バイスがこの世界に来てラグナロク部隊に拾われたのは運命なのだろうと思った。
神の存在は…まぁ神モドキのような存在を実際に見てきたので否定はしないが信じてもいない。あいつらは信用してはならない。
だが運命を感じるのは人間の性なのかもしれない。
誰の魂を刈り取ろうかと見定めて、決めてニッコリ微笑む。
父譲りの黄金の瞳は千里眼と呼ばれていた。絶対に獲物を逃さない眼だ。
チャンスが来るまでこの部隊に居座っていようと思った。
この部隊は何かしらに突っ込んでしまう運命のようなので。
自機の整備を終えて格納庫を歩いているとマークがいた。
「あ、バイスくん。整備終わり?」
同じ黄金色の瞳でもって声をかけてくる。
バイスは表情を変えることなくニコリと笑ったままだが内心冷やりとする。
マークは苦手だ、心が委縮してしまう。
父と別の存在であると解っていても黄金の瞳が怖い。
息子を息子として見ていない、あの熱の篭った目が怖かった。
息子に『男のインサニア』の面影を追い求めながらも『妻』に手を出すなと牽制してくる男だった。
「はい、マーク先生はどうしてここに?」
「時間が空いてるから見学しにね」
随分と自分の父親と違うので最初はバイスも困惑したが、今は慣れてきた。
もちろん困惑の表情など表には出していないが。
「そうですか。楽しんでください」
バイスはそのままラウンジに向かう。
マークが休憩中ということは他の医者も休憩中だろうか。交代で休憩というのを何故かしていないのでおそらくラウンジにでもいるだろうと勝手に思った。
ラウンジを覗くと数人の乗務員やパイロットと共にインサニアとカルロがいた。
インサニアは脚を組んで偉そうに座っている。
これもバイスが抱くギャップの一つである。『母』はいつも不機嫌そうに俯きバイスをみれば恨みがましく睨んでいた。
かといって父に甘い顔をしていたわけではない、もう周りの全てが憎いといった顔だった。
この世界の母(男であるが)はとても偉そうである、自分中心に世界が回っていると信じ切っている。
そんな母にカルロが甲斐甲斐しく世話をしているのだ。
バイスの世界では貴族といった感じだった男が小間使いをしている。
変な世界だ。
「休憩ですか先生」
二人に声をかける。
「……」
眉を顰めてカルロに渡されたドリンクを飲んでいるインサニア。
インサニアもバイスをどう扱っていいのか解らないらしい。
顔はインサニアの父親の血筋なのに、瞳だけはマークのような眼だからだ。
「インサニア、お返事は?」
「お前がしろ」
カルロに答えるインサニア。
カルロはバイスに視線を送って肩をすくめる。
「僕のこと気に入りませんか?」
「…どうでもいい。男に興味がない」
「僕は貴方に興味がありますよ。ふふふ…ぜひ気に入っていただきたいですね」
インサニアの横に座る。
「運命を感じませんか?」
「運命?」
「そうです。貴方に会うために僕は生まれてきたのかも、とかそういうやつです。
なんだか魅力的に思いませんか?」
「何も感じないから思いもしない」
「ふふ、貴方のそういうところ好きです」
実際好きだった、こういうバッサリと断ち切ってくるのはバイスの好みだ。
「男は嫌い」
インサニアは立ち上がり飲みかけのドリンクをカルロに押し付けてラウンジを出ていく。
「どうも、お前さんとの距離の取り方が解らんみたいだな」
カルロがバイスに言う。インサニアのフォローのつもりかもしれない。
「インサニア先生の飲みかけください」
「嫌だよ俺の金で買ったし俺のだよ…」
カルロはインサニアの座っていた場所に腰かけてバイスを見る。
「インサニアのこと好きなの?」
「そうですね、そうかも?ふふ、実はよくわからないんです。好みだとは思います」
「ふぅん?」
「カルロ司令は僕のこと警戒しているでしょう?いいですよ、警戒してもらって。
僕の遺伝子データも知っているでしょう?ふふ、摩訶不思議な僕」
「本当…」
カルロは顔を顰める。
「こっちになにかしようって思ってないよな?」
「それは、はい。手は出しませんよ。そこはご安心を。色々聞きたいことあります?答えられませんけど」
「いや、いい…こっちに敵対しないなら何も聞かねぇよ」
「いいんですか司令官がそれで」
「良くないけどさー。喋んないだろお前。」
「ええ、そうですね、ふっふっふ…」
楽しくなってくる。相手は自分のことを理解してくれている。
喋るわけないのだ、目的も、気持ちも、想いも、何もかも。
インサニアに下僕扱いを受ける元軍医、しかし今の彼はバイスの世界の彼と同じ『貴族』であり、そして『軍人』だ。
正義の心で動いているわけではない。利益と、組織の円滑な運営を目的として動いている。
純粋な利益を、というならバイスを拷問でもして、そしてバイスの自機をバラしてしまえばいい。
しかしカルロはそうしない。
それは本能的に『アイレットの錬金術師』を感じ取っているのか、それともバイスにインサニアの面影を感じているのか。
彼は理由を付けてバイスを戦力の一つとして扱うことにしたのだ。
この世界の両親に彼のこの割り切り方があればもっと仲良くできたかもしれない。
だが、良いのだ。怪しまれ警戒されるぐらいで。
今更。
父を刺殺した感触はまだ鮮明だ、何十年経とうと鮮明に覚えている。
今更。
母の身体の冷たさ、忘れないだろう。
今更
今更なのだ、そして多分、この世界でやり遂げるのだろう。