幼少期、ひっそりと祈っていた。
神を信じぬこの街では祈りは異質であり、だからこそ真夜中に蝋燭の明かりだけ灯して必死に祈っていた。
自分の将来に安寧を願って。
ただ『神』というものは解らない。姿が無くてぼんやりとしたものだから。
ただ『神』という言葉に対して祈る。言葉はすぐそこにあるから。
カルロは信徒ではない。
ただ都合よく願いを聞いてくれるような存在に祈っていた。
それがいつしか変わっていく。
曖昧な『神』の姿は黒髪の少年へ。カルロはインサニアに惹かれたのだ。
具体的な形を伴ったせいで『神』が近くなった気がした。
なぜインサニアに惹かれるのかわからない。学友から虐められている彼を心苦しく思うが自分が助けにいくという行動に出られなかった。
自分は弱いから。
祈るのも、インサニアの安寧を願っているのかもしれないと言い聞かせて。
いつしか暗闇の中にインサニアを見るようになった。
怖くて目を閉じていた。それは夢だったかもしれない。
ある日のインサニアは黒い箱を持っていて笑っていた。邪悪な笑み。
あぁ箱の中を見せてくれるのだな、とインサニアの前で膝をついているカルロは思った。
箱をひっくり返すと真黒い毒虫を浴びせられる。
動けなかった、身体がまったく動かない。虫を顔で受け止めるしかない。
『ストゥルニ家だから毒虫がお似合いだな?』
インサニアの口からそんな音がした。
インサニアはそんなことを言わない。
カルロはその日から祈るのを止めて、大人になった。
「カルロ=ストゥルニ」
気怠そうなインサニアの呼び声。
いつも気怠そうなので男の名前を呼ぶのが嫌なのだろう。
インサニアは真顔で真っ黒い瞳をカルテに向けている。
「術後処置の引継ぎを」
カルテのデータのやり取りをする。
「インサニア、昼飯まだなら奢るけど?」
「……良いだろう」
少し間があったのはどうするか悩んだのだろう。
インサニアの扱い方は解ってきた、金銭関係で奢れば割と食いついてくる。
その後食堂で合流し、ちゃんと奢ってあげて他愛ない会話を一方的にする。
インサニアは気の無い雰囲気で黙って食べている、その姿を眺めるのが好きだった。
「一緒に食べて良い?」
マークがやってくる。
「勝手にしろ」
「どうぞ」
「何の話してたの?」
会話に入ってくる、いつもの光景。マークはインサニアに気安くできるタイプで、カルロは羨ましく思うのだ。
あんな風になりたいな、と。
あんなコミュ能力の高さはないので無理だが。
そんな日がずっと続くのだろうな、と思っていたらインサニアから唐突に連絡があった。
個人的な、とても個人的な話だった。
インサニアが母を失ったときにアルコールと薬で身を崩したことは知っている。
それから持ち直していたが、それでも薬はやっていたのだろうか?欲しいので持っているかと言ってきた。
ストゥルニ家なので『毒』は一通り持っているし、たやすく手に入るだろう。だから聞いてきたのだろうが。
そこでカルロは欲がでた。
インサニアを招き入れてできるだけ引き留めて、そしてインサニアは昏倒する。
特殊な毒を香で焚いたのだ。
少し香るだけの毒。カルロには効かない程度であってもインサニアには効く。
カルロは大切そうにインサニアを抱き上げてキスをする。
インサニアを独り占めしているという満足感が最高であった。
そっとベッドに寝かせてから手の甲にキスをした。
「うっ…」
インサニアの呻きと指先が震える。
うっすらと開いた目は光を宿していない。インサニアは声も出せず、身体も動かせず、目もよく見えないはずだ。
「可哀想インサニア、怖くない?俺が傍にいるから安心しろよ?」
カルロは耳元で囁き、抱きしめる。細身さを堪能する。これは、ハグなのだ。
無茶苦茶にしたい、という欲はなかった。こうやって傍にいたいだけだった。
「薬代だと思って、な?ちゃんと用意してるからさ…」
「か、る…ろ…」
「お願いだ、しばらくこうさせてくれよ…」
「死、ね…」
言葉の毒を吐いてくる。
嬉しい、ただただ嬉しかった。自分に、カルロに対して言葉をかけてくれるのが。
これ書いた後、当時の小説を掘り返してたらカルロに毒を投与されながらえっちされるインサニアの話書いててこいつ(自分)…ってなりましたね。