クローンとして生まれてきたのに心が生まれてしまったのは仕方が無い。
 それを受け入れて生きていくしかない。
 周りもそんな感じだった。
 しかし自分がクローンだからなのか、それとも周りが少し違うのか、どうも馴染めない。
 周りの人間は基本的に良い人だ、冗談も通じるしそれはいい。
 だが、どこか冷たい…機械的な冷たさではなく人として何かが冷め切ってしまってるような―――
 ユカはそれを「お葬式みたい」と言うことにした。

「クローンいっぱい作って冷凍してどうするの?出荷でもすんの?あ、なんかそれマグロみたい」
「貯蓄する。それだけ」

 淡々とした口調でユカに答えるユウカ。

「もしもの時のためにね」
「ふぅーん。冷凍装置が壊れたらどうする?」
「……」

 ユウカは答えず無造作にデスクの上にある通信機のボタンを押す。

「ヒゴウ、至急冷凍装置の点検を。」

 それだけ呟いて通話を終えた。

「…ミリィか」
「あのさ…なんか哀しくなってくるんだけど…そんな慣れた態度取られると」
「念には念を。で、ミリィか?」
「大丈夫だって、ただちょっと思ったこと言っただけだって。気にしすぎ〜!」
「油断ならない。私は他人は信用しない主義だ」
「さいですか…」

 肩を落とすユカ。
 ミリィというのは椰弓家の次男だ。ユカと親しい。そしてやらかすのだ。

「なんでそこまで真剣なのか私にゃ解りませんよ…例の計画だって集団自殺みたいなもんじゃん…」
「社長の意向に従っているだけだ。…それに私たちは長く生き過ぎた。
 そして簡単には死ねない身体…誰か殺せる者を探しているのかもしれない」
「え?」

 ユカは意外そうな顔をしてユウカを見た。

「ひっそり暮らすって選択肢はないの?」
「今までひっそり暮らしてきた。もう十分だ。人間の精神の老化は止められないようだな」
「心って老化すんの?」
「モノのたとえだ。…お前でもいいんだ、私を殺すのは」
「やだよー、私そんな悪趣味じゃないもん。他の人にあたって」

 苦笑しながら手を振るユカ。

「そうだな…」

 フ…と、ユウカは笑った。


   ****


「やっぱりYFシリーズはエネルギー出力が安定してませんね。無茶なエンジンにするから…」

 レイは資料を見ながら呟く。
 彼は文句ばかり言うのが癖らしい。何かと文句を言っては勝手に悩んでいる。
 昔からまったくかわらない癖だ。
 ユウカも資料を眺めながらため息を吐いた。

「不安定さの言い訳を考えておかないとな。説明しても理解を得ることが出来るか難しい」
「どういうことですの?」

 アヤカはユウカに問う。

「今のエンジンはパイロットの気力や意思に反映して出力の上限に毎回差が出てしまう。
 意思が強いほど、装甲が強化されたり…運動性が飛躍的に向上したり…サイコシステムと似たようなモノ。
 精神エネルギーの性質上仕方が無いんだけど」
「一定基準は保られているのでしょう?ならば「気にするな」と言っておけばよろしい」
「そーですねー」

 アヤカの無茶苦茶な結論に反論することなく頷くレイ。

「では、お茶にいたしましょうユウカちゃん♪」
「そうね…」






 社内にあるカフェにやってくるアヤカとユウカ。

「あらカナウ。こんなところにいるだなんて珍しいですわ」
「これはこれはアヤカ様。んー、欲しいアイテムが剥ぎ取れない…」

 何やらフォークを咥えたまま携帯ゲームとにらめっこしている椰弓重工の社長。
 テーブルの上には冷め切ったコーヒーと食べかけのケーキ。

「仕事は?」
「山本が頑張っている、と思う」
「部下の行動を把握したらどうですか?」

 ユウカとアヤカは社長と同じ席に座る。

「あ、そうだわカナウ。レッケンベルとの合併の話ですが、上手く行きそうですわ」

 咥えていたフォークを落としてびっくりした顔でアヤカを見る社長。

「…あれ、本当に合併しちゃうんだ……?冗談だったのに…」
「悪質な冗談ですわね」
「いや…社長らしいこと、言っておいたほうがいいかなって…思って…なんとなく…」

 ゆっくりした口調で答える社長。
 なんともはた迷惑な話である。いつものことなのだが。

「もー、青水が頑張ってくれてるんですのよ。」
「優秀な部下だ」
「いや、やつの場合実験体になってるより外回りの方が気が楽だからじゃないのか?」

 冷静につっこむユウカ。
 青水は自分と女の為になら頑張る男だが男のためには頑張らない男だ。

「そんなに実験ってキツいのか?見たことあるけどあんまり解らんかったな。」
「睡眠状態で自身の持つトラウマを引き出させて能力を使わせる、という方法だ。
 それを何度も繰り返すから頭に異常が出てもおかしくない。
 特殊な体の青水だからこその実験だな、やりすぎている気もするが…」
「そこは耐えてもらわないと。だって超能力者の対象方法が必要だし。」
「自分と、青陽のためか…」
「ミリィ…あぁ、ミリィは良い被験者だったな…あいつだけだよ、精神力を物質化して全てを拒むのは…究極の盾だ、あぁ…」

 ゲーム機から手を離して、顔を覆う社長。

「鎮まれ…大丈夫、まだ大丈夫……」
「すまない。ヤツの名前を出してしまった私が悪かった」

 社長に謝るユウカ。

「気にするな、私は大丈夫だ」

 再びゲーム機に手を伸ばす。

「ゲームなんかしてないでケーキをお食べなさい」
「腕がもう一本あれば…」
「お馬鹿さん」


   ****


「ミリィさんと二人っきりでどこかに行くっていうのも悪くないわね」
「そうか」

 ユカは川に足を浸しながらぱしゃぱしゃ歩く。

「紫電直る?」
「問題ない。俺にも解る程度だ」
「ミリィさんがいてよかったー」

 青陽は答えながら淡々と作業をしていた。

「だが良かったのか?俺と一緒に来て」
「別にかまわないよー。ミリィさんのこと嫌いじゃないし」
「俺はお前を一度殺したんだぞ」
「生きてるからいいじゃん。何?後ろめたい?」
「何故か知らないが、お前に対しては後ろめたい。母さんを殺したときは何も思わなかったのに。いや、清々しい気分だったのに。
 お前を殺したときはまったく…」
「……」

 ユカは目を細める。

「目的がないからじゃない?」
「あぁ、そうか」
「ミリィさんってたまにマトモになるよねー」
「悪いか?」
「鬼ってそういうものなの?」
「知らない。興味の無いことだからな」
「そうなんだ。」

 青陽は紫電から離れる。

「直した。移動するぞ」
「らじゃーっ で、どこに行くの?」
「まずは椰弓重工の支配圏から出る。そこからまた考える」
「らじゃー」



END

↓↓↓当時のあとがき↓↓↓
ユカはマイペース。
↑↑↑ここまで↑↑↑