正史B

兄弟喧嘩

「ええーキュルテンとハンスくんがついに喧嘩しちゃったのー?」

 艦長はアレマァ…といった様子で報告を受ける。
 キュルテンが耐えてハンスを極力さけていたようだが爆発したらしい。
 艦長は現在も暴れているらしい食堂の様子をモニターに映した。
 キュルテンとハンスは殴り合いの喧嘩をしている。武器は使っていないので理性があったのかな?などと思ったがどうも周りに取り上げられているだけのようで、キュルテンは床に転がってるナイフを拾い上げて突き出し始め、ハンスは避けて距離を取りながらガラスコップを踏み割って尖ってる部分が当たるように投擲し始める。

「コラーーーー!!!周りが怪我するでしょやめなさーーーーい!!!」

 マイクのボタンを押しながら叫ぶ艦長。

『うるせぇー!!こいつ殺して解らせてやる!!』
『艦長!転属したい!転属願いを受理してくれないと止めない!』
「キュルテン、ごめんね君は優秀だけど君のホロコーストを受け入れたいと思ってくれる部隊は――ないんだよ」
『うう、うわああああ!!!ホロコーストが何をやったっていうんだ!ちょっとばかりパイロット含めて全員殺しちゃっただけだろ!!!86人ぽっち!』
「大問題だよ、ぽっちとかいって少なくみせようとしないの。なんでアレ計画破棄にならなかったんだろうね?
 ともかく、すぐにやめなさい。話聞いてあげるから」

   ◇◇◇◇

「喧嘩の理由は別にないんだよ。積もり積もったモノが爆発しただけで…」
「ペーターの目つきが気に入らなかったからぶっ殺そうかと思った」
「ああ?兄さんと同じ目だが?父親譲りの」
「ああああああ?」
「あんたら中学生か?威嚇し合うな」

 艦長が制止する。
 中学校というかもうなんか動物園である。目と目が合った瞬間に縄張り争いである。 

「困ったな…うーん、そうだ」

 ひらめきの艦長。
 それはハンスの監視をラミレスとインサニアがするというものであった。
 キュルテン自体に問題はない、ハンスが煽るからキレるだけなのだ、ならばハンスをどうにかすればいいのだ。
 そこでハンスの言うことをきかせられそうな親子の出番というわけである。

「ルーカスに面倒みせればいいだろ」
「喧嘩を煽ってんだよねぇ」

 艦長はインサニアに応えてルカを見る。
 ルカは可愛くテヘペロをする。可愛くないが。

「兄さんが殺したいというならそうさせてあげたいじゃないか〜」
「ダメだなこれは…」

 インサニアは手で顔を覆う。

「面倒が増える…私は嫌だ、男の面倒を見るだなんて…女が良い」
「……シャドーがそこまでいうなら…女装するぞ…?」
「女装しろとはいってないだろ!?!?!?!?するなよ!!!?」

 ハンスに吼えるインサニア。本当にしてほしくない。
 ラミレスはずっと黙って何か考えてるのか視線は宙を見ている。
 そこで考えがまとまったのかニコリと口端を釣り上げた。

「有意義な時間の使い方、シマショ?」
「なになにー?」

 首傾げ艦長にラミレスは浮かんだ提案をするのである。

    ◇◇◇◇

「コクピットの中が本物とそっくりだな、よくもまぁこんな短時間で…」

 キュルテンは驚きながら戦闘準備をする。
 ラミレスが提案したのはシミュレーションで喧嘩させよう、というシンプルなものだった。
 もちろんラミレスが調整を行うので一般的なシミュレーション戦闘になるわけがない。

『まずは慣らしヨ、調整するから殺し合いな』 

 ラミレスの声。
 ハンスとルカも準備が整ったらしい、戦闘開始アラートが鳴る。
 前方へ飛びながら遠慮なくブレードを飛ばす。
 キュバンスも動き始め初っ端から分離し片方がミサイルを発射しながら突っ込んでくる。 
 ミサイルはブレードに触れ爆発していく。
 生まれる弾幕からの煙幕、その合間から高出力のビームが飛んできてキュルテンはブレードで防ぐ。
 1枚溶けた。

「アルティメットランチャーか」

 ハンスの大好きな武装だ、シミュレーションなのでいろんな武装を積み放題ということを失念していた。
 間隔を開けながらの連射が来る。ブレードの枚数を減らしたいらしい。
 煙幕を突き破ってブァンッと共振音をさせながらルカの機体が細剣型のブレードを突き付けてきた。
 盾のようにしたブレードで打ち払う、ルカ機は気にせずその弾かれた勢いに乗って鋭利な足で蹴ってくる。
 曲芸のような動きだ。
 カンカンカンとリズミカルな金属音が響く。
 ゴリ押しですり潰そうとキュルテンはブレードをルカ機に叩きつけたとき、再びビーム砲が襲いルカ機を貫通してキュルテン機の胸部に命中する。

「ッつ!」

 咄嗟に腕で胸部を守りルカ機の爆発に巻き込まれる。
 これはシミュレーションだし、自爆特攻するのも厭わないルカの性質を完全に失念していた。

『ばぁぁか!死ねボケ!』
()ぁ!」

 爆炎の中をつききって飛び出してきたハンス機はアルティメットランチャーで思いっきりキュルテン機を殴り倒し、その背を鋭利な足で刺していく。
 特機特有の装甲の厚みがあるのでコクピットまで貫通してこないが無論このままではまずい。
 4本足の内1本を掴み引き倒す。
 しかしハンス機はアルティメットランチャーの銃口を頭部に押し当てていた。
 頭部が溶けて、吹っ飛ぶ。
 モニターとセンサーが死んで一瞬暗闇に満ちるが非常灯に切り替わる。
 それと同時に警戒アラートがけたたましく鳴り響き始めた。

『なんだぁ?』

 ハンスもそうらしい、キュルテンは生きてるセンサーを調べて、立体音響でなんとか対応することにした。

「ん?ハンス兄さんなにか足音がしてるが見えるか?2時方向」
『げぇ!』

 ハンス機が飛び上がる音。逃げた。
 それと同時に足音がはっきり聞こえてきて、そしてけたたましいノコギリ音。
 キュルテンはヒッと息を飲む。
 怖すぎて機体の周りをブレードで囲む。

『フリッツに相手してもらいなサーイ』

 ラミレスの声。

『ワタシはなぁ、テメェらのオヤジに迷惑かけられテタんだよ。それはもう、グスタフの次にワタシがノコギリに裂かれそうにナッテんだヨ!お前らも体験しろ』
「「いやああああああ!」」

 絶叫。
 キュルテンは音しかないため完全にホラーである、暗闇の中襲ってくる殺人鬼に怯える被害者だ。
 仮想フリッツ機は身動きの取れないキュルテン機に襲い掛かった。
 ノコギリとブレードの引っ掻き合う嫌な金属音。

「いやだぁぁぁぁ!」

 めちゃくちゃにブレードを暴れさせる。
 フリッツ機に当たっていて欲しい、いや当たっているはずだ、なのにノコギリの音が止まらない。

「兄さん!ハンス兄さん助けて!!!」
『……無理』
「助けろよこのクソボケがよぉ!!!!」
『ああああ!?無理なもんは無理なんだよクソボケ!』
「当たってる!?ねぇ当たってるかなぁこれ!?手ごたえないよぉ!!!」

 キュルテンの語彙力が死んでいる。
 ハンス機の共振音が聞こえてきた。キュルテン機を囮にして一撃で仕留めようとしているのかもしれない。

『死ねやクソ親父がよぉ!!!』

 キィンッと高音が響いて何かが地に落ちる音。

『ひぃ』

 ハンスの悲鳴、爆発音。
 一体何があったのか、何が落ちたんだ?
 左手がクンッと何か引っかかる。

「……あ」

 鉄板は今何枚残っている?
 左手が動かない。

 ―――盗られた。

    ◇◇◇◇

 フリッツ機はノコギリでキュルテン機を守る鉄板を削りながら無造作に片手で別の鉄板を掴み盗ると、飛んできたハンス機をそれで叩き落とす。
 そしてそのまま鉄板をハンス機に刺しこんで沈黙させた。
 あとは残りの鉄板が動かないようにもう一枚、掴んで盾にしている鉄板に刺しこむ。
 刺しこんでいる、貫通させている。
 気持ち悪い現象を起こしながら最後の一枚をキュルテン機に刺しこんだ。

    ◇◇◇◇

「きしょくわる」

 インサニアがモニターを見ながら呟く。

「ええーなにこれぇ、ラミレスさん反則はダメですよ」

 マークが不満げ。

「あいつマジこういうことできるんだってば。金属干渉能力、触れてる金属を望むように変形させるノ
 まぁ本人が記憶障害だから思い出せたときだけやるからあくまで”やる”じゃなくて”できる”ね」

 自分の乗っている機体まで干渉するのであくまでデータ上でこういうこともできるであろう、というものだ。
 シミュレーションなのでそういうものがあってもいいだろうとラミレスは思う。

「……」
「……」

 しんどそうな顔で戻ってくるハンスとルカそしてキュルテン。もう喧嘩する元気はないようだ。

「親父出すのはずりぃよリチャードおじさん…」
「私今日寝れないかもしれない」
「兄弟仲良く一緒に寝な」
「嫌だ!!」
「…シャドー…癒してくれ」

 ハンスがインサニアを抱きしめる。

「癒…!?私を抱いて癒されるか!?癒されないだろ!」
「癒されちゃうよインサニア、俺はハンスさんの気持ちが解るよ」

 うんうん頷くマーク。

「どういう同意だ、やめろーはなれろー!」