銀河連邦軍とバール連合軍の戦いは激しさを増していた。
 誰が見ても無謀な戦争であったが一般人には解らないことだ。

「トリエスティが襲撃された…!?」

 母親の声に少年マークは思わずドアを開いていた。トリエスティは父と兄が仕事の都合でそこにいたはずだ。
 母親は真剣な顔で通信相手の話を聞いていた。そして通話が終わり支度を始める。

「母さん、何があったの?父さんと兄さんは?」
「あぁ、街に行って確認してくるから。ゴハンは隣のおばちゃんところで呼ばれなさい」
 マークに微笑んで言う母。
「ほら、そんな顔するんじゃない。すぐ帰ってくるから」
「うん……」

 母はマークの頭を撫でて、慌てるように出て行った。
 その日、母は帰ってこず、翌日に帰ってきた。


   *****


 父はとても優しかったし、兄は怒りっぽい所があったが父と同じく優しい所もあった。
 よくマークをモデルに絵を描いていた。
 兄は絵を描くのが好きで、将来は画家になりたいとマークに言っていたのだ。

「………」

 病院内は呻き声で満ちていた。
 戦争で薬が不十分なのかもしれない。
 苦しそうな声を聞いていると胸が苦しくなってきた。
 母に引っ張られ、マークは兄のいる病室に入った。
 兄の他にも怪我を負った人たちがいた。
 兄は一番奥のベッド…その姿を見て、声が出なかった。
 全身包帯が巻かれている。
 目は開いていたが、虚ろだった。

「ギド兄さん…」

 母の手をぎゅっと握るマーク。

「グイド、マルクを連れてきたよ」
「……どこ?」
「に、兄さん…?目…」

 母に口をふがれる。母を見上げると、厳しそうな表情で首を横に振った。

「…ここだよ、兄さん」

 マークは兄の手を握った。

「あぁ…」

 握り返してくる。

「父さん、は…?」
「別の病室だよ」

 母の言葉にマークは暗い顔になった。
 兄が目の見えない状態でよかったかもしれない、その表情を見られていたら悟られていただろう。
 父はもういない。

「…そっか」
「早く良くなろうね、兄さん」
「おう」

 マークの言葉にギドは答えた


   ****


「どうしたの?マルク」
「…食べたくない」

 母の作った食事を前にして、マークは俯いたまま呟く。

「食べないと」

 母は立ち上がりマークの元へ歩み寄ると、屈みこんでマークの肩に手を置いた。

「しっかり食べとかないと余計に元気がなくなるよ?」
「……」

 マークは母を見る。
 どうしてそう平然でいられるのだろうか。
 どうして、父さんが死んで兄もあんな―――そこまで考えて、マークは気づいた。
 母は強い人間なのだと。元気に振舞っているのだと。
 あぁ、自分も母のように真似れば元気を装っていられるかもしれない。
 自分が塞ぎこんでいれば、母もそうなってしまうような気がする。
 嫌な感情は他人にまで感染してしまうのかもしれない。

「…食べる」

 マークは無理に笑顔を作り、食事と向き合い、ゆっくりと食べ始めた。
 母はマークの頭を一撫でして、席に戻った。


   *****


「目、早く見れるようになりたいな…絵を描きてぇー」

 掠れた声で呟くギド。

「もう少しかかるって、先生が言ってたよ」

 答えるマーク。
 心が痛い。
 兄に対して重要な嘘をついている自分。
 兄の眼はもう治らないと先生に言われた。
 しかしそれを兄に告げるのは兄に死の宣告をしているようなものだ。
 どうしても真実を言えなかった。母も言えなかったから、あの時黙っていたのだろう。

「げほっ…」
「兄さん?大丈夫」

 急に咳き込み始める兄に近づくマーク。

「っ!? 兄さん!!」

 兄の肩を掴むマーク。
 兄もマークの腕を掴みながら顔を歪め咳き込み血を吐き出していた。

「誰か…誰か!兄さんが!兄さんが死んじゃう!!!」






 その後のことはよく覚えていない。
 落ち着いた頃にはもう父と兄の葬儀も済ませていた。
 どうして父と兄が死ななくてはならなかったのだろうか。
 戦争だからだろうか、もうよく解らない。
 悪い人もわからない。
 連邦軍が仕掛けてこなければ、連合が素直に了承していれば、父たちがその街で働いていなければ。

「マルク、ボーっとしてないで手伝って!」
「あ、うん…」

 父や兄の代わりに母の手伝いをするようになった。
 そのお陰が忙しさのあまり考える時間も無かった。
 考えさせないための母の配慮なのかもしれない。
 次第にマーク自身も前向きに考えるようになっていった。
 自分に何ができるであろうか?
 戦争を止める事なんか出来ない、一人の力で出来ることは何だろう?
 いろいろ考えてマークは医者になろうと思った。
 暗い顔をする者を救いたい。それぐらいしか、自分にはできないから。


   ****


 カルロは本を読みながら耳を澄ます。父が何やら話している、誰と話しているのやら。
 連邦の幹部と何か取引の話?
 父の生き方に対して特に何も思わなかった。
 確かに汚いやり方だとは思うが、生きるためなのだから仕方が無いだろう。
 自分の身を守る方法はそんなものだとカルロは思っている。
 身を守るために連邦に尻尾を振って何が悪いのか。
「……」
 本を閉じる。
 物事は小説のように上手く行かないものだ。


   ****


「ただいまテネブレ。」

 配給の食糧が入った袋を手に母親が帰ってくる。

「おかえり」

 インサニアは母親に呟いて視線を教科書に戻した。

「すぐゴハンの支度するからね」

 呟きながら台所に行き、事前に作ってあったスープの鍋に火をかける。
 そして風呂場に向かう。

「やっぱり…」

 ぼろぼろになったインサニアの服が置いてあった。

「また虐められたの?」
「…貧乏人はそんな服を着るなと」
「殴ったの?」
「………」

 返事がない。その相手を殴り返したようだ。

「はぁー」

 ため息を吐きながら頭を抱える母。
 それは怒りではなく呆れだった。

「どういてお前は手を出すんだい?黙って受け流しなさい」
「…だって」

 インサニアは戻ってきた母に振り返りながら、怒りの篭った目を向けてきた。

「母さんの買ってくれた服をあいつらは…!」
「だからってやり返すんじゃないの!」
「………」

 納得のいかない顔でインサニアは母に背を向けた。
 子供だから仕方がない、やられたらやりかえすのが普通だろう。
 しかし母はインサニアに大人の対応を求める。

「…怪我は?」
「ない」
「見せなさい」
「……」

 母はインサニアの服を脱がす。
 痣が無数に出来ている。蹴られたのだろう。
 頬も少し腫れている。

「手当てしてあげる」
「いい、自分でする。母さんは休んで」
「馬鹿いってんじゃないよ」

 インサニアのオデコをつっつきながら母は呟いた。




END

↓↓↓当時のあとがき↓↓↓
あとがき
マーク
兄と父死亡→精神的にアレな感じになってたけどママンのスパルタで前向きに→医者になるよ! という感じ。ママが鬼のようだけどそういう風に振舞ってるんだよ。
カルロ
父親がなんか偉い人(ちゃんと決めてない)、ちょっと冷めたおこちゃま。 この頃は内向的な読書少年。まだ肉体に目覚めてない(ぇ
インサニア
貧乏だからいじめられっこ。短気なのはかわらないのでやられたらやり返す派。喧嘩するから服がボロボロになるんだよ。
ママが強姦される→インサニアを身篭る→子供には罪がないので産もうとする、でもママのママが猛烈反対 →ママ何も持たず家出→貧民層で暮らし始める→お嬢様なので子供だけでも良い格好させないと可哀想 →服と勉強だけは気合入れるママン インサニア家は少し強引な性格してるのかもしれない。
↑↑↑ここまで↑↑↑