正史A

バイスと触手


 バイスは特に趣味はないと自認している。
 閉鎖的な幼少期を過ごしそれ以降は癖のある上位存在たちに囲まれて色々学んでいたので娯楽と言われるとセックスぐらいしか思いつかない。
 しいて言うならば、手慰みにブラフェティスが産み落とした触手の塊で遊ぶのが娯楽といえるかもしれない。
 絡み合った触手をゆっくり解いていくのが楽しい。指先や手に絡んでくるが優しい絡み方なので動物の甘噛みにあたるとバイスは思う。
 この触手の原産地は地獄に住んでいる原始生物だ。
 ブラフェティスの中身を構成する素材の一つでもあるのだが繁殖力があるためたまに余剰分を排出することがある。
 それをバイスは消えるまで預かる。
 魔力が尽きれば消えてしまう儚き生物なのだ。
 それほど地獄に満ちる魔力量がすさまじいということでもある。
 そして通常、地獄では儚さの欠片もないこの原始生物はお互いを食い合って成長し、一定の大きさの肉塊となれば地獄を彷徨うのである。
 環境によって儚くなりつつも結構ズ太く生きるこれらをバイスは好ましく思っていた。

「かわいい」

 ぽつり、つぶやき指先に絡んでいる触手を撫でる。
 みればみるほど可愛い気がしてきた。

「待って、この中から美人を探して育てれば色艶よしの美触手に育てられるのでは?」

 急にIQが下がるバイス。
 どっちの親の血の影響なのか。それとも時間城のバカたちの遊びが移ったのか。
 触手の選り分けに取り組み始めるバイス。
 まず色味から好みを選んでいく。健康的な色が良い。全体的に肉の色ばかりだが今回は可愛い感じが欲しくなったのでピンクっぽいのを探す。
 途中で「張りと艶、感触も重要では!?」と気づいてしまう。

 楽しい。

 こういうちまちました作業は好きだ、勉強より好き。
 選び抜いた触手を掴み上げて残りの触手はその選ばれし触手の糧とする。
 すると一回り大きくなってぷりぷり感が増した。

「まぁかわいい」

 かわいいしか言っていないバイスはその触手をお膝の上に置いて撫でる。

「お前に魔薬草を食べさせたらどうなるんだろう?ちょっと待ってて」

 バイスはマークのところへ薬草を貰いに行った。さすがに薬草関係は手持ちにない。
 錬金術の素材に…と理由を適当に告げてサンプル用として数種類譲り受けて戻ってくる。
 それを触手の様子を眺めながら摂取させていく。

「かわいいね、えっちだね」

 触手の先端がクリオネよろしくグワッと開いて草を食べる姿にうっとりするバイス。
 つんつん突くバイスの指先を触手が吸い付く。
 よわ~く魔力が吸われている。か弱くて儚げな美少女だなぁとバイスは思う。
 ちょっとキスもしたくなってくるがそれは理性で押さえた。
 カワイイだの美人だの、うっとりしてしまうのもバイスがおかしくなっているだけ。本人も理解している。
 この触手の、世に生存するための能力に『魅了』と『催淫』の体質がある。
 ここが地獄生物の悪いところで魔力差が大きいと弱きものは強き者に捕食されようとするのだ。
 弱肉強食の世界の本能に刻まれた掟であろう。
 だがさすがに儚い美少女を貪る趣味はバイスにはない。

 違う。美少女ではなく触手である。

 美少女に脳内で変換されてしまう。捕食させようと能力の効果の影響だろう。
 なかなか恐ろしく思えるがバイスは仕組みを理解しているので大丈夫なのであった。
 実際に食べてもお腹を壊すだけで死にはしない。だがせっかくペットにしようとしているのに食べてしまったら意味がない。

「飽きるまで飼ってあげます。嬉しい?」

 脳みそがまだ無いのでこちらの言葉を理解できないだろうけれど、バイスは優しく語りかける。
 ペットってそういうものだから。