正史A

お父様と『インサニア』

この話はバイスくんがお父様を殺すことなくそのまま大人になったらの話。



 薬による強制発情の苦しみは大人になった今でも慣れることはない。
 理性だけ現実から切り取られているような感覚。本能的に父を犯している自分を冷めた心は他人事のように思っている。
 自分はもう25歳ぐらいだと思う。
 物心つく前から父親にペニスをしゃぶられていた。
 そうされていることがおかしい、ということに気が付いたのはモノが解り始めたころからだったが、それに抵抗すれば父の態度が恐ろしく…子供だった自分は父に従うしかなかった。
 いまだに、父から逃げ出せない。
 殺せるのに、もうこの手で父を殺すことは容易い大人の身体になったのに。


 父の甘い吐息が、肌を撫でる指先が、身体に刻み込まれた興奮を煽ってくる。


 バイスは父・マークの腰を浮かせて深く腰を打ち付け始めた。
 その激しさにマークの勃起したナニが揺れて先走りが腹を汚す。マークは低い声を漏らしながら仰け反る。

「いん、さにあっ…いんさにあぁぁぁ…」
「イけ」

 出来る限り低い声を心がけ、バイスはマークの耳元で囁く。
 バイスは『インサニア』の声を知らない。だから父の言いつけ通り声を低く出すしかない。
 思いっきり奥に捻じ込んで射精するとマークも一緒に達する。

「あっ…あー…」

 恍惚とした顔でぐったりとするマーク。
 今二人で致している場所はダイニングだ。テーブルの上でマークを押し倒し散乱する料理などお構いなしに犯していた。
 虫と薬入りのゲテモノ料理なので粗末にしたことに対しての罪悪感は沸かない。
 薬による強制的な興奮のせいでまだ身体の火照りが治まらないバイスはマークからナニを引き抜くことはなく、支えるように抱きしめて腰を緩く前後に動かしながら父をオナホ代わりにする。
 ぐちゅぐちゅという音がやたらと大きく聞こえる、薬のせいだ。
 気持ちがいい、ずっとこうしていたい。
 苦しい、気持ちイイ、苦しい―――

「インサニア…あいしてる」

 バイスの頭を包み込むように抱きしめてくるマーク。
 そのまま濃厚なキスをする。
 意識はぼんやりするがマークのためにバイスは口内に乱暴に舌を潜り込ませなくてはならない。
 唾液を送り込んで飲ませると父の機嫌は良くなるのだ。


「好き、だいすき、あいしてる、いんさにあ」


 呪詛のように囁かれる。

「はぁ…まだ薬効いてるんだね。ふふ、貞操帯つけないと。」

 身を起こしバイスのモノを引き抜いてマークは微笑む。
 大人になってからバイスは貞操帯と手錠をつけさせられるようになった。
 最初は意味が解らなかったが、やがて理解した。父は母をバイスに奪われるのを恐れているのだ。
 勃起状態のままでも付けられる貞操帯は魔道具であり、マークの魔力が無いと外せないし排泄口も開かない。
 食事だけでなく排泄もマークの管理下になったということだった。

「うっ…うう…」

 ぼんやりした目のバイスは苦し気に呻き貞操帯越しにナニを握る。
 しかし望む圧迫感は感じられることはない。
 無機質な質感だけが手に残る。
 切ない、もっと気持ちよくなりたいのに。

「そのうち薬は切れるからね、我慢だよバイス」
「はぃ、おとうさま…」

 切なげな顔のままバイスは返事をする。
 そして荒い息遣い…インサニアを目指して整えられた身体であるがバイス自身の、本来の色気もある。
 マークは目を細めてバイスに寄り添う。

「かわいいねバイス…そんなに切ないのならお父さんが手伝ってあげる」
「うっ…」

 ビクっと体を硬直させるバイス。
 マークの手がバイスの太ももを撫でる。そしてそのまま臀部へ流れて尻の肉の感触を楽しむように撫で始める。

「嫌?」

 冷たい声にバイスは怯える。

「…っいえ、よろしくおねがいします」

 そう返事をするしかない。
 排泄口が開く。
 父は満足そうに笑って、排泄口の幅に入る道具手にする。
 バイスは四つん這いになってアナルに玩具を捻じ込まれ、ほじくられる。
 これも大人になってから回数が増えた。子供の頃は勃起が出来ないときに尻を弄られていたぐらいだったのに。
 明確に、バイスに対して快楽を与える目的で、こうやって弄られる。
 抵抗できなかった。
 この時だけは父が自分を『インサニア』ではなく『バイス』として見てくれているから。

「はっ…はっ…」

 興奮している。薬とは違う興奮を味わっている。

「バイスがこういうの好きだったなんて知らなかったよ。気持ちよさそうだね。
 これは『インサニア』を頑張ってくれてるご褒美だよ?バイスは偉い子だからね?」
「ぼく、えらい?おとうさまの、良い子に、なってます…?」
「なってるよ、良い子良い子…」

 マークの手がバイスの頭を優しく撫でる。

「っッ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 前の排泄口から精液がぼたぼたと零れていく。

「いいね、かわいいよバイス。まだ治まらないようだからもうしばらくくちゅくちゅしてあげる」

 バイスは知っている。解っている。
 母を襲わないように性欲を調整しているだけだと。
 でもバイスは微かに感じてしまう父の『愛』に飢えてしまっていた。
 微かに感じてしまったせいで、父を殺せなかった。
 この奴隷のような関係から抜け出せなくなってしまった。

 息子として愛してなどいないのかもしれない。けれども、『愛』を感じてしまったから―――


 『良い子』だと囁くおぞましい声に微かな『愛』を。










 インサニアは虚ろな目でベッド上で丸まっている。ベッドもシーツも品質のいいものだ。
 両手は鎖で拘束されて繋ぎ留められているが。
 毎日マークに入浴の世話をされクソ不味いメシを食らわされて犯される。
 何も楽しくない日々。
 女は犯されていれば悦ぶだけの生き物だと思っていたのに違うんだなと、この立場になって理解した。
 ドアのノック音にインサニアは視線だけドアに向ける。
 ノックするのは息子だけだ。

「お母様…」

 声をかけながら静かにバイスが入ってくる。
 両手は拘束されている、難儀なものだなと思った。
 髪型は前髪で片目を隠した過去の自分と同じ。服装も過去の自分と同じ。
 目の色だけが違った。
 インサニアは返事をしない。
 バイスも少し怯えた顔をしている。過去に母を襲った負い目があるせいだ。
 それで母にずっと恨まれていると思っている。
 未遂であるし、インサニアは寝たらすぐ忘れるタイプなのであるが、バイスとの会話がほぼないのでこんなことになっている。
 会話していたほうが良かったのだろうか?
 こいつも男だから勝手にやるだろうと思っていたが、もしかして違うのだろうか?
 気に入らないものがあれば殺せばいいと思っているのだが、違うのか?

「あの、お話が…ありまして…」

 顔を顰めているインサニアにしどろもどろなバイス。
 インサニアはただ黙って聞く。鎖に繋がれているからどこにもいけないし。

「…『インサニア』のことを、教えて欲しいんです。男だった頃のお母様を知りたい。
 僕がもっと男のお母様になれればお父様は満足すると思うんです。
 そうしたら、お母様だけでもここから逃げれるのではないかなって…」
「………そうか」

 バイスはどういうメンタルをしてるんだ、とインサニアは思ったがその言葉を飲み込み少しだけ考えた。
 バイスの姿をこんな風に仕上げるということはマークの執着はそれほどの執着であることは間違いない。
 完コピすれば少しばかり油断して逃げれるかも?という気は確かにする。
 気がするだけだ、インサニアはマークのことをよく知っているのである。あいつは母子両方とも逃がさない。
 それが解らないほどバイスはマークを知らないのだとインサニアは理解した。
 だからといって決意を抱いている息子を絶望させるのも可哀想に思う。

「来い」
「?」

 手招きしてバイスを呼び寄せてその頭を捕まえキスをする。

「!?!?!?!?」

 逃げようとするが構わずインサニアはバイスの口内を舌で犯す。

「ぷぁっ…ぁぁ…?」

 蕩けた顔になるバイス。

「覚えろ、私のキスを」
「んふっんっぅっ…」

 ちゃんと覚えるのか不安であるがインサニアはキスを続ける。
 マークとキスをしているかのようにバイスの舌は柔らかい。

「はっ…はっ…」

 キスを終えるとバイスは舌を垂らして涎を流しながら恍惚としていた。
 薬をキメすぎて感度が狂っているのだろう。これで『インサニア』と同じキスを再現しろと強要するのは虐めのような気もした。
 マークはインサニアには適度な薬を盛っているのにバイスになると過度になっているようだ。
 そもそも幼少期から薬を与えているのがおかしい。
 本当に、逃げられるのが怖いのだろう、マークは。

「どうだバイス?」
「ごめん、なしゃぃ…むり、でしゅ…」

 呂律が回らぬまま泣きそうな顔で謝罪するバイス。

「覚えるまでキスしてやる。まずはな。私にはもう生えてないからそっちは口頭で言うしかないが。」
「ごめいわくをおかけします」
「おかしな謝罪をする。」
「おかあさまは、ぼくのこと、おきらいでしょう…?なのに、こんなおねがいを、きいてくれて…」
「…あぁ、そうか」

 インサニアはやはり会話不足だなと思った。
 バイスの手を優しく握る。男の時と違って力強く握れないだけだが。
 息子の手は温かかった。

「誤解がある。お前に襲われた時は腹が立ったが過去のことなのでもう気にしていない」
「そう、なんですか…?」
「ああ、お前のことは、そうだな…愛しているよ」
「!?」

 ビクっとバイスの身体が震える。
 急に愛していると言われて困惑したのだろうとインサニアは思い、手をさらにぎゅっと握る。

「もちろん妊娠している時は忌々しく思ったこともあったが、産むのを覚悟を決めた時かな…愛おしいというものを理解したのは。
 …私の母が強姦されて私が産まれた。だから私は私自身が嫌いだ。自分を愛せない。
 だがお前は私ではないんだ。嫌う理由もない。愛している」
「おかあさま…」

 ぽろぽろとバイスの涙がこぼれる。

「マークに付き合わされてお互い辛いな」
「はい…」
「好きなようにしろ。逃げるにしろ、私はもうどうでもいいんだ。女になってもこの身体が嫌いだからここで死ぬまでいるつもりだ」
「おかあさま…おかあさま…」
「泣き止めよ。マークに見られて嫉妬されちゃたまらん」
「はい…」









 バイスがリビングに戻るとマークはソファでぐったりしていた。
 注射器が数本落ちている。
 最近様子がおかしい。母には父の違和感を伝えていないが父は薬で意識を飛ばすようになったのだ。

「お父様、大丈夫ですか?」

 危ないものを片付けてからバイスはマークの肩を揺する。

「インサニア…」

 マークが抱き着いてきた。『インサニア』とバイスを呼ぶ。

「インサニア、俺はねぇ…愛してる、ずっとずっと愛してる」
「…マーク」

 バイスは父の名を声を低くして呼び、キスをする。
 両手が封じられているので抱きしめ返すことはできない。懸命に舌を動かしているとマークの腕に力がこもる。



 おかあさまにおしえていただいた、きす、きすを…。



 頭がぼんやりする。マークの舌も柔らかい。その舌を吸出してしゃぶりつく。



 褒めて欲しい。

 上手くできたね、と。

 えらいね、と。

 良い子だと。



 父の目は焦点が合っていない。快楽に溺れ名を呼んでいるが意識があってないようなもの。
 またバイスの目から涙が溢れてきてしまう。

「どうしたのインサニア?つらい?お母さんのこと思い出したの?」

 マークは優しくバイスの背を撫でる。
 マークの言う『母』は『インサニア』のことではなく『インサニアの母』のことである。
 そのことはバイスには解らないことであるが、違う誰かのことだというのは察せた。

「ごはん食べる?食べてないでしょう?」

 ふらふらしながらマークはキッチンへいってしまう。
 あんな状態で大丈夫だろうか、と不安になるバイスは後を追う。
 父はキッチンでふらつきながら、あぶない手つきで作業をしている。
 手伝おうにも両手が不自由なので無理だ、ただ父が怪我をしないようにだけ祈る。
 がちゃん、がちゃんと何かしら作業をすると小物が手から離れて床に落ちていく。

「ごめんねインサニア、俺なんだか体調が悪いみたい。手に力が入らなくて…」

 言いながら出されたものはサンドイッチだ。あり合わせで火も使わないとなるとこういうものになる。
 そしてゲテモノ料理ではなかった。
 サンドされているものは薬草や虫ではなくサラダ用の野菜だ。チーズとハムだ。
 精液のソースもかかっていない。

「あ、りが…」

 ありがとうございます、という言葉を飲み込む。
 インサニアはお礼なんて言わない。
 バイスは黙って食べ始める。
 マークは痛ましそうにバイスを見つめている。
 見つめているが、遠くを見ている。
 過去のインサニアを、見ている。
 視線から逃れるように顔を伏せぎみにし、父が作った普通の料理を初めて食べる。

「っ…」
「だいじょうぶ?つらいね。俺がいるから。インサニア、俺がいるよ…」

 泣き始めるバイスの横へ回ってマークはバイスを抱きしめる。
 薬が切れれば父は元の父に戻ってしまう。
 今この時間はすぐに終わってしまう。



 ずっと自分が『インサニア』でいられれば、『インサニア』であれば。




 父が過去の『インサニア』と自分を重ねてくれて、優しく愛してくれるのに。



「ぼく、ぼくは…」

 インサニアじゃないんです。

 その言葉は声に出なかった。


あとがき

25歳バイスくんはお父様に完全に依存してしまっています。
大人になっても心は子供のまま。それはそう、閉鎖的で抑圧された家から出たことないんだもん。
錬金術師で魔術師なバイスくんは時間城の捻くれた上位存在達に揉まれてますからね…(それはそれで歪んでしまったけど)。