」

 キュルテンがマークを掴んで立たせる。

「……」

 しげしげとマークを見るキュルテン。

「喧嘩…でもなさそうだな。私の部屋がそこだから何か飲んでく?」
「えっそんな気を使わなくても!俺全然大丈夫だし!」
「泣きながら言われてもなぁ」

 苦笑しながら言うキュルテン。

「今日のセクハラのお詫びだと思って」
「セクハラのつもりだったんですかアレ…」
「冗談だよ」

 キュルテンはマークの肩を抱いてすぐ近くのキュルテンの自室へ招いた。
 味気ない部屋だった。
 インサニアも味気ない部屋だがキュルテンもだ。
 もともと備え付けられているベッド、たった一つの椅子の周辺は衣類が少々散乱しているが、それぐらい。
 趣味っぽいものが感じられない。

「あ、しまった…何も面白くない部屋だな。ベッドに座って」
「はぁ」

 普通は椅子だろうにベッドと言われてちょっと気になったマークだが素直に頷く。
 キュルテンはインスタントのコーヒーを注いだカップを二つ手に取り、片方をマークに渡すと椅子に座った。
 もしかすると椅子の方が落ち着く人なのかもしれない。
 ベッドの上に衣服を散らかす人はよくいるがキュルテンのベッドはそんなことはない。
 逆に椅子がそんな目にあっている。

「落ち着いたみたいだな」
「あ…ごめんなさい。こんなこと今まで無かったんですよホント」
「人間だから情緒不安定になることだってあるさ」

 優しく微笑むキュルテン。

「インサニア先生に慰めてもらったほうがよかったかな…?」
「だっ…だから俺とインサニアはそんなんじゃないんですっ!!!!」

 顔を真っ赤にして叫ぶマーク。

「え、そうなの?首にキスマークついてるからてっきり」
「!!!!!?」

 手で首を押さえながら耳まで真っ赤になる。

「……」
「……」

 キュルテンの優しい笑みが痛い。

「あ、あの…ほんと…俺、女の子好きだし…インサニアにはちゃんと家族が……」
「顔赤いよ」
「……」
「レーニ先生といると和むね」
「えっ…」
「虐めたくなっちゃう」

 そう呟いてクックックッと笑いを抑えた声を漏らす。

「いじめっ…!?」

 思わず立ち上がり、カップを落としコーヒーを零してしまう。

「あぁぁぁっ!!ごめんなさい!」

 慌ててカップを拾う。
 割れていなくて良かった。

「足にかかってない?」
「大丈夫です…」

 汚れた床を拭うキュルテンに答えるマーク。

「ほんとにごめんなさい」

 しゅんとしているマーク。

「気にしないでくれ」
「でも……」

 その続きはいえなかった。口をキスで塞がれる。

「っ…!?」

 そのまま押し倒されるマーク。

「んっ…んぅっ!……っ……」

 キュルテンの下でもがくが、退けられない。
 舌が潜り込んでくる。
 そのままキュルテンの袖を握り締めて、全身でビクビクと震えていた。

「はぁ…」

 解放されて熱い息を吐くマーク。

「いきなり何を―――」
「やっぱり他人のキスは嫌だった?慰めようとしたんだが」

 マークの柔らかい唇を指で撫でながら呟くキュルテン。
 その笑みを浮かべたままであるキュルテンの黒い瞳は何の感情も映すことなくマークを見下ろしている。

(あぁ…あの瞳は……)

 インサニアがマークを強姦した時の瞳だ。
 惹かれる、何故か心に惹かれてしまった瞳だ。

「怯えた顔も可愛いな…」
「や、やめて…」
「ここ、こうなってるのに?」

 股間のものを揉まれて思わず声を上げるマーク。

「そ、それは生理的なものでっ…やめて、俺こんなことしたくない…!」
「インサニア先生にもそういうこと言ってる?」
「え……」
「もしかして心の中で、かな? その姿とても魅力的だと思うよ?」

 キュルテンは優しい声色で囁きながらマークの頭を撫でる。

「…インサニアも、そう思ってるかなぁ?」

 思わずそう聞いてしまった。
 何故か解らない、キュルテンをインサニアと重ねて見てしまったせいかもしれない。

「思ってるんじゃない?」

 キュルテンの手がマークのネクタイを解く。

「いやっ…」
「やっぱりダメ?」
「だって、その……」

 小さくため息を吐くキュルテン。

「…じゃあここだけ」
「っ!?」

 素早くズボンをズリ下ろされる。

「やぁぁ…!?」

 熱を帯び始めていたナニをキュルテンに咥えられ悲鳴を上げるマーク。
 キュルテンは気にすることなくフェラを始める。

「やっ…あぁぁ…」
「ん…やっぱりここにもキス痕が…」
「ひゃうっ…」

 口を離し、手で扱きながら太ももの内側のキス痕をなぞる様に舌で撫でてくるキュルテン、震え上がるマーク。
 キュルテンはその反応を楽しむように愛撫をする。

「や…もう、だめ……」

 涙を流しながら訴えるマーク。

「うぁっ…」

 強く扱き上げられて果てる。
 そしてぐったりとベッドに身を沈めた。

「寝ていいよ」
「ふぇ…?」

 顔を上げてキュルテンを見るマーク。
 キュルテンはもう既に足を組んで椅子に座っていた。
 慌てて身を起こし、身なりを整えるマーク。

「…怒らないんだ」
「え……あ……」

 マークは困った顔をする。

「その…そんなに嫌じゃなかったから、いいです。でももう止めてください」
「可愛い反応だったのに」
「男としての自信なくなってきた……」

 肩を落とすマークに苦笑するキュルテン。

「俺、もう帰ります」
「あぁ、残念」

 キュルテンはドアを開く。
 マークが部屋を出ようとしたとき、キュルテンはマークの肩を掴んでそのままキスをする。
 今度は優しいキスだったのでマークは呆気に取られた顔をしていた。

「おやすみ」

 そういってマークを部屋から押し出すとドアを閉めた。

「………」

 しばらく呆然としていたマークだが、口を押さえて真っ赤になった。
 インサニアとまた違ったアプローチをされたら困る。
 只でさえインサニアと重ねてみてしまっているのに。
 あの瞳がいけないのだ。
 マークは自室に向かって走り出した。
 あの瞳、何も映さない暗い瞳。

 キュルテンには悪いが――あの―――


 狂気の瞳 に 自分はとても惹かれている。



 END

↓↓↓当時のあとがき↓↓↓
FCシリーズネタで終わるはずだったんですがキュルテンが妙に可愛かったので浮気するマークを書きたくなったんですが、なんか違う。
↑↑↑ここまで↑↑↑