窓の外は真っ白である。
蒼の時間城は次元の狭間にあると説明を受けたので外は何かしらが渦巻いていたり亜空間ワープのようなプリズムに輝いているのかと意味もなく考えたりしたが、答えは白であった。
「そういえば、蒼の部分はどこ?」
バイスは小さく呟き足元を見る。
この青い絨毯のことだったらどうしようか、なんかありえそうだ、あまりにも師匠たちが適当に生き過ぎていて。
永遠を生きているとおかしくなってくるのだろう。
自分の成長も20歳の肉体で止まっている。
ここに居る間だけの話であるが食事も睡眠も不要。
ただ暇つぶしに出される食事やお茶をいただくことがあるが、食べたそれらはどこに消えるのかと不安になったがここにやってくるヨーコという女が現実改変能力を用いて「ここで食べた物はなんか知らない間に消える」というトンデモ改変を行ったらしい。
逆に怖くなってしまう。無茶苦茶だ。
ともあれバイスは暇つぶしの一環である城の探索を続ける。
無駄にこの城は広いし拡張し続けているらしい。
狭間の大きさに合わせて伸縮するようだ。
狭間が縮み始めたらここはどうなるのだろう、その前にさっさと出たほうがいいのかもしれない。
人の気配に気づいて目を向けると掃除終わりのアイレット・シィナが掃除道具片手に部屋から音もなく出てきた。
「……」
無表情のままバイスを見るシィナ。
父と同じ、自分と同じ金色の瞳を持つ女。少し父を思い出して怯んでしまう。
「その瞳について」
急にシィナが喋り出すので後ずさるバイス。
「私と同じ瞳であれば喜ばしいことだと思います。私は奴隷であったところをアイレット様に拾われましたので出自についてはまったく解らないのです。」
「なるほど、そうだったの。…僕も奴隷みたいなものだったかもね。お父様に支配されてたから」
「私と同じく抜け出せましたね。仲間意識を感じます。アイレット様の後継者になって頂ければより喜ばしいことです」
「それはお断り」
「なぜですか?」
「向いてないよ、僕に錬金術。今でも勉強がいっぱいいっぱいだからね」
「そうですか、残念です」
無表情で言うので残念そうには見えないシィナ。
「そういえば、その部屋って普段鍵がかかってるけどどんな内装なの?」
「普通の部屋です。居候が一人いらっしゃいますけど、視ますか?」
「それは勝手に覗いていいもの?」
眉を顰めるバイス。
「本人の意識はありませんし、部屋の外からなら問題ありません。ただ部屋に入らないように」
扉を開くシィナ。
部屋は他の部屋と同様、『客間』だ。ただ備え付けのベッドはなく部屋の真ん中で金髪の男が俯いて座り込み、黒い箱を抱いている。
黒い箱からは黒い液体が流れ出ていて床を汚していた。
「バイス=レーニの前に来た方です。まだ名前は定まっていません。部屋に入らないで欲しい理由はあの黒い液体は猛毒です。」
「シィナは平気なんだ?」
「はい。」
「この城の中で僕って一番弱い?」
「いえ、ムニンが一番弱いです」
「あ、そうなんだ…」
「はい、死ぬのに慣れていらっしゃるせいで、避けずにすぐ死ぬのです」
扉を締めるシィナ。
「それ、弱いっていうのかな?」
「いえ、不死であっても抵抗しない者は弱い者です。」
「抵抗しても死んだら弱い者だと思うけど?」
「それは勝者側の理屈だと思います。周りの生き残った者は死者を『弱かったな』と思いません」
「…そう?」
バイスは首を傾げながら納得いかない顔のままシィナと共に歩き出す。
シィナの持論は言葉に感情が乗っていたので、経験したことなのかもしれないなとバイスは思う。
シィナの言葉を否定してもそもそも立場や何やらが違うのだから水の掛け合いになるだけなのでバイスは突っかかるのをやめた。
「この城で強い人って誰になるの?」
「…ヨーコでしょうか?「そうなれ」と思った瞬間に書き換えられてしまうのはどうしようも」
「たしかに。ズルくないあの人」
「ズルいです、そもそもこの城に来てほしくないです。無茶苦茶です」
ぎゅっと眉を顰めるシィナ。
表情は動かせるんだなぁと新鮮に思うバイス。
もしかすると不満げな顔しかできないのかもしれない。
自分も笑顔ばかりだ、強要され続けて張り付いてしまっている。
「ねぇシィナ、なんでこの時間城って蒼がついてるの?」
「…この絨毯です」
「……なんで?」
「……さぁ?他に蒼があったとしたら、言えないから絨毯と答えている場合があります」
「あぁ…ね…」