正史A

シィナからの視点

 アイレット・シィナはバイスに対して好意的であった。
 顔にも態度にも出ていないが、彼女はそういうものなので仕方がない。
 初めて彼がここに辿り着いたときは必死そうな顔だったのを今でも覚えている。
 焦らなくてもここでは時間がない、だから学びの時間は無限だ。
 シィナ自身も錬金術をアイレットから学んでいるからじっくりと学べばよい。
 そしてアイレットを継承すればいい。
 奴隷から拾い上げてもらい始めはメイドを学び、そして錬金術へと学びを進め、継承を選んだ。
 アイレットは死ぬことはないだろう、ここにずっといるから。
 そして自分も死ぬことがない。アイレットがここに居る限り。
 バイスは外へ行くのだろう、母とやらに会いに。
 母というものがどのようなものか解らないがバイスにとっては大切な何かなのだろう。
 ならば、そのための手助けはするべきである。

「同じ金瞳だから興味が沸いたのかな?」

 アイレットは紅茶を飲みながら笑う。

「解りません。同族なのだろうか、という疑問はあります」
「シィナを拾ってきたのはどこだったかな…?」
「解りません」
「覚えてないかぁ。ま、彼のことは任せたよ。本当に幼いからね」
「了解しました。」

 18歳だと聞いた、年齢が二桁なのは確かに赤ちゃんだ。
 バイスは部屋に籠って本と睨めっこしながら唸っていることが多い。
 魔術と錬金術の知識はエリザベスから取り込んだ分しかないので仕方がないだろう。
 エリザベスは魔女であるから魔女の知識を貰ったと思ったほうがいい。
 真面目に取り組んでいるバイスの努力をシィナは好意的に見る。
 シィナ自身は機械的に知識を得ていった記憶がある。感情があれば苦しんで唸っていたかもしれない。
 残念なことに感情が表面化することがないのである。
 そして人との接し方も解らないのでバイスを眺めて応援するしかない。
 金瞳を見つめてしまう。
 黒髪の合間から見える金色の瞳は綺麗だ。
 この眼はよく見える眼だ、奴隷時代に壁を越えて遠くの場所にいるアイレットを見つめていたからアイレットが自分を拾い上げてくれた。
 ずっと見つめられてて困ったんだよとあとでアイレットに言われたが。

「僕も父も、視力が良いだけで透視はできません」

 バイスに眼のことを聞いたらそういう答えが返ってきた。
 例えばシィナと同族だとして、長い年月の果てに能力の質が落ちたのだとか、そういうことなのかもしれない。
 同族だったらいいな、という想いにシィナは胸元がぽかぽかしてくるのを感じる。
 自分は喜んでいるか、嬉しがっているのだろう。よくわからない。
 もしくは、そうだ―――時間の流れを感じることが嬉しいのかもしれない。
 すると急にバイスを早く外へ出してあげなくてはいけない気がしてきた。
 ゆっくりでいいじゃないかと思っていたが、取り残されてしまうのではないかという焦り。
 バイスが必死なのも、その焦りがあるのかもしれない。
 ここから外に出るときに時間調整はできる、望む時代へ向かうことは可能だ。少々の誤差があるとはいえ。


 継承者の一人として、難しそうにしている時は教えてあげようかな、なんてシィナは考えるようになった。