麒麟の人たち
「お前は『力』がなくてよかったな」
そう息子に言う父をただ見つめていた。
力がなければ普通は怒るのではないか、だとか役立たずなのでは、だとか…そんなことをいうのではないだろうかと息子はただ不思議そうに虚ろな目を向けてくる父を見上げていた。
椰弓には特徴があった。
何かしらの異能者が生まれるのである。
しかしそれは氷山の一角に過ぎない、本来の椰弓の『力』は狂気に近かった。
「生まれたときから魂がもともと二つあるんだ」
父、叶は息子の彰に言う。
「たましいがふたつ?」
「自分が二人いる。くっついてる感じ…狭いんだ、とても狭い」
虚ろな目で宙に視線を向けながら叶は言う。
「一つの体だと狭いから『鬼』は場所を奪おうとしてくる。ルミアはそんな感覚しないか?」
「んーん、しない」
首を横に振る。
「そうか…お前は『力』がなくてよかったな」
きょとんとする彰。
「父さん、その『鬼』に体をとられちゃったらどうなるの?父さんは父さんだよね?」
「……」
ぐらり、と父の体が傾く。
「父さん!!?」
倒れた父を揺すってハッとする。
手にべったりと赤い血。手は幼い手ではない、自分の、大人の手だ。
「これは…」
顔を上げる彰。
―――いた、鬼がいた。血塗れたナイフを握る銀髪の鬼。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
悲鳴を上げながら彰はその場から逃げ出した。
外は寒い、あぁ真っ白い雪が足元の邪魔をする。
「兄さん、どうして逃げるんだ。兄さん」
後ろから鬼が呼ぶ。
雪に赤い染みを作りながら。
「逃げるな、殺して兄さんも解放してやる―――」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
飛び起きる彰。
「わぁぁぁぁぁヤな夢みた!ヤな夢みたー!!!!」
叫びながら部屋を飛び出してブリッジまで全速力で向かった。
「竜ぅぅぅぅぅぅぅぅ!イヤな夢みたぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「いちいち報告しにこなくていいです!」
彰に叫ぶ竜。
「だってさ、ミリィがさ、夢の中でさ、オヤジをさ、俺をさ、」
「はいはいはいはいはい良かったですね」
「いいわけあるか!正夢だったらどうしよう…」
頭を抱える彰。非常に顔色が悪い。
竜はため息を吐きながら腰に引っ掛けていた鞭を手に取り、鞭で床を思いっきり叩く。
「正夢になる前に私が彰を殺しましょーか?」
にっこり。
「ゴハンの時間だ!」
ダッシュでその場から逃げる彰。
「チッ」
舌打しながら鞭を仕舞う。
「珍しいことですなぁ。彰はんが悪い夢を見はるのは」
瑠璃がのほほんとした口調で呟く。
「だからっていちいち私に報告しにこなくたっていいんですよ。まったく、一発ぶってやればよかった」
「まぁまぁ」
苦笑する瑠璃。
「どうして私はこんなところで海賊船の舵を握ってんだろう…」
「腐れ縁でしたっけぇ?仲が宜しそうですなぁ」
「腐れ縁というか…学生時代からの友達というか…」
「ええですなー。うちはほら、雇われてるだけでっしゃろ?」
「雇われ…!?」
驚いた顔をする竜。
「あれー?知りまへんでした?沙耶ちゃんも雇われてますえ」
「ぜんっぜん聞いてないですよ。いくら貰ってるんですか…」
「それは秘密ですぅ。」
にこにこしながら答える瑠璃。
「雇われ海賊というのもなかなか経験できへんことですしなぁ」
「まー確かにね…」
疲れた顔で呟く竜。
「バイト代貰おう」
「うふふ、払ってくれるとええですなー」
END
↓↓↓当時のあとがき↓↓↓
超初期設定。
彰がまだ若干明るい。今の彰は病んでます。俺の脳内では。
↑↑↑ここまで↑↑↑
他所様キャラとの絡みのシーンを削除しています。