正史B

ラクリマさんとの話

 突然声が出なくなって、周りがとっても過保護になって、腕の良い医者がいる病院へ入院させられて。
 ラクリマはその腕の良い医者に毎日口説かれた。
 これがインサニアとラクリマの出会いである。
 手術は無事に成功、傷も塞がっているがリハビリは必要らしくもうしばらく続く入院。


「美しい女性(ひと)だと思っていましたが、声も美しいですね」


 ラクリマの手を取って、低めの声で甘い囁きをするインサニア。
 その暗い瞳からは熱を感じる。
 自分のことが本当に好きなんだとラクリマは理解していた。
 あまり口説くのにも慣れていないのか囁かれるたびにくすぐったい感じがする。
 でもたぶん、ネコ被ってるんだろうなぁとラクリマは思う。
 腕の良い先生、女癖の悪い先生、この二つがよく耳に入ってくる。
 看護婦を侍らせてハーレムみたいなことをしているのも見かけた。
 最悪最低男であろう、おそらく。きっと。


「インサニア先生」


 ラクリマはその声で名を呼ぶ。
 インサニアの目つきがぼうっとする。声に反応して意識が囚われるような―――


「わたしと結婚すると後悔しませんか?」
「後悔?するわけ、ない…」


 ぼんやりした顔で答えるインサニア。


「わたしが魔女と呼ばれても?」
「お前は美しいから、僕はお前が欲しい。僕はこんなに女に対して気になることなんてなかった。
 僕を夢中にさせるお前がなんであっても、魔女だろうがなんだろうが、僕はお前を愛でていたい」

「そうですか、解りました」


 ハッとするインサニア。
 口を抑えて混乱気味にラクリマを見る。

「アナタの想いを理解しましたから、結婚しましょっか」
「い、今のは…?」
「魔女と呼ばれる原因です、怖い?」
「……怖いわけがないだろう」

 そうしてインサニアとラクリマは結ばれた。


   ◇◇◇◇


 ラクリマの異能は声で伝達させる感応能力だ。一種の洗脳のようにも使えるが特定の波長を受け止める人間にしか効果がない。
 そしてインサニアは波長を受け止める人間であった。
 ラクリマの声で好意を持ったわけではないだろう、声の出せない頃から口説いてきていたから。

「ラクリマ…」

 ベッドの上でインサニアに耳元で名を囁かれるとゾクっとしていまう。
 さすが遊んでいただけあってセックスは上手だ。
 飽きたら浮気を始めるんだろうなぁと考える。
 子供が出来たら別れてやろう、なんて思う。


   ◇◇◇◇


 寝室で物音がするのでついに家で浮気かぁとラクリマはこっそりと覗く。
 ベッドの上で絡み合う旦那と―――泥棒猫ちゃんはマーク先生だった。
 あいつ男でもいけんのか、と思ったがそういう噂はない。
 男が嫌いだと本人も言っていたからマーク先生が女の子なのかもしれない。

「いんさにあっだめ、いんさにあ、あぁぁ…らく、りまさん、帰ってき、ちゃっうぅ!!!」

 インサニアに揺さぶられつつも自らインサニアに抱き着き喘ぎながらマークが声を上げる。

「うるさい!」
「うっうううう!」

 仰け反り、足ピン絶頂を迎えるマーク。
 えっちな人だなぁとラクリマは感心する。

「はあっ…あ、あっ?い、んっ…」
「うるさいって言ってるだろ、お前は穴なんだよ。ラクリマが妊娠してヤらせてくれないせいだからな」
「そ、んっ…な…ひぃ!ぁっあ、あぁ」

 片足を持ち上げられ、より深く挿入されていく。
 今日初めての関係ではなさそう。おそらくずっと前からの関係だろう、マーク先生の顔がえっちすぎるので。
 しかし夫はだいぶ溜まっていたらしい。性欲がつよつよ猫ちゃんだったのだろう。
 ラクリマは観察を続ける。普段と違う態度の旦那を見るのがちょっと楽しい。
 DV気質がある。カノジョに対して傲慢で乱暴だ。インサニア的には都合の良い穴なのだろうが。
 もう一発抜いて気分が落ち着いたらしいインサニアはマークを手放しシャワーしに行ってしまう。
 さすがにもう終わりかと思いラクリマはリビングに戻って寝室での出来事に気づかなかったことにした。
 しばらくして二人が来る。
 平然としたインサニアとその横で上着を抱きしめ顔を赤くして落ち着かなさそうなマーク先生。
 マーク先生はシャワーを浴びさせてもらっていないのではないか?ラクリマはそう思う。

「あら、マーク先生いたんですね」
「は、ぃ…お邪魔、してました…もう、帰ります!」

 ラクリマに目を合わせないのは後ろめたいのだろう、早足で出ていく。
 マークに対してラクリマは思うところはない、しいて言うならバカの相手をさせちゃってごめんねである。

「ラクリマ」

 インサニアは微笑んでラクリマの横に座ってハグをしてくる。
 とくに検診の結果を聞くわけでもなく顔を眺めて満足し、手を握ってくる。
 なんだかチグハグな男である。



   ◇◇◇◇


「ラクリマ?」

 両手を拘束されたインサニアは戸惑う表情になる。
 拘束具はインサニアのものだ、ラクリマが見つけた。
 ラクリマはお道具箱からいろいろおもちゃを取り出して感心している。

「こういうのカノジョに使ってるの?エグいわね〜、私も使ってあげるわね」
「なに、を…」
「テネブレのお尻開発してあげるってこと。わたしとえっちできないから、ね?」

 にこっと笑うラクリマ。
 インサニアの顔が絶望に染まった。



   ◇◇◇◇



 ある日おかしなことになっていた。
 インサニアとマークが言い争っている。家でなく職場で喧嘩してくれと思うラクリマであるがどうもマークが泣きながらインサニアに食って掛かっているようで珍しい。

「インサニア、俺のこと捨てるんだろ!?えっちしてくれないのは、そういうこと!?」
「いや、違う」
「じゃあどうしてえっちしてくれないの!」
「あー、こちらの都合が…」
「愛人出来たんでしょ!?」
「違う」

 しどろもどろなインサニア。
 言い出せないのか、嫁に尻を弄られて夜に呼べないと。言えばいいのに。言え。

「俺の身体、変なことにしたくせにぃ」

 泣き始めるマーク。
 さすがに可愛そうだなと思ったラクリマは端末を取り出し画像フォルダを開きながらマークの肩を叩く。

「ふぇ?ラクリマさん?」
「これ見て」

 端末の画像を見せるとマークは泣き止み食い入るように目を開いて凝視する。

「インサニア?」
「は?はぁぁぁぁぁ!!?ラクリマおまえ画像撮ってたのか!?」
「かわいいからね、撮ってるわよちゃんと」
「消せ!!!」
「やーよ。マークさんに誤解させちゃってごめんね、私とえっちできないって文句いってたからお尻を弄ってあげてたのよ。
 そのせいでマークさんの相手してなかったのね…」
「いえ、あの!その、俺の方がインサニアの浮気相手みたいなものなので!?」
「そうよねぇ」
「ご、ごめんなさい!!」

 謝るマーク。

「ラクリマさんっていう相手がいるのに、俺、俺…!」
「でも結婚する前からの付き合いなんでしょ?」
「だ、大学からですけど…」
「長…意外と長かった…。それはもう正妻みたいなもんね。私が寝取ったみたいじゃない?
 別にテネブレがマークさんと浮気してても嫌じゃないのよね、マークさん良い人だから悪いこいつに騙されてる感じがするのかな?
 …わたしが出産したら相手もできなくなるから、マークさんにお願いしても良い?他の女性に被害がいかないように」
「なるほど?」
「なるほどじゃないが」

 つっこむインサニア。
 奇妙な三角関係が出来てしまった。



   ◇◇◇◇



 いつも両手を拘束されてインサニアは尻を弄られている。

「はっ…うっ…んぅぅ」

 枕を噛みしめて声を抑える。
 アナルパールがぶちゅぶちゅとラクリマの手で引き出されていく。

『うわ…これ俺に使ってたやつだよね、インサニアも気持ちいいんだ』
「ひっ見るな、見るなぁ…!」

 マークの声。
 端末で局部を映され映像中継されている。
 その部分はヒクついていてラクリマが引っ張ったのが切っ掛けか、自らゆっくり排出している。

「あら、わたしがひっぱりだしてあげるのに」

 からかうように言いながら捻り出てきた玉を指でついて押し込む。

「ひぐぅっ…!戻さ、ないでっ…苦しっ…ぃ…!」
「お尻揺らして可愛いんだから…あら?」

 ラクリマは大きな自分の腹を撫でる。

「……マークさん」
『はい?』
「なんか、お腹痛いかも」
『え!?今ァ!!?!?!?いや、まぁそろそろなときにこんなことしてるほうがアレだったかな!?』

 だいぶ混乱しているマーク。

「いたたたたた」
『インサニア、すぐいくから見てて!』
「無理…」

 縛られてるインサニアは動けない。本当に見ることしかできない。

『破水してませんよね?』
「たぶん…」

 マークが話しかけてくれるのでラクリマの気持ちが落ち着いてくる、陣痛が襲ってきているが。
 エンジン音が聞こえる。端末の映像にヘルメットをかぶったマークが映っている。
 バイク乗れるんだなぁと呑気に思いつつインサニアをどうにかせねばとなる。
 インサニアをどうにかした犯人であるラクリマはテヘペロと思いながらインサニアを解放する。

「うーん…破水したかもぉ…」
「したかもぉじゃない!バカ、ちょっとまて感染こわいからお前手汚れてるだろ何も触るな!!」
「旦那が医者だと心強い」
「バカ!」



    ◇◇◇◇



 めちゃくちゃ安産ですぽんと産まれた。

「名前はサスペリアにするの」

 病院のベッドの上、にこにこしながら赤ちゃんを抱っこしているラクリマ。

「…母さんがサスペリオルムで届け出しとくって」

 インサニアが端末を操作しながら伝えてくる。

「貴族って大変ねぇ?」
「帝国時代に長ったらしい名前を付けるのが流行ったらしい、見栄だけの問題だな」
「テネブレも長い名前にされちゃってるもんねぇ」
「まぁ、母さんとお前にしか呼ばせないよ、テネブレは」
「特別ね」

 インサニアに頬をキスされる。

「抱っこしてあげて?」
「うっ…」

 差し出され、インサニアはしぶしぶ持つが、本当に持つといった感じで抱きしめない。

「こんにちはラクリマさん、お加減どうですか?」

 マークが顔を出す。

「大丈夫よ。ごめんなさいねバタつかせちゃって」
「マーク」

 インサニアがサスペリアをマークに押し付ける。

「ええ?だっこしてあげなよ?本当子供嫌いなのダメだよ?」

 受け取って優しく抱きしめるマーク。

「あは、かわい〜。インサニアに似てるかも」
「似ててかわいいわよね」
「かわいくない、にてない。」

 むすっとしているインサニア。

「サスちゃんと仲良くしないと離婚しますからね?」
「な…!?」
「もう少し大きくなったら絵本を読んであげてね。」
「嫌…」
「嫌?」
「よ、読みます……」
「インサニア頑張って。そっかーサスちゃん子守歌とかラクリマさんの生歌聞けちゃうんだよね、羨ましいなぁ」
「うふふ、今歌ってあげましょうか?」

 軽い気持ちで軽く歌う。
 サスペリアはぐっすり眠っているので意味はないがマークへのサービスである。
 どた、と倒れる音がして思わず二人はインサニアを見た。

「インサニア?寝てる…」
「やっば、こいつに効くんだった」

 歌を歌う時は気をつけなければいけない、改めてそう思うラクリマであった。