殺人鬼インサニア

マーク視点

 マークがそれを知ったのは偶然だった。特別怪しいから調べようとかそういったことではなく。
 薬の数がおかしいな?というところから辿り着いてしまって。
 横領しているマリサに話をしようと思っていたらどうもインサニア先生が指示をしているようだったので。
 優秀なインサニア先生。
 話は仕事上のやり取りしかしたことが無くて、相手はこちらのことを認識しているかどうかすらわからない。
 暗い瞳はずっとカルテを見ていて、こちらのことは「先生」としか呼ばない。名前なんて覚えていないのだろう。
 でも、その声色が妙に耳に残るのが印象的でもあった。
 そんなインサニア先生が患者を殺しているのを確認してしまって冷静でいられなかった。

 なぜ?どうして?自首をしたほうがいい―――

 院内で話すよりは…と、インサニアの帰宅するあとを追って、人の気配のないスラム街に入ったところでマークはインサニアに声をかけて話した。
 インサニアの切れ長の目が大きく開いた。
 その変化に気を取られてインサニアに突き飛ばされたマークは抵抗できぬまま倒れ込む。

「うっ…」

 動いちゃいけない打ち方をした気がして、マークは身を硬直させるがインサニアが馬乗りになってきた。
 視界が揺れる、本能的に頭を守ろうと腕を持ち上げるがたいした抵抗にもならなかった。
 インサニアは手首を掴もうとしていたのかもしれないが偶然手を握り合うような形になって、マークはゾクっとした感覚に違和感を覚えた。
 恐怖による悪寒ではないような、そう、手袋越しとはいえインサニアのしなやかな指先を感じ取って興奮するかのような―――

 しかしインサニアが手を振りほどき、その感覚は痛みで上書きされてしまう。
 視界が揺れ続けていてインサニアの顔が見れない。後頭部を掴むインサニアの手を感じてはいるが、振り返れない。

 痛い。

 痛い。

 顔も何も見れないままというのが悔しかった。




 気づけばふわふわと浮いていた。
 そしてこの街は恐ろしいほど亡霊に満ちているのだということが解った。
 街の中に封じ込められているような感覚がする。
 だから自分もここに存在できているのではないだろうか。
 ほかの亡霊たちは自分のように自我を持っていなさそうであった。
 自分も時が経てばそうなるのかもしれない。
 なんだかそれは嫌で、インサニアの傍にいた。
 インサニアはあのあと捕まって、刑期が決まって牢獄にいる。
 よくドラマで見る様な牢獄ではなくプライベートが保たれている個室でマークはこの待遇に首をかしげたが。
 インサニア先生のことをよく知らないので解らない。
 解らないといえば時間の流れが解らないのは霊体だからなのだろうか。
 不思議とインサニアに対しては恨みというよりも可哀想だなという思いが強い。
 インサニアはずっと苦しそうにしている。
 反省しているのかもしれない。ずっと自分(マーク)のことを考えてくれているようで、それで苦しんでいるのが申し訳なくも思った。
 猫背で俯いているインサニアの横に並んで、そっと腕を回して抱きしめる。
 感覚はないので雰囲気だけだ。

「マルク=レーニ…」
『インサニア先生』

 インサニアが顔をあげてこちらを見るのでマークは唇を重ね当てる。
 完全に起きている時、完全に寝ている時は何も通じないが、こうやってインサニアの精神が微睡んでいるような時に触れ合うようなことができるようになった。
 実際触れ合っているわけではない。見えているだけかもしれない。
 唇を重ねることも最初は恥ずかしかった。
 インサニアが望んでいるからしてあげると、嬉しそうに微笑んだのが堪らなく好きになってしまった。
 インサニアが横になる。
 だからマークも添い寝のようにともに横になって抱きしめてあげる。
 このまま寝てしまうこともあるし、違うときもある。
 インサニアは身じろぎ、自慰をし始める。
 触れることができればやってあげれたのになぁ、なんて考えてしまうようになった。
 きっと自分は、インサニアにどうしようもなく惹かれているのだろう。
 もちろん、インサニアから離れれば他の亡霊のようになってしまうのではないか、という恐怖からの打算もあると思うけれど。

「はぁっ…ま、るく…」
『マークって呼んでインサニア先生』
「マルク、レーニ…あっ…」

 マークはインサニアの顔にキスを落とす。
 額や頬、首筋にキスをすると仰け反った。ちょうど果てた瞬間だったのだろう。

『気持ち良かった?ずっとそばにいるからね。インサニア先生』



 また抱きしめるフリをする。



 死ぬ間際、手を握り合った感触が名残惜しい。
 ああ、このままインサニア先生に溶け込んでしまえればいいのに。
 そうすれば、このいつ消えるかもわからない怯える日々から解放されるのに。



あとがき

ずっとすれ違ってる…。

街に封じられてるような感じになっているのはピエロニ家の結界のせいです。
この世界はエリィが悪霊としてインサニアに憑りつく正史から変わってマークがインサニアに憑りついているIF世界です。
なので地獄の門が開かない。 原典よりSRWパロ寄りの世界かも。



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