目の前に顔色の悪い少年が立っていた。
 くすんだ金髪、どこか虚ろな黒い瞳…その目で見上げている。
 そしてスッ…と滑らかな動きで指を指した。

「サリィーナ、お前は今日から私の嫁となるのだ」
「はい?」

 指を指された相手…魔法陣の中でキョロキョロしていた銀髪のサキュバスがマヌケな声を上げる。

「今日から私の嫁」
「わ、わたしがぁぁぁ!?ひょえぇぇぇぇぇ〜!!?」

 サキュバス・サリィーナのマヌケな悲鳴が響いた。






「わたしはその、なんてゆーかー…子供も好きですけど本命は渋いおじさまというかぁ」

 もじもじしながら申し訳なさそうに答えるサリィーナ。
 しかし少年は動じず無表情ともいえる顔つきで口を開いた。

「年なんてすぐ取る。そうすればお前好みの年齢になるだろう」
「はぁ…ってゆーか、どうしてわたし何ですか?サキュバスですよわたし」
「私はお前が良い」
「あぅあぅわたしは良くないです、どうして人間のお嫁さんなんかにぃ?」

 くすんくすん泣きだすサリィーナ。

「あぁ、いい忘れていたが私は人間だが人間ではないぞ。お前だけに教えてやる。誰にも言うなよ、面倒臭くなるからな」
「はいっ」

 大きく頷くサリィーナ。

「私は神族の転生体だ」
「ひぇぇぇぇぇ!?」

 ずざざざざざざっと後ろへ下がるサリィーナ。

「怯えるな。神族といっても下っ端だ。それにお前を召喚するぐらいの魔力しかない」
(それはそれで凄いような…)
「そうだ、まだ名乗っていなかったな」

 少年は少し微笑む。
 その表情に胸がキュンとなるサリィーナ。

「私の名はムニン。一応、魔術師だ」
「わたしはサリィーナですっ!…て、あれ?ムニンさんはわたしの名前知ってましたね。
 どこかでお会いになりました?」
「……」

 サリィーナから視線を外すムニン。

「ほら、私は魔術師だし」
「嘘つくの苦手なんですね♪」

 ニッコリ微笑むサリィーナに呻くムニン。

「こんな話、しても意味はないしお前には関係のないことだ…」
「えぇっ聞かせて下さいよぅ!」
「…遠い昔、私の元となる人間がいた。
 その人間の世界は『宇宙樹』または『真宰礼典(アンミュステリオン)』と呼ばれるシステムを開発していた。」
「どういうものですかそれ?」
「そうだな…過去から未来まで全ての知識を納めたデータバンクといったところだろうか。
 賢者の石…とはまた違うが、多分そんな感じだろう。
 私はそのシステムの番人となるため神族と融合し転生する力を手に入れた…まではいいんだが誤作動で私の意識は別の世界へ飛ばされるようになってしまったんだ。
 肉体は飛ばされた先の世界の物だからこうやって大人しくその世界の住人になってはいるんだが…
 …寂しいだろ」
「ふぇ?」
「寂しいじゃないか、一人だと。寿命尽きるまでその世界の住人の上、知った顔を見つけても他人じゃないか…だから私はお前を召喚した。私はお前を知っているから無理やり契約を済ませてしまえば問題ないだろう?」
「なるほどなるほど」

 こくこく頷くサリィーナ。

「この話はお前と私だけの秘密だ。」
「はいっ!」

 サリィーナはすっかりムニンに馴染んでいた。


   ◆◆◆◆


 漆黒の戦艦を見上げるサリィーナ。
 サキュバスの姿では目立つ、ということで人間の姿を取っている。
 この戦艦はムニンの戦艦らしい。

「あれ…この気配は…」
「中に入れ」
「はいっ」

 ブリッジに到着すると、ムニンは艦長席に座る。

『主、今日は出撃の予定は御座いませんが―――』

 ス…と銀髪が美しい黒服の男が現れる。

「……何してるんですか?」
『え?』

 サリィーナに声をかけられて男が硬直する。

「ゆ、行方不明になった死伯爵さまですよね…?」
『な…あ、あーーーーー!!!!あるじ!なんでサキュバスがこんなところにぃ!!!!?』

 絶叫する男。
 彼の名は死伯爵とも呼ばれる悪魔、ビフロンズ。
 神族との交戦後姿を消したといわれ、死んだのではないかと噂されていたのだ。

「気づくのに遅れるとは…まだ魔力が足りていないのか」

 ため息をつきながら持ち込んでいたお菓子を食べ始める。

『あー!もうだからここで飲食は禁止だと…ってそうじゃない!主、ご説明願いましょうか!』
「そうですよムニンさん!どうして死伯爵さまがここに!」
「拾ったんだ。神族にやられて滅び行くそいつと私は契約を結んだ」
『……』

 居心地悪そうな顔で黙りこんでいるビフロンズ。

「一時的に私の体内に憑依させ魔力を供給させて滅ぶのはなんとか持ちこたえたんだが私の体は少し変わっているだろう?ビフロンズには合わなくてな、で…この戦艦という体を与えた」
『主はやりたい放題ですよね……契約のせいで歯向かえない私をこんな船に…もう仲間と顔を合わせられませんっ!』
「はっはっはっはっはっはっはっ」
『笑うな!!!!』
「そんなに悪くはないと思うんだがな…もう少し内装を魔族っぽくした方が良かったか?」
『もういい……』

 肩を落とすビフロンズ。

「まーまー、死伯爵さまはもともと肉体なんてあってないようなものなんですから〜」
「全然フォローになってないぞサリィーナ」
『魔力が回復すれば、こんな人間など……』
「契約って素敵だね」
『………』

 がっくり膝をつくビフロンズに、サリィーナは愛想笑いをするしかなかった。


   ◆◆◆◆


 それから数十年後―――
 ムニンたちはこの世界の宰と出会った。

「重力を操る機体か、お前らしい」
「…?」

 ムニンの言葉に眉を顰め首を傾げる宰。

「なんかアンタといると調子狂う」
「アンタ、ではない。先生と呼びなさい」
「なんで先生なんだよ」
「お前にこれからいろいろ教えてやろう。言ってたではないか、『俺には特殊な能力なんてないから生きるためには技術を上げるしかない』って」
「いいましたけどね…何を教えてくれるんだ?」

 うんざり顔で呟く宰。非常にテンションが低いようだ。
 あまり好かれていないらしい。

「何でも教えてやろう。そうだな、宰はもともと頭がいいし、魔力も十分ある」
「俺に魔力が?」
「魔術でも教えてやろうか?」
「別にいらねー」
「暇つぶしにはなるだろう」
「アンタの暇つぶしにはなるでしょーけど俺は忙しいんだ」
「気が向いたらでいい、お前の願いを叶えよう」

 呟いて宰に背を向ける。

「あぁ、あと何か相談したいことがあったら言いなさい」
「別にない」
「ははは」
(何なんだあの人は…なれなれしいっつーか…いや、なんかあの人のこと知ってる気分になりやがる)

 低く笑いながら去っていく自称先生の背をしばらく眺めていた。



 
 END

↓↓↓当時のあとがき↓↓↓
超初期設定。 宰はテストパイロット。重力を操る機体に乗っている。(以下ちょっとシナリオに触れるので削除)
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