正史B

ネコカフェの猫ちゃん

「マーク先生、休暇の日に映画を観に行きませんか?」

 バイスはニッコリ微笑んでマークに声をかける。

「ラクリマ=カンツォーネが出ている新作映画、お好きですよね?」
「うん、観ようと思ってたんだよー。バイスくんも好きだったんだ?
 一緒に行こう行こう!」
「ふふふ…」

 バイスはチラッとインサニアを見る。
 めちゃくちゃ不貞腐れた顔をしていた。


    ◇◇◇◇


 映画鑑賞の日、バイスとマークは映画館に向かって歩いていた。
 マークは白衣を脱いでいつもの黒づくめである。

「インサニア先生とは観ないんですか?」
「あー、インサニアすぐ寝ちゃうんだよね。さすがに誘うの気が引けちゃって」
「なるほど。勿体ないことですね」
「だよね!?勿体ないよね寝ちゃうの!」
「はい」

 頷きながらそれとなく背後を確認する。
 じっとりとした目でインサニアが尾行している。呆れた顔でカルロが付いてきているので、まぁおかしなことにならないだろうとバイスは思い気にしないことにした。






 少し時間を遡って―――
 目の前でマークがバイスの誘いにOKを出してインサニアは不機嫌になった。
 デートである、目の前でデートの約束をしている。
 バイスがこっちを見てうっすら笑う。
 挑発されている!(してない)
 しかしデートを止めろ、という理由が思いつかない。
 自分がバイスの代わりに、というのも無理だ、映画はダルすぎてすぐ寝てしまう。

「どうしたのインサニア?眠たい?」

 マークが心配げな顔で声をかけてくる。

「眠くない」
「ええー?なんで不満げな顔してるのー?」
「やめろ」

 ほっぺを突っつきに来るので手を払うインサニア。

「お前のせいだ」
「だからなんで?」
「ふふ、嫉妬してるんですよ。インサニア先生もデートがしたかったと」
「デート!?ええー、違うよインサニア、デートじゃないよ」

 否定してマークはインサニアに言い聞かせるように言う。

「埋め合わせにインサニアとどっかいく約束すれば?」
「そうだね、インサニアも息抜きしよっか。どこ行くか考えておくね」

 カルロに頷いてマークは呟く。

「そうじゃない…」

 インサニアは否定するが、今の気持ちを言語化できずに黙り込むことしかできなかった。





「カルロ=ストゥルニ、ちゃんと一緒に見張るんだぞ」
「絶対に俺いらないって」

 髪型を変え眼鏡をし、完璧変装をしたインサニアは後ろにいるカルロにいう。
 カルロは特に変装などしていない。
 マークとバイスが歩いているのを一定の距離を保ちながら尾行する。
 さすがにバイスは気づいており、振り返って薄ら笑いを浮かべたままマークの手を恋人繋ぎで握る。

「ぎぎぎ」
「急に暴れようとするなよ」

 地団太踏み始めようとする気配を察してインサニアを持ち上げて回避するカルロ。
 インサニアの脚がバタついて上手く踏めず鎮まる。降ろす。

「あいつら映画館入ったら帰ろうぜ?」
「ヤダ!帰りに…ホテルに行くかもしれない」
「……うーん」

 否定しきれず唸って何も言わないを選択するカルロ。
 行くかな?行くかも?そんな感じで。

「あー、映画見てる間、俺たち暇潰すのダルいだろ?帰ろ?」
「……どうにかしろ」
「無茶をいう」

 ちょうど二人は映画館に入っていってしまった。
 無趣味のインサニアのご機嫌の取り方を考えねばならない。難題だ。

「どうしようかな…昼だからインサニアが喜ぶ店は開いてないし」
「確かに」
「あ、そうだ。いいとこあったわ」
「本当かぁ?」


    ◇◇◇◇


「大変不本意」

 インサニアは文句を言いながら端末を操作している。
 二人はカウンター席に座って目の前のガラス張り越しに猫ちゃんたちを見ていた。
 ネコカフェに来ていた。
 インサニアは動物全般が苦手(可愛がることが苦手なだけで捕まえることは出来る)なので触れ合える場所とカフェの場所と分かれている店を選んだ。
 ネコ好きラクリマに画像を送るために猫ちゃんを撮っているのだ。

「かわいいかわいい」

 カルロはインサニアを撮る。

「キショ…」
「いいじゃん」
「カルロ=ストゥルニは…私のこと好きなのか?性的に…」
「いいや?」
「だよな。」

 インサニアはカルロに視線を向けることなく端末を見ている。

「お前マークのこと好き?」
「別に好きではない。」
「でもバイスに嫉妬してんじゃん」
「…嫉妬?」

 眉を顰め、カルロを見上げるインサニア。

「所有物を盗られたら不快だろう?それだけだが?」
「それが嫉妬だと思うんだけどなー。恋愛感情抜きで嫉妬って友達が誰かと仲良くしてても沸いてくるからね?」
「口先だけではなくマークのことを友達だと思っているといいたいのか?」
「んー」

 睨まれ、カルロは肩をすくめて視線を逸らす。

「あ、あの黒猫かわいいねぇ。インサニアも猫っぽいところあるよなー」
「やめろ、ラクリマにも言われるんだ。誰がケモノと似てるというんだ。
 不快だ…ラクリマがもっと画像を送れというからやっているが…時間が来たらすぐ出るからな」
「はいはい」

 ふてくされるインサニアに苦笑するカルロ。
 なんだかんだでマークがアレな時はこっちに来てくれるが、友達じゃなくて都合のいい奴隷かシモベかといったところなんだろうんなぁとカルロは理解している。
 そうしてこうやって甘やかしてしまう自分も悪いのだ。
 でもマークのおかげでこっちに接触してくれるのだから甘やかしてしまうというもの。
 こっちから行くと逃げるので。

「…本当猫だよなお前」
「殴るぞ」