INFERNO

第2話「エリザベス=ピエロニ」

「構えがなってないわボケェェェェェェ!!!」

「がはっ!」

 インフェルノを殴り飛ばす青水。

「な、何を!!!!」

「なんだその刀の構え方は!お前は魔法少女か!」

「は?」

「は?じゃない!ったく俺が一生懸命教えてやってんのにお前と来たら…」

 青水は一人でプンプン怒ってる。

 インフェルノは強制的に青水に指導を受けていた。

「…ねぇねぇ、セイスイ…あんたも構えなってないと思うんだけど」

「あ?」

 花梨に振り返る青水。

「アンタ両手剣を片手で持ってるじゃない」

「俺だからいーんだよ」

「じゃあインフェルノもアレでいいことになるじゃない」

「いかん、俺が許さん!げふぅ!!!?」

 後ろからインフェルノに後頭部を打撃される青水。

「な、なにしやがる!!!」

「やかましい!私は他人に指図されるのがだいっきらいだ!」

 鞘に収めたままの日本刀を青水に突きつける。

「俺だって大ッ嫌いだ!むしろ指図したい側だ!」

「わたしもだ!」

「似たもの同士ねー」

 のほほんと微笑んで二人に言う花梨。

「やめたやめた、アホらしい…」

「お前からはじめたんだろう…」

「うるせぇ、お前の腰がへっぴり腰なのがいけねぇんだよ」

「仕方ないだろ、わたしはただの医者だ」

 インフェルノは懐からスプレー缶を取り出し、地面にプシューと振りかけて座る。

 彼曰く消毒らしい。

 彼の触れるところは消毒しないと気がすまないそうだ。

「お医者さんだったんだ…」

「手術の失敗でそんな呪いを受けたのか」

「むしろ何かヤバい実験してたとか…」

「マッドサイエンティストか…って俺ヒトのこと言えねぇ!!」

 いちいちオーバーリアクションをする青水。やかましい男である。

 インフェルノは頭痛がしてきたような、眩暈に襲われそうな微妙な感覚に頭を抱える。

「わたしは天才と言われたんだ。それこそ貧しい暮らしだったが這い上がって来た」

「…………」

 花梨は微妙な顔をしてインフェルノを見つめながら、

「それでヤバいことしてたんでしょ?わかるわ…青水見てたら解るわ…」

「どーゆー意味だよ!!!!」

「アンタら似てるってーの。他人蹴落としてきたんでしょ。卑劣な方法で」

「………努力はした(卑劣な方法を)。」

「目を見て言え」

「ところで貴方から聞いた幽霊少女の話だけど、普通の方法で悪魔祓いは難しいかもね」

「どうしてだ?」

 インフェルノは目を鋭くして花梨を睨む。

 花梨はウーン…と唸りながら、

「推測なんだけど…多分、貴方が罪を認めないからよ。

 悪魔祓いはそりゃあ力ゴリ押しの場合もあるけど成功するのは5割以下ね。

 本来はまず憑かれてる人間を説得して罪を認めさせて悔い改めさせるの。そうすれば怨霊の力が緩まるから」

「は?わたしは何も悪いことなんかしてない」

「ほらそうやって認めてないからダメなのよ。これは憶測だけど貴方の『他人のせいなのにどうして自分だけ』っていう

 強い憎悪が彼女のエネルギーになってるのかもしれないわ。それがなければ少しずつ彼女の理性は拡散して

 そこらの怨霊と同じになって力ゴリ押しでも祓えるようになるはずだもの。

 でも彼女には力がある、しかも貴方の影と地獄を繋げるほどにね」

「…ふざけるな!わたしは何もしていないって言ってるだろう!

 呪われるのはあいつらを殺すように依頼したヤツだ!わたしは何も悪いことなどしていない!」

「…青水、彼の魂に変化は?」

 花梨は青水に声をかける。

「あぁ、雰囲気が変わったな。観えるよ、ヤツの魂とそのガキの魂が融合しかけてるみてぇだぜ。

 普通の悪魔祓いは無理なワケだ。ヤツが憎しみを忘れない限りガキは永遠に存在できる」

 紅い目をインフェルノに向けながら答える青水。

「でも質の異なる憎悪が融合しあうことってあるの?」

「さぁな。ただガキに素質があったんだ。俺と同じ素質がさ」

「何をこそこそ話してる」

 イライラしているらしいインフェルノ。

「貴方の呪いの解決策をね。とりあえずは…ゴリ押し作戦いってみる?」

『え?』

 キョトンとするインフェルノと青水。

 花梨はニパっと笑いながら

「弟がこの大陸で聖都市と呼ばれるほどの都市にある教会にいるの!

 エクソシストが束になってかかればもしかすれば貴方を浄化できるかもしれないわ」

「弟がいたのか!?っていうかお前は木の股から生まれたんじゃなかったのか!?」



  ゴスッ



「私は人間から産まれました!」

 青水の顔面を殴りながら花梨は力強く訂正するのであった。



    ◆◆◆◆



 街道を歩く一行。目指すは聖都である。

 花梨は馬に乗り、男供は徒歩である。

「やっぱり男の人は白馬の王子さまよね~♪白馬に乗ってるだけじゃだめっ私を守ってくれるほど強いの♪」

「そんな変人いないと思うよ」

 花梨の乙女語りにニコニコ微笑みながら突っ込む飛剛。

「変人じゃないわよ王子様!色が白くって金髪で青い目がいいにゃーあと私より強くてそして何よりカッコよくて…

 どっかその辺に落ちてないかなー」

「そんな天然記念物が落ちてるわけねーだろ」

「それに『私より強くて』という辺りでかなり絞られるよね」

「そこから王子なんて出てこないぜ」

「だよねー」

「ワモッカ、キック」



   ゲシッ!!!



「ぎゃああ!!!?」

 馬(ワモッカ)に後ろ足で蹴り飛ばされる青水と飛剛。

「遊ぶな、遅れる」

「焦らない焦らない。そんなに焦ってもダメよー」

 インフェルノにいう花梨。

「そうだ、馬に乗せてあげるわ。気晴らしになるでしょ」

「遠慮する」

「どうしてー?」

「馬は汚い」

「ワモッカ汚くないわよ!!!」

「あぁぁぁぁぁイヤだぁぁぁ毎日風呂にも入ってない動物に触れるのはイヤだぁぁぁぁ」

 頭を抱えて叫ぶインフェルノ。

「重症だな…」

「ヤダねぇあぁいうの。自分基準なヤツ」

「面白いじゃな~い」

 ニコニコ微笑んで楽しんでいるらしい花梨。

「乗ってみなさいよ、まだ先あるし。あとでお風呂はいればいいじゃない」

 手を伸ばす花梨。

「遠慮するって言って―――」

 グイッと引っ張られるインフェルノ。

 花梨はインフェルノの腕を掴むと軽々と持ち上げて引きずり上げてくる。

「ぎゃあああ!!!?」

「はいそこそこ、足引っ掛けて。」

 なんとか花梨の後ろに乗るインフェルノ。

「ぜーぜーぜー…!!一体どういう腕力してるんだ!」

「花梨に逆らわん方がいいぞ。俺より怪力だと思うな」

 青水が横に並んで言う。

「失礼ねー。私は女の子並みですよ~」

(嘘だ……)

 男三人心を合わせて心の中でツッコむ。

「それじゃ一っ走りしようかな?インフェルノ、私にしっかり捕まって。落ちて首の骨折っても知らないわよ」

「え?」

 手綱を振るう花梨。

 ワモッカは一声嘶くと駆け出す。

「うわっ…」

 花梨にしがみ付くインフェルノ。

「あの二人は!?」

「飛剛くんがいるから大丈夫よ」

 振り返るインフェルノ。

 飛剛が青水を背負って後ろから飛行していた。

「彼は風を操れるの」

 花梨が説明してくれる。

 風の魔法でも使っているのだろうか、かなりのスピードでも余裕な顔でついてきている。

「風が気持ちいいでしょう?」

「別に」

「馬は初めて?」

「あ、あぁ…汽車ばかりだった」

「そう。汽車は腰が痛くなっちゃうわよねー。あは、馬もか。…あ、海だわ~」

 間延びした花梨の声につられて視線をその方向へ向ける。

 木々の間からキラキラ輝く海が見えた。

 そういえばこうやって意識して景色を見るのは初めてかもしれない。

 世界は広い…そう実感する。

「どーしたのインフェルノ?」

「いや…」

「昔に戻りたくなってきた?」

「多少な。何故わかる?」

「貴方ちょっと子供っぽいところあるから」

 そういってクスクス笑う花梨。

「あ、見えてきた。ほら前、海沿いの」

 大きな街だ。一見港町のように思えるが海と反対側にある山側の崖沿いに大きな教会が建っていた。

「優秀なエクソシストもそろってるでしょう」







 港もある聖都マクベス。そのマクベス大聖堂に到着すると花梨はなにやらシスターに話をしていた。

 そのシスターは慌てた様子で奥へと走っていった。

「なんだ?」

「ん?弟読んできてって頼んだのよ。すぐ来るんじゃないかな」

 奥から花梨と同じ髪の色をした美形が走ってきた。

 格好からずいぶんと身分が高そうである。

「ね、ねーさん!来るときは連絡してよ!こっちにもいろいろ準備っていうもんが…!」

 ぜはーぜはーと肩で息をしながら言う弟。

「そんな慌てちゃって~。大丈夫大丈夫、今回は別に軍隊用意しろーとか武器よこせーじゃないから」

「え?そうなの?」

 顔を上げる。

「ちょっと悪魔祓いを頼みたくて」

「あぁ、それでも準備がいるじゃないか…。ところでメンツが代わってるようだけど。」

「あぁ、仲間よ。えーと、みんなこの子が私の弟のクインス」

「初めましてクインスです、姉がご迷惑をかけてます」

「やだなぁクインスったらぁー『ご迷惑』じゃなくて『お世話になってます』でしょー」

 ケラケラ笑う花梨。自覚はしていないらしい。

「で、悪魔祓いって?」

「この人がちょっと厄介なことになっててね。エクソシスト5人ぐらい頂戴」

「またそうやって無理を言う……まぁ今から急いでも明日になるけど」

「おっけーおっけー。じゃあ適当に宿に泊まって疲れを取りますか。」

「ボクの屋敷に泊まりなよ姉さん」

「いいの?」

「僕ら姉弟ぢゃん、なんでそう他人行儀なんだょ」

「えへへ、わたし豪華な部屋はお婿さんの家で過ごしたくて」

「また妄想が始まったぞ」

「叶わぬ夢物語なのにね」

 ギロリと青水と飛剛を睨む花梨。

「ね、ねーさん落ち着いて。屋敷には連絡しておくからゆっくり休んで」

「じゃあクインスに甘えることにするわ。行きましょっか皆」






 クインスの屋敷は大きく、花梨の言うとおり豪華であった。

 なんでも前任の大司教から譲ってもらったとかなんとからしい。

 各自部屋まで案内された。

「……はぁ」

 ベッドに倒れるインフェルノ。

「ハッ!?服汚れたままなのにィィィィ!!!わたしとしたことがっわたしとしたことがっ」

 慌てて身を起こし、服を脱ぎつつシャワー室へ向かった。

(疲れたな…気が緩んだのだろうか)

 シャワーを浴びながら考える。

 花梨たちと出会ってからエリザベスから受ける『苦痛』は大分和らげた。

 地獄から溢れてくるモンスターを始末してくれるだけでこんなに違うものだとは。

『あ、やっぱりお風呂はいってるのね』

「何のようだ?」

 いきなりの花梨の声に驚きながらも返事を返す。

『服洗っといてあげようかと思って。貴方綺麗好きだし』

「あ…あぁ…自分で洗う」

『もー甘えちゃいなさいよ!持って行くからね!』

「あ、おいっ!?」

『大丈夫着替えの服は置いておくから』

 足音が消える。出て行ったらしい。

 何を企んでいるのかわからなくなる。

 ただの親切心なのかもしれないが、どうにも慣れない。

 花梨の場合全てを見透かしているような、あの態度がどうにも好きになれなかった。

 聖職者とはあんなものなのだろうか…。



    ◆◆◆◆



 ドアが開く。

「青水いるー?」

 飛剛が入ってきた。

「ノックぐらいしやがれ。なんだよ」

 窓から海を見ていた青水は、さして振り向くことなく呟く。

「いい風だ」

「んでいい海だな」

「僕は風、青水は海…煌く光はユウカで太陽はアヤカ、そして大地はレイ。あぁーユウカ今頃どこで何してるのか」

「…お前愚痴言いに来たのかよ」

「ははは、違う違う」

 飛剛はベッドに腰をかける。

「夕食何時にするー?って」

「いつでもいい」

「…ねぇ青水、インフェルノの幽霊の件だけど…」

「ヨーコじゃねぇな」

「なんだ違うのか。」

「似てるけど、ありゃただの幽霊だ。ヘタすれば俺らのようになるだろうけど」

「じゃあ始末しとかないとね」

「そういうことだ」

 立ち上がる飛剛。

「インフェルノを殺したら?」

「花梨が怒るぜ」

 振り返って言う青水。

「女に優しいんだから…」

 やれやれと首を振りながら出て行く飛剛。

「相変わらず容赦ねぇ野郎だな…」

 再び海に視線を戻す。

 自分は海が好きだ。青い水が好きだ。

 初代の自分がそうであったように、自分も………。

「あー泳ぎてぇなー畜生。今から行ったら絶対メシ抜かれる…」






 夕食時にはクインスも帰ってきて、楽しく過ごした。

 青水と花梨は愉快に笑いながら酒を飲み、飛剛とクインスがそれを眺めインフェルノは黙って黙々と食べていた。

「お前も飲め飲め!」

「いらん」

 青水の進めをきっぱり断るインフェルノ。

「なにぃ!?俺の酒が飲めねぇってーのか!?」

「青水の酒じゃないだろ」

 つっこむ飛剛。

「お医者は酒ものまネェのかっインテリぶりやがって!」

「ほほほほほ、お酒付き合わないといけないのよ大人って」

「………」

 なんだかイヤな奴らに絡まれたなーという顔をするインフェルノだが、渋々酒を飲み始める。

 ともあれ楽しいひと時であった。

「ホントに世話焼けるんだから」

 青水を引きずりながら呟く飛剛。

「インフェルノも顔赤いけど大丈夫?」

「あぁ」

「赤くなりやすいんだね」

 にこにこ笑う飛剛。年の割りに表情が子供っぽい所がある。

(そうか、自分は赤くなりやすいのか…)

 部屋に戻り、水を飲んだ。これでマシになればいいのだが。

「……」

 影を見る。

 何の変哲も無い影なのに、自分の影だけは深く濃い闇色をしているような気がした。

 インフェルノは息を吐きながらベッドに倒れる。

 どうか今夜はエリザベスが出てきませんように…。






(ここは…?)

 インフェルノは病室にいた。

 外の中庭で子供たちが遊んでいる。

(エリザベス……)

 ウェーブのかかった金髪。白いドレスに身を包んで可愛らしい笑みを浮かべているエリザベスがいる。

 天使のように可愛い少女、そんな少女を父親が何故殺したかったのかは知らない。

 理由など、いらない。金さえくれればそれでいい。

 金があれば自由だ。


  ギリッ……


『!?』

 自分の状態に気づくインフェルノ。

 体中に包帯が巻きついていた。

『んうぁぁ!!?』

 もがくが何重にも巻きついた包帯は強固でありびくともしない。

 不意に、男が顔を覗かせてくる。

「インサニア、手術の時間だ」

(マーク!?)




「ハッ!?」

 目が覚めるインフェルノ。

『おはよう先生、随分ぐっすり寝ていたわね』

「うあぁぁぁ!!?」

 身体に奇妙な塊が乗っかっていた。

 相変わらずのベトベトぬちゃぬちゃの生物だ。

『一人になるのを待っていたわ。うふふ、可愛がってあげる♪』

 エリザベスは天使のような微笑を浮かべながら指を鳴らす。

「ぅぉ…!?」

 ねとねとな触手が口を塞ぎ、中に侵入してくる。

「……ッ!……ッッ!」

 ブルブルと震えるインフェルノ。

 ズボンは既に下ろされており、秘所にも吸い付くような柔らかい肉塊が侵入してきていた。

『感じてるのね先生。ふふ、そのままゲテモノの虜になってしまえば?』

「っ……」

 身を反らし白目を向きかけて痙攣をする。

 直腸を通過しもっと奥へ侵入しようとしてきているのだ。

 激しい嘔吐感に襲われビクビクと痙攣を起こしていた。

 エリザベスは楽しそうに目を細める。

『わたしを祓う?もう諦めなさい。貴方は私から逃れられやしないのよ。そうやって苦しむがいいわ…』

「何やってんだガキ」

『!』

 青水が窓から入ってくる。

『邪魔しないで!貴方たちはこの男のやったこと知ってるんでしょう?』

「あぁ、悪い男だなそいつ」

 鞘に収めたままの氷心剣でポンポンと自分の肩を叩きながら頷く青水。

「だからってテメェも悪いことしていいってワケじゃねー」

『なんですって?』

「自覚ねーのか、モンスター暴れさせて無差別に殺してるじゃねーか」

『そんなこと関係ない、皆死ねばいいの。私たちだけがこんな目に合うのは不公平だわ!』

「言ってることがインフェルノとおんなじなんだよテメェは」

『しんじゃえ!!!!』

 エリザベスの叫びと共に影からモンスターが飛び出していくが青水は片手で刀を振るってモンスターを一刀両断する。


   シャアアアアッ…


「ぬお!?」

 青水の身体に闇色の糸が絡みつく。

 エリザベスの怨念の糸だ。

『このまま絞め殺してあげるわ』

「へへへ、ガキの力で俺が死ぬかよ!」

『な!?』

 氷のツタが糸を這ってエリザベスに巻きついていく。

『人間じゃない…!?』

「俺はお前とおんなじよ…他人の肉体に寄生する精神生命体」

『な…?その言い方は私が先生に寄生してるみたいじゃない!』

「気づいてねぇのか!?お前の理性は何の力で保たれてる?」

『……!』

「インフェルノと似たようなことも言うのもお前の精神とインフェルノの精神が融合しかけてるからだ」

『そんな…そんなバカなことあるはずないでしょう!!!』


   バリィンッ!!!


 氷のツタが砕け散り、エリザベスの姿が消える。

「逃げたか…」

 身体が自由になる青水。

「インフェルノ…大丈夫か?」

 モンスターもエリザベスと共に消えたらしい。インフェルノは小刻みに震えていた。

「はっ…はぁ……」

「おい」

 インフェルノを抱き上げる青水。

「……」

「なんだその目は」

 何やら色っぽい顔つきで見上げてくるのでジト目になる青水。

「男相手は専門外なんだが…畜生こういう時にレイがいればな…」

 青水がキスをするとそれを受け入れる。どうやらインフェルノはその気らしい。

 媚薬のせいなのはわかるが、もう少し理性を保っていて欲しい。

 このまま放置…いや、気が変になられても困る。なんせタダの媚薬ではないのだから。

 おそらくインフェルノは快楽のことしか考えられなくなっているだろう。

「ちょっとデカい女だと思えばいいんだ…」

 なんて無駄なことを自分に言い聞かせながら青水はインフェルノの秘所に指を挿入する。

「っ…はっ……んんッ……」

 悶えるインフェルノ。準備はOKらしい。

「うあぁぁぁぁぁ!!!?」

 悲鳴を上げながら青水に抱きつく。

 青水のナニが氷のように冷たいのだ。いや、身体全身が氷のように冷たい。

「イヤッ…アァ…!?」

「気に入ったか?ん?」

 インフェルノを押さえつけて動き始める青水。

「アァァッァァッ…!!!」

 涎を垂らしながら善がる。

「ふ…腰振って随分とイイみてーだな」

「ッ―――!!!」

 大きく震えながらイくインフェルノ。

「はぁ……ぁぁ……」

「落ち着いた?」

 インフェルノの顔を掴み上げながらキスをする。

「ゆっくり休め」

 自分のみなりを整える。

 どうせ朝にシャワーを浴びるであろう…と、思い彼の身なりだけを整えて、青水は部屋を出た。

「さて、明日が楽しみだな…」



    ◆◆◆◆



 教会の地下にある部屋の一室に、クインス、花梨たちとエクソシストの面々が集められた。

「えー、まず正攻法は無理です。彼は罪を認めてないので」

 インフェルノを指差しながら言う花梨。

 インフェルノは何やら顔色が悪い。

「どうしたのインフェルノ」

 飛剛が小声で声をかける。

「なんか…昨日エリザベスが出たような…夢だったような…なんか身体がダルい…」

「二日酔いじゃない?」

 どうやら昨晩の記憶は曖昧らしい。

「というわけでそれなりに呪いが跳ね返ってきます。覚悟の上取り扱ってください。

 …インフェルノ、そこの椅子に座って」

「あぁ…」

 花梨の指示に従い、魔法陣の中央に設置されている椅子に座るインフェルノ。

「この魔法陣は一種の結界ね。地獄の門を遮断するものだと思って。じゃあヨロシク」

 下がる花梨。

 エクソシストたちはインフェルノの周りを囲むように立ち、呪文を唱え始める。

「うっ…」

 頭を抱えるインフェルノ。

『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』

 インフェルノの頭上にエリザベスと、彼女を取り囲むように形が留まらぬ怨霊の集合体が現れる。

『このっ…クソ人間どもっ…!』

 エクソシストたちは一斉に十字架を掲げた。

「悪魔よ、この者から立ち去れ!」

『ぐぁぁぁぁっ!!!いやぁぁぁ!!!』

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 エリザベスとインフェルノの顔が苦痛に歪む。

『なんでっ…死にたくない…死にたくない…どうしてわたしだけ、わたしだけなの!

 皆死んじゃえ!皆よ、そう皆!生きてるやつ全員死ね!わたしだけなんて不公平よ!」』

「死にたくない…死にたくない…なんでわたしだけ、なんで!皆死んでくれ!皆だ、そうだ皆!

 わたしだけなんて……不公平だ!!」

 エリザベスとインフェルノが叫び始める。

 インフェルノの方は白目を向いて血の涙が流れ始めていた。

「やっぱり連動してるのね…」

 呟く花梨。

 エクソシストたちは呪文を呟き続ける。

『うぐぁぁぁっその不愉快な声をやめろぉぉぉぉ!!!!』

 糸を振るうエリザベス。

「がぁぁぁぁ!!!!」

「ぐぁ!!」

 インフェルノがエクソシストの一人に襲い掛かる。

「止めろ!落ち着け!誰もお前を殺そうなんてしてねぇ!!」

 青水と飛剛がインフェルノの腕を掴んで押さえ込む。

「死にたくないっ死にたくないっ…!わたしは死にたくないっ…!!!!」

 泣きながら暴れるインフェルノ。

『皆しんじゃねぇぇぇぇぇ!!!』



  ガッ!!



「しまった!?」

 いつの間にやら飛剛の短剣を手にしていたインフェルノが魔法陣の線の部分に短剣を突き刺してしまう。

 結界の効果が薄れる。


   ごぼっ…!


「来るぞ!」

 影からモンスターが湧き上がってきた。

『耳障りなのよその呪文はぁぁぁ!!!』

 エリザベスの手の動きに合わせてインフェルノが超人的な身の動きでエクソシストのもとまで飛び、

 武器を奪って攻撃をし始める。

「武器持たせないだけマシだと思ったんだけど!」

 槍を手にする花梨。

「チッ…!飛剛、お前インフェルノの動き止めろ!」

 モンスターを斬りながら叫ぶ青水。

「痛いの我慢してね、っと!」

 派手な装飾が施された篭手を振るう飛剛。

 するとカマイタチが発生してインフェルノの足を引き裂く。

「ぎゃあああああ!!!」

 よろめくインフェルノであったが、よろめくだけであった。

「何だよ…反則じゃん」

 舌打ちする飛剛。

 インフェルノは見えない糸で吊り上げられた…まるでマリオネットのような状態と化していた。

 脚からは血が流れ地面にポタポタと落ちている。

「ファイアエンチャント…」

 奪ったメイスに炎を纏わらせて焦点の合わぬ目で笑みを浮かべるインフェルノ。

 完全に正気ではない。

「畜生、邪魔なんだよ!」

 飛剛と青水、そしてエクソシストたちでモンスターを相手にするだけで精一杯であった。

 数が多すぎる。

「青水!結界張るから押さえ込んでて!」

 花梨とクインスは走りながら清めた短剣を要所要所床に突き刺していく。

『地獄を封じる気ね!させるかぁぁぁぁぁ!!!』

「カオスガイスト!!」

 漆黒の風がインフェルノから吹き荒れる。

「ぐぉぉ!?」

「青水!前見て!」

「何!?」

 飛剛の声に前を見る青水。

 風の合間からインフェルノが飛び出し青水の頭を殴りつけた。

 ゴキッ…と鈍い音を立てながら地を転がる青水。

 そのままモンスターたちの手が振り下ろされズタズタにされる。

『あははははは!』

 エリザベスのけたたましい笑い声が響く。

『これよ…そうこっちが本体ね?』

 インフェルノがエリザベスの声で呟きながら青水の氷心剣を拾う。

『貴方の本体はこの剣…人間に寄生してる剣…』

 インフェルノは剣をエリザベスに投げる。

『さぁ次よ!』

 インフェルノが再び駆け出す。

「クインス、早く!」

 花梨がインフェルノのメイスを槍で受け止める。

『お前が一番怨めしい!わたしを浄化しようとする悪い聖職者!』

「私は聖職者ですもの!とりつかれた人間もとりついてしまった魂も救うのが私の役目よ。」

『余計なことを…!こいつは私の命を絶ったのよ!』

「そうね…それは許されない罪だわ…でもだからって死者が命を狩るだなんてあってはならないこと。

 私は神を信じているから、あなたを救って天国に行かせたいだけ。

 アナタのお父様がいる地獄じゃなくて天国にね」

『詭弁だわぁぁぁっ!!生きているものが死んでる者の何がわかるっていうのぉぉぉぉ!!!!』

 ガァン!ガァン…!と音を立てながら重いインフェルノの打撃を受け止め続ける花梨。

「苦しんでいるってことは解ってるつもりよ!」

 スッ…とモンスターが消える。

「結界が完成した!」

 クインスが結界を張ったようだ。地獄のモンスターが全て消えていく。

『苦しいのよ!とてもとても苦しいの!解ってるんだったらどうしてもっと苦しめるのよ!!!』

「誰も助けてくれない…誰か…助けて誰か…助けて……」

 頭を抱えてうずくまるインフェルノ。

『皆死ねばいいのよ!!!!』

 エリザベスの糸が全員の体に巻きつく。

「こ、これは!?…この糸は怨霊が束になってるのね」

『ふ…ふふ……どう、自分の命が他人の手に委ねられている気分は…ふふふふ…このまま死んじゃうのよ、貴方達…ふふ』

『それはどうかな、ガキ』

『なに!?』

 エリザベスが手にしていた氷心剣が喋り始める。

『素直にあの世へいってりゃこんなに苦しまなくて済んだんだ。憎しみに負けたお前の責任じゃねーか』

『うるさい!!!人間じゃないくせに!!』

『俺は人間の心だ!』

『私と同じじゃない!』

『あぁ、質はな!』



  バキィ!!!



 糸が凍る。

『ぐぎゃああああ!!!?』

 エリザベスの腕が凍り始める。

『いっ痛いっ…痛い……!!!!』

「…青水は、何でも氷らせる氷の化身」

 薄笑いを浮かべて呟く飛剛。

『クッ…!』

 腕を千切り捨てるエリザベス。

『殺してやる…みんな殺してやる…』

 姿を消していくと同時に糸が解けた。

「力を使いすぎて消えたようね、インフェルノは?」

「…姉さん、腕が氷ってる」

 インフェルノを抱き上げ、ヒールを施しながら呟くクインス。

 エリザベスと同じように腕が氷りついていた。

「…そこまで繋がってるの」

「力押しは止めた方がいいかもしれないわね、精神の負担も大きいだろうし」

「……」

 飛剛は氷心剣を拾う。

「無様だねぇ」

『油断しただけだよ!』

 氷心剣が飛剛に答える。

「優しすぎるんだよ、斬れば良かったんだ」

 ズタズタになった青水のところまで歩み寄る。

 血はでていない。水だ。

 水溜りの中に青水は倒れていた。飛剛は彼に氷心剣を握らせる。

 水が引いてパキパキと音を立てながら青水の傷が塞がっていく…。

「…あー首イテェ」

 首をコキコキさせながら起き上がる青水。

「もうちょっとで使い物にならない体になるところだった」

「もう相当ガタが来てるんだから気をつけなよ」

「へいへい」

 花梨の元へ行く青水。

「インフェルノは?」

「気絶してるわ。…普通の悪魔祓いは無理ね。彼は特異だわ、この腕見て」

「俺の氷だな」

「エリザベスと繋がってきてるのよ、肉体まで。…少しずつ。いつかエリザベスに肉体を支配されるわね。」

「肉体までか…」

「憎しみの同調が強すぎる…エリザベスが怒ったとき彼も怒った。

 きっと彼の過去の傷がフラッシュバックしてるんだわ。

 あとエリザベスね…彼女も変化してきてる。彼と同調し始めてるから理性が崩れかかってるのよ」

「あぁ…死者特有の本能が出てきてるわけだ、生きてるやつが憎いってーのが」

「そそ。同調しながらエリザベスの理性が崩壊してしまえば…多分インフェルノは生者を憎む生者になってしまうわね。

 わかりやすいところで無差別殺人鬼になるかも」

「…その前にカタをつけてやらねーとな」

 青水はインフェルノの氷った腕を撫でる。

 氷が青水の手に吸い取られるように消えていく。

「クインス、手伝ってくれたのにごめんね」

「いいえ、こちらが謝るほうです。上級魔法を唱えていたのに…まるで効いていない。

 多分姉さん達がいなかったら我々は殺されていましたね」

「他の方法はないかなぁ…神様にお願いするしかないのかしら」

 ため息を吐く花梨。

「…もう諦めて放っておけってことじゃないの?」

 飛剛が突っ込む。

「これが神様の天罰でしたってね」

「それはダメよ飛剛くん。罪の償いは地獄でするものよ。

 インフェルノがこうやって旅をしながら呪いを解こうという姿勢が試練なのかもしれない。

 だから私は出来る限りのことを彼にしてあげたいの。罰だ…って切り捨てないでね。

 それで彼に人間性が生まれるのならなお更…彼に必要なのは信頼できる仲間だと思うの。

 彼の心が潤えば自分の罪も認められるはずよ」

「花梨ってこういう心が砂漠男が好みなんじゃないの?」

「そう?王子様がいいにゃー」

「はいはい」

「あ、そうだ」

 クインスが声を上げる。

「姉さん、『神託』だよ『神託』!」

「しんたく?」

「神のお告げを聴けば何かわかるかもしれない、ヒントとか!」

「なるほどーいいわね~」

 うんうん頷く花梨。

「神託…って巫女か何かが神様デンパをキャッチするやつ?」

「そうよ~」

「デンパじゃないです…」



    ◆◆◆◆



 礼拝堂に訪れる花梨一行。

「ララさま、姉さんたちをお連れしました」

「うむ…」

 奥からずるずる…と巫女の服の裾を引きずって老女が現れた。

「ちょっと待てぇぇぇぇぇ」

 叫ぶ青水。

「巫女って若くてピチピチだろ普通!」

「ばっかね~現役バリバリよララ様は」

「そうそう、なかなかくたばらないからね」

「相変わらず失礼な姉弟じゃ…」

「早く神託を言えババァ!!!」

「ちょっとインフェルノ落ち着きなさい!ていうか喋るな!」

 慌ててインフェルノの口を押さえる花梨。

「ごめんなさいララ様…彼ちょっと今ピリピリしてて…」

 悪魔祓い失敗が相当ショックだったらしい。

「まぁババァだから仕方がないがのぅ…これでも昔はモテモテじゃったんじゃぞ」

「今でも綺麗だぜララは…」

 なんかカッコつけていう青水。

「あ、青水って守備範囲広いんだった」

「広すぎだ」

 青水の変わり身の早さに呆れる面々。

「で、神託じゃったな…クインスから大体は聞いておる」

「さっさとしろ」

「……」

 ララは目を閉じぶつぶつと呟き始めた。

「…天使の歌声が、お前を救うであろう」

「天使?…抽象的過ぎないか?居場所ぐらい言え」

「無茶をいうな無茶を。自分で探せということじゃな、その天使を」

「天使か……」

 インフェルノはウーンと考え込む。

「天使って言葉そのままを受け取っていいんだろうか…」

「そなたの感じるままに行動するがいい。ワシに言えるのはそれぐらいじゃ」

「天使探しの旅ってちょっとロマンティックね♪」

「まさか天使探し付き合うの?」

「うん」

 飛剛に頷く花梨。

「何か不満?」

「…はぁ、別にいいけどね」

「ララ様、神託ありがとうございました!ほらインフェルノもお礼言って!」

「…世話になった」

「何それ~『ありがとう御座いました』でしょ」

「ふん、悪魔祓いも失敗に終わったのに礼なんて言えるか」

「イヤな性格…。ま、そろそろ行きましょうか。天使が待ってるわ」

「気をつけてね姉さん」

「クインスも仕事頑張ってね♪」

 出て行く一行。

「…難儀よのぅ」

「え?」

 首を傾げるクインス。

「あのインフェルノという男…おそらく天使に出会えても幸せにはなれまいて…」

「そんな…未来は無数にあります、幸せな道を歩むかも……」

 首を振るララ。

「…そういう運命ですか」

「運命じゃ」






「天使か…」

 街道を歩きながら、インフェルノは呟く。

「クク…待っていろよわたしの天使……」

 笑みを浮かべるインフェルノだがちょっと邪悪だ。

「暗い」

「あぁ、暗いな」





END

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