正史A

暗い瞳を持つ者

 銀河連邦軍にラグナロク部隊がある。
 その部隊は訳ありな娘の保護や訳ありな兵、訳あり機体ばっかりが偶然にも集まり何故か前線になってしまう部隊。
 そこにいる軍医たちも訳ありに含まれてしまうのだろう。
 反連邦軍派だった惑星(現在は降参し軍に所属している)出身だったので。本人たちは気にもしていないが。
 そんな彼らは基本的に医務室にいる。雑務は衛生兵の待機員が行っているので暇な時がある。

「…インサニア」

 マークはキッとインサニアを睨んで呼び掛ける。

「なんだ?」

 インサニアは雑誌から目を離すことなく答える。
 完全にだらけている、背もたれに体重を預けてデスクに足を上げているので行儀が悪すぎる。
 もちろんそれの注意もしたい、したいがマークはまず雑誌に目を向ける。

「えっちな本を読むのやめろ!」
「はぁ?」
「はぁ?じゃないよ!そういうの自分の部屋で読めって言ってるんだよ!」
「……」

 インサニアは黙って雑誌の中身をマークに向ける。

「ぎゃああ!セクハラ!!!!」
「……マークもすけべだから気が散るんだとよ」
「なんだ、そういえばいいだろ」

 カルロの説明にインサニアはため息を吐きながら雑誌を引き出しにしまう。

「確かに気は散るけどその説明は無くない!?公共の場で読むのがおかしくない!?
 俺は変なこと言ってないからね!」
「私のストレス解消になるんだが?なんでここに来て医者の私まで機体に乗らなくちゃいけないんだ。
 私は医者なんだよ!!!!!」
「それは、うん、マークが悪いかな」

 宥めるようにカルロが言う。

「だって!せっかく戦艦の軍医に配属になったし、『ロボに乗りたいか?』って聞かれたらハイ!っていうしかなくない!?乗りたいじゃん、ロボ!」
「お前一人で乗れという話なんだよ!なんで私まで巻き込まれるんだ!」
「いいじゃん」

 マークはきょとんとした顔で首をかしげる。

「なんで嫌なの?かっこいいし興奮する、インサニアもロボ好きになればいいだけだよ」
「こ、こいつ…!急にバカになるのやめろ…!!」

 趣味を押し通す邪悪なオタクにインサニアは勝てない。
 とはいえ通常軍医が出陣させられるのは普通ではない、さすがの銀河連邦軍であっても。
 ただこの部隊が特殊すぎたのと、『惑星シュテルプリヒのバール出身?なら大丈夫じゃない?』という謎の理解を得てしまっての結果である。マークだけはバールではなくデスレプブリークなのだが。バール出身だったインサニアとカルロがマークをアシストしてしまっていた。
 そんなことを知らないインサニア(カルロだけ内情を知っている)はマークにキレて不機嫌にいじけているのである。

「取り込み中ごめんね」

 一人のパイロットが医務室に入ってくる。FCシリーズというフレッド=クラレンス博士が製造した機体の特機を扱うキュルテンだ。
 インサニアはデスクから足を下げて気配を消してスッ…と椅子を滑らせカルロの影に入る。

「どうしたのキュルテンさん」

 マークが対応する。

「整備中にちょっと…」

 処置用の椅子に座り、手に巻いた布を外しながら説明を始める。
 インサニアはキュルテンが苦手である。
 インサニアの顔はキュルテンの知り合いに似ているらしい。それだけなら流すがキュルテンから熱っぽい視線を向けられるのがとても嫌だった。インサニアは男が嫌いなのだ。
 マークはキュルテンの傷口を確認後消毒をして回復魔法を施し始める。
 キュルテンがマークの耳元で何かを囁く。するとマークは顔を赤くして焦る様子を見せる。

「………」
「痛い痛い痛い、インサニア、背中に爪立てるのやめて」

 猫ちゃんになってるインサニアにカルロが訴える。

「痛覚死んでるくせにうるさい」

 今度はゲシゲシ足を蹴り始める。
 そんなじゃれ合いをしている間にキュルテンの処置も終わって彼は出ていく。
 出ていく際にインサニアに視線を向けてニッコリしてきたのでインサニアはゾっとしたわけだが。

「…なにしてんの?」

 呆れた顔をするマーク。

「嫉妬してんの」

 カルロが答える。

「ええ?俺とキュルテンさんになんもないよ?」
「うるさい…」
「大丈夫だよインサニア、俺はキュルテンさんと親しくなってもインサニアとはずっと友達だから」
「親しいのやめろ」
「そんな無茶な。なんでキュルテンさん嫌いなの?」
「……なんか嫌」

 自分に似てるとは言えず、インサニアはそう答えた。


    ◇◇◇◇


 インサニアとマークは同室である。カルロだけ別室。カルロは一人じゃないと眠れないという深刻な理由がある。

「今日は特に出撃がなかったねぇ」
「無くて良かった…」

 心からそう思うインサニア。

「マーク」
「ん?」

 ベッドに押し倒されるマーク。

「あいつに何を言われたんだ?」
「え!?いや、その、それはっ」

 顔を赤くして慌てるマーク。

「あの、えっと…インサニアに愛されてるんだね?みたいなことを…」
「………あいつに誘惑されたんじゃないんだな?」
「キュルテンさんそんなことしないって」
「な、なんなんだその信用度は!」
「インサニアこそちょっと過剰じゃない?」

 首をかしげるマークの態度にインサニアは苛立ちキスをして黙らせる。
 そのままマークのネクタイを緩ませ首筋にキスを落としていく。

「待っ…だめ、ちょっと…!」
「解らせてやる、お前は私の下僕だと」
「や、ちょっ…と、友達だよ!」

 うつぶせに抑え込まれ、ズボンをずり落とされて露出する下半身。
 前戯もなく、ローションをかけられただけでそのまま挿入される。

「やぁっ…ぁ、いん、さにっ…」

 うなじを噛まれ、身動きもできずにマークは喘ぐ。
 しばらく犯されてインサニアの熱がマークの中に放たれる。

「はっ…はっ…」

 解放されるマーク。ヒクつくそこから白濁が吐き出されてくる。

「イン、サ、ニア…イキたい…よぉ…」
「知らん」
「そん、な…」

 インサニアはシャワーを浴びて自分のベッドにもぐりこむ。
 マークもシャワーを浴び、そしてインサニアのところへ来る。

「インサニア、意地悪してたら俺キュルテンさんのところに行っちゃうよ?」
「…なんで?」
「キュルテンさんのが優しいから」
「あいつのところにいったら酷い目にあうぞ、そういう目をしている」

 自分に似ているということは。
 ―――父親に似ているということだ。
 それを言えないインサニアは身を起こし、マークを抱き寄せる。

「私はお前のためにいっているのに!言うことを聞けマーク!」
「解んないよインサニア。どうしてそう焦ってるの?大丈夫だよ、ごめん俺もちょっと意地悪なこと言った」

 マークはインサニアの頭を撫でる。

「俺はずっとインサニアの傍にいるから大丈夫だよ、ね?」
「ん……」

 ちょっとインサニアの機嫌が直ってきた。
 マークは嫉妬するインサニア可愛いなぁ程度にしか思っていないが。

「じゃあ寝るね、おやすみインサニア」


    ◇◇◇◇


 パイロットの部屋は一人一部屋与えられている。
 寝具以外私物のないがらりとした部屋、ぽつんと置かれてる椅子に腰かけてキュルテンはコーヒーを飲んでいた。

『キュルテン、ちゃんと大人しくやっておるか?』

 目の前に黒髪の男の映像が出現する。不死王だ。

「ちゃんとやっているよジャック」

 キュルテンが愛している男に不死王が入っている。ジャックの顔はインサニアに似ていた。

『よしよし、問題を起こされたら困るからな。ちゃんと大人しくスパイしろよ!』
「解ってる解ってる」

 ニッコリ微笑む。
 笑顔の下には色々歪んだものが渦巻いているわけだが。

「愛してるよジャック」
『我はジャックではない、不死王である』

 遠くからの声で『不死王様になんて失礼なことを!』と闇神官の声も聞こえてくる。
 定期報告を終えてキュルテンは残りのコーヒーを味わい始める。
 ジャックはジャックである。
 中身がどうなろうと、ジャックである。
 インサニアの顔を思い出す。ジャックに似ていた、親戚か何かなのかもしれない。
 でもジャックではない。代替品にはなるかもしれないが。
 ズタズタに引き裂きながら犯すのが趣味なのでやれそうではある。
 でもやっぱりジャックとは違う。違うのだ、彼はジャックではない。
 やるならレーニ先生かなぁ、面白そうだし…と妄想に耽る。
 インサニアと取り合うのも面白いかもしれない。遊ぶな、と不死王に怒られるだろうけども。

おわり