正史B

大統領補佐

「甲斐甲斐しく大統領のお世話をしているのはねぇ、それは理由がありますとも」

 クラウディオはへらっと笑いながら紅茶を差し出してくるのでニコラはいつもどおり受け取って飲む。
 給仕の真似事が上手い理由を聞けば、恋人と淹れあっていたそうだ。

「俺の手からのものをなんの疑いもなく口にしてくれるでしょう、アナタ。
 それが嬉しくってね」

 杖がカツカツと軽い音を鳴らし、ニコラの向かいに座るクラウディオ。

「…あぁ、なるほど?無味無臭の毒はあるのか?」
「無味はなかなかないんじゃないかな?何かしら味はしてしまうよ、微々たるレベルだけど、大統領の舌次第かなぁ」
「そうか。まぁお前に殺されても来世があるから別に気にもしない」
「軍人ってみんなそうなんですかぁ?怖いんですけど」
「そんなわけないだろ。僕の精神が強靭なんだ」
「…そういうメンタルじゃないと大統領やらないですよねぇ」

 ニコラに納得のクラウディオ。
 正直言って、ニコラの態度はクラウディオにとって嬉しいのは本当である。
 気づいたのはカルロがクラウディオからの食べものを拒絶しているのを知った時だ。
 また間違えてしまったな、とその時思った。
 息子に毒を盛るわけないのに。
 カルロはカミロの代わりなのに。
 カルロ以外にも、警戒している人間はいるだろう。それに今更気づいたのだ。
 あまりにも自分は、視野が狭い。
 …カミロとベラも自分は間違えてしまっていた。
 サンドラの魔の手から遠ざけようとしただけなのに。
 自分で良かれとやればやるほど間違えてしまう。父と同じなのだ、引っ掻きまわしてしまう。
 ティーカップがカチャっと音を鳴らすのでクラウディオは伏せていた視線をニコラに向ける。
 ニコラはいつもの厳つい無表情で見つめてきた。

「お前は僕の指示通りにしていればいい。僕の補佐をやって身の回りの世話をするだけだ、楽なもんだろう」
「その『補佐』が胃と神経がすり潰されそうなぐらいストレスなんですけど?」
「ストゥルニ家が十貴族の席に座れば同じようなことをやらされてるはずだぞ。
 予行練習が出来て良かったな」
「俺の代で座れんでしょうに」
「日記に書いとけ、大統領の手解きの詳細を。子孫たちはお前を有難がるだろう」
「そうかなー、面倒な出世しやがってと恨まれそうな」
「恨んでる暇があるといいな?」