正史A

守られない約束

 戦艦麒麟の廊下を彰はマントを靡かせながら歩き、ブリッジに到着するとマントをバサリと翻す。

「―――カッコイイ」

 決まった―――そのような顔で彰は呟いた。
 ブリッジにいたいつものメンバーは無反応である。
 無である。
 いつものことなので…。
 彰も反応が欲しいわけでもないので次にモニターを確認し戦艦の後尾に着けている髑髏の旗の靡かせ具合を見て頷いている。
 これも趣味である…。
 戦艦ごと宇宙海賊のコスプレをしている…。
 これが毎朝のルーティーンである。

「彰はん、とくに問題はないですからこのまま進んでます」

 瑠璃が報告してくる。

「ああ、了解した。…バイスは?」
「自分の機体の中に籠ってなにかしてはりますわ」
「そうなんだ。暇だし見に行ってくる」
「暇やないで」

 瑠璃はつっこむが彰は手を振って出ていく。

「やることは決まってますから。ラグナロク部隊と合流する地点に到着したら忙しくなるでしょうし」
「せやねー」

 竜の呟きに渋い表情を浮かべる瑠璃。
 今後の戦闘のことを心配しているわけではない。
 彰がしっかり艦長をやれるか、それだけが心配なのである。




 彰とバイスは麒麟の食堂にいた。
 格納庫で二人は合流、機体の整備が既に終わっていたバイスは彰に機体の中身を見せるのを拒否したので、じゃあ暇だし…ととりとめのない会話をし始めて何故かアマツの話になっていた。
 そこでバイスが興味を示したのが食べ物である。
 食べ物に恨みがあるのかどうかは解らないが、彰はバイスが麒麟のご飯にびっくりしていたのを知っている。
 ラグナロク部隊の方でもご飯を食べていたはずだが、色んな種類があっても軍隊レーションのようなものの域をでなかった。
 そりゃあもう捌く人数の桁がそもそも違うのだからそのような規格になるだろう。
 麒麟は個人の戦艦であるし(個人で戦艦をもつ者はそうそういないが)、食事を作る機械もアマツ製で…そう、凝っているのである。
 見た目とか、味とか。
 アマツ人の食への追及とバイスの食への当たり、ちょっと熱量が近いかもしれないと彰は思う。

「アマツのお菓子、綺麗ですね」
「そうだな、練り切りは綺麗なほうだ。なんで練り切りを生み出せるんだコレ」

 説明書を見ながら彰は目を細める。
 変態が作ったのかもしれない。

「だいたいの菓子は作れそうだな…なんで作れるんだよ。絶対これ戦艦に積むやつじゃないだろ」
「ホテルとかに置きそうですね?解らないですけども」

 食べながらバイスが呟く。

「美味しい?」
「ほんのり甘いです」
「いつでも使っていいぞ。なんだか色々出来るようだしな。

 合流したらゆっくり食べてる時間ないかもしれないが」

「んふ、そうですね。これが最後になるのかも」
「縁起でもないこというなよ…」

 彰はバイスと目を合わせる。
 金色の瞳は楽しげであった。
 このお菓子を食べて上機嫌だから、であって欲しい。
 彰は思う。
 このままバイスはどこかへ行ってしまうのだろうな、と。
 良いヤツではないだろうが、友達ではあるし。何も言わずに出ていくのだろうな、という確信があって辛い。
 彰は魔力の気配が解る。
 この場所(地獄)に来て、バイスの魔力とバイスの機体にまとわりつく魔力が変わった。

「落ち着いたら、アマツに遊びに来ないか?」

 彰は現実から目を逸らしてバイスに来ないだろうなと思う未来を誘う。

「ええ、いいですね。僕はアマツに興味があります、色々知りたいです」

 微笑んでいうバイス。
 嘘で、心にもない言葉を吐いている。それはお互い様で。
 解っているが、彰は「約束な」と答えて微笑み合った。

 虚しく、空虚、そう、バイスも自分も元から胸の内は(うろ)なのだから。