殺人鬼インサニア

マーク視点3

 インサニアに殺されたマークは気づけばインサニアに取り憑いていた。
 特に恨み辛みはないが別れるのが嫌だったので背後霊と化し、一緒に過ごしていたのだが。
 インサニアの身体に憑依してしまった。
 勝手にである。自分の意志ではない。
 どういうタイミングでそうなるのかは解らないし、憑依している時間もまちまちだ。

「便利といえば便利。不便といえば不便」

 インサニアの身体を乗っ取っている状態のマークは呟きながら愛用のコーヒーミルをぐりぐり回す。
 今はマークがかつて住んでいた自分の部屋に引っ越して住んでいる。
 インサニアが住んでいたスラムの中のヤバいアパートはマークには耐えられなかったのだ。
 幽霊の時は気づかなかったがシャワーから出るのは水のみ!
 走るネズミ!(インサニアは潔癖症なのになぜかネズミは許している!一番不衛生なのになんで!)
 日当たりの概念など完全に無い、違法建築物件はマークに耐えられない物であった。
 なので生前お気に入りだったこの部屋に勝手に引っ越し身の回り品もかつて愛用していたメーカーで揃え、ご満悦なマークである。
 満足したのでそのまま成仏しちゃうかな?とも思ったがしないのであった。
 ベッドは以前と同じものではなくちょっといい奴にした。
 インサニアがお金を持っているので前々からちょっとイイな…と思ってたものにしたのだ。
 インサニアに申し訳ないなと思いつつ、『俺も一緒に住むし…?』と理由をつけて勢いでやった。
 これって確実に悪霊ムーブでは?とも思いつつ…。
 マークはコーヒーを淹れ終えて、カップを手に窓を開いて外を眺める。
 街中なので決していい眺めではないが、窓の外は緑ばっかりという実家で過ごしていたのでマークは街中の景色が好きだった。

「前と違って見えないんだよなぁ」

 自分の視力が良すぎたのだろう、インサニアの視力が悪いというわけではない。以前は人の気配が細やかに“見えて”いたのに見えない。
 恐らく、今のこの見え方が一般的で普通の見え方なのだ。
 目もそうだが鼻も感じ方が違っていて、無臭。もちろん一般的な嗅覚は正常だ。コーヒーの香りはちゃんと感じている。
 ただいろんなところから、物や人から感じていた僅かな匂いを感じなくなっている。
 田舎で育ったから敏感だったのかもしれない。そう思う。
 インサニアは都会っ子だし…?

『あっ』
「……?」

 肉体から弾きだされるマーク。
 インサニアは不思議そうに手にしたコーヒーカップを見つめている。

『あああ~~っ…もう少し味わいたかった…』
「……」

 ちまちま飲み始めるインサニアを眺めるマーク。
 インサニアは謎の現象…気が付いたら自分の記憶にない知らないことをしている、という状態に慣れて受け入れつつあった。
 マークはインサニアに触れられないがギュっと抱き着いて頬を寄せるフリをする。

『美味しい?俺の入れたコーヒー気に入ってるよね~?』

 にっこにこ笑顔になってマークは自画自賛。
 インサニアの好きなものはよくわからない、知らない。だからマークは『これは良いぞ!』と押し付けることを覚えた。
 確実になりふりが悪霊になっているが、誰からもつっこまれることのない環境なのでマークは気づきもしない。


   ◇◇◇◇


「なんだか…今日はすごいムラムラするこの身体」

 ある日マークは困惑気味にインサニアの身体を持て余していた。

「そういえば、なんかインサニア先生苛々してたな…?ムラムラしてたってこと?娼館行かないのなんでだろ?」

 そういう気分にならなかったのかな?なんて思いながらマークはどうしようかと悩む。
 娼館を控えているのはインサニアの殺人欲求を満たすための『狩り』がしにくい状況になっているためほとぼりが冷めるまで…という理由なのだが、マークは知らない。
 マークは男の子なのでとにかく鎮めよう、と思い立ってインサニアに謝りながら服を脱ぐ。
 自分の身体ではない、けれど一緒に暮らしていて見慣れている身体―――
 元々自分のペニスのサイズとは違うインサニアのそれを握り、扱き始める。
 今は自分の身体であるけれど、事実他人のものを扱いているので変な気持ちになる。正直興奮が凄い。

「インサニア先生の、触っちゃってるんだぁ…いつもみてるだけの、これ…」

 刺激だけでなく、背徳的な感情も混じり腰がゾクゾクしてくる。
 先走りがじわりと垂れてくるので、それを指に絡めながら陰茎を扱きつつ、もう片手は亀頭を指先で撫でる。
 
「いっん、さにあっ…せんせえっ…」

 お気に入りとなったベッドに横になりながら切なげに名を呼ぶ。

 きもちがいい、ずっときもちよくなっていたい。しげきがたりない。

 マークは息を荒げながら快楽を求め扱くのを早めて達し、白濁の熱を散らす。

「はぁっ…はぁ…いんさにあ、先生…まだ足りないんだぁ…?」

 えっちな身体してるんだから、とマークはうっとり顔で微笑んで再び自慰をし始める。
 一度イってしまえばもうマークは一心不乱に快楽を追う。
 完全に快楽に溺れていた。死後初めての快楽は刺激的だったのかもしれない。
 自分の身体とは違うのも原因のひとつだったのかもしれない。


「えっちすぎる…」

 ふと視線が鏡に留まり、鏡の中に映るインサニアの姿は緩んだ顔で懸命に自慰をしている。
 長い黒髪を乱し汗ばんだ身体に張り付けて。その黒髪もマークの手入れのおかげで艶やかになっている。
 食事だってちゃんと食べさせているから健康的だし。
 インサニアを育ててるのは自分では?とマークは思う。
 鏡の前まで移動してマークはその姿を見つめる。
 特徴的な切れ長の目は潤んでいるし、喘いでいる半開きの口からチラつく舌がえっちだし、唇だって血色がよくて吸い付きたくなる。
 マークはインサニアの姿をオカズに続きを始める。
 インサニアの綺麗な顔が好みかもしれないと、マークは改めて自覚した。
 自分の手で快楽に染め上げて、えっちな姿を晒さしている。とても興奮した。
 昂ったまま射精し鏡を汚す。
 マークは鏡に額を押し当てて荒い呼吸を繰り返す。

「インサニア先生のこと、好き…」

 改めて声に出して、今の気持ちを呟く。
 生前のときに交流していれば、また違った関係であったかもしれない。
 だがもう過ぎた話なのだ。

「インサニア先生が俺の名前を呼びながら自慰をしていて、俺がインサニア先生のこと考えて自慰をするでしょ?
 これって実質セックスじゃない?」

 気づいちゃった!とマークはハッとした顔で呟き、にまにま嬉しそうな笑顔になる。
 これって相思相愛じゃない?なんて浮かれている。

「あ、憑依が終わる前に片付けなきゃ…」

 次からはゴムをつけてしなくちゃいけないな…と反省するマークであった。

「…ゴム買いに行くの、もしかして俺?」



あとがき

着々と悪霊になっていってますよ。やってること彼女ムーブなので平和ですけど。
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