「ええ!?インサニアって『名前』じゃなかったの!?」
マークは声を上げてあわあわとインサニアに問いかける。
「そうだな。」
「言ってよ!みんなインサニアのことインサニアって呼んでるから名前だって思うじゃん!
…そういえばインサニアのお母さん、インサニアのことテネブレって呼んでいたような…」
1度しか顔を合わせたことが無かったので聞き流してしまっていたが記憶を思い起こしマークは眉を顰める。
「テネブレって呼ぶね?」
「呼ぶな。母さん専用だ」
「いいじゃん遠慮しなくても。」
ギロリと睨んでくるのでマークはしょうがないにゃあ…と肩をすくめる。
これは隙あらば呼ぶ態度である。
呼んだら解らせてやろう、そう思うインサニア。
「でもどうしてインサニアの名前って苗字が先に来てるの?いじめ?」
「違う。特定の家だけそうなってるんだ。昔、下品なやつがいたんだ」
インサニアは学校で習った話を思い出しながらマークに言う。
マークは他国出身であるからこの国の歴史には疎いであろう。
昔々やたら家名をところかまわず名乗って好きにする貴族がいたのだ。それにキレた別の貴族も名乗りながらそいつを斬ってそこからの連鎖で血みどろの戦になったという。名乗れば無礼討ちが出来るという口実を手に入れたからだ。バールの貴族は野蛮だなぁとインサニアは思う。
そこからほどなくして皇帝が間に入り、高位貴族は家名から始まるようにして特別感を与えたのだ。バカらしすぎる。
ロクでもない歴史だとインサニアは思うのでマークに詳しく伝えない。
「名前、呼んでいいときは遠慮なく言ってね?」
「一生ない」
「そんなことなくない!?俺たち友達なのにさぁ!」
マークはぎゅっとインサニアの手を握る。
この男、ボディタッチが多すぎるとインサニアは思う。
何かと手を握ってきて。
じっとりとマークの瞳を見つめる。
「? どうしたの?」
「友達ってセックスする仲か?」
「えっ いやっ うん? えーっと…」
マークの金色の瞳が揺れ動くのが面白く思う。
「いやっ!友達!友達は友達だから!」
「ふーん?」
インサニアはマークの手を握り返して指先で手の甲を撫でる。
「ん、う…」
マークの頬が赤く染まる。
こいつ変態だよなぁとインサニアは思いながら押し倒した。