ゾンビたち2 -ブレナン視点-
ジョン=ブレナンは出世の道を歩んでいた。
出世に執着していたわけではない、自分にとって生きやすい人生を考えながら歩んでいただけだった。
なので刹那的に生きているインサニア=テネブラルムを見ると常に不安を感じていた。
才能があるのにどうしてあんなに排他的で自虐的に生きているのだろう、と。
「インサニアくんは自分勝手に生きてるだけだよ?ジョンくんは礼儀正しく考えすぎじゃない?」
食事デートというにはあまりにも仕事上の会食のようなデートに苦情を入れてきたことは一度もないアンナ=マリに、ふとインサニアのことを尋ねたらそう返ってきた。
「才能があるのに?」
「そうだよ?自分のために使って生きてるって感じかな?解る?」
「難しい…医療のために使っているのに、自分のためというのが解らない」
「ジョンくんはそのままでいてね。病院の良心だ。だから副院長に選ばれたんじゃない?」
「それも…インサニア先生がふさわしいのに」
「派閥の問題って説明受けたでしょー?」
「…貴族のことも、理解しがたい」
「難しいこと考えないでさー。患者のこと考えていよー?」
「……」
面倒ごとだぞ、とアンナが言っているのは理解している。
理解していた。
インサニアのせいで複雑さが増している。
才能があって医者の道に進んできた、それはジョンにとっても喜ばしいことだ。
でも、才能を発揮できないことは悲しいことだ。
好き勝手していることも、派閥により出世することを妨害されていることも。
そしてそれをどうにかできるほどの立場でもなく、権力もない自分の弱さをジョンは痛感していた。
◇◇◇◇
患者と一部の医者や看護婦は肉塊のままである。
生きる気力を失っているのか、エリザベスの罰を受けているのか―――両方かもしれない。
院長は肉塊となってしまっているのでジョンが院長代理となっていた。
『はぁ…』
手で顔を撫でる。陥没した顔がある。いや、顔面はもう失っているのだが。地獄に堕ちた時に化け物によって顔面を剥がされたのだ。
眼球もなく中途半端に残った歯や管や骨、肉…かろうじて半分残っているような状態。それなのに喋れるし見えている。手で触っても必要なものがないという実感しかない。
痛みはないのだが、スース―して落ち着かないのだ。
薄い金髪が血で汚れるのも仕方がない。
日課の回診を始める。
病人がいないので徘徊するしかないのだ。
たまに同じく徘徊しているアンナと出会って言葉を交わすこともある。
中身が見えて素敵になったねと心からの言葉を言われた時は少しときめいてしまった。
何事も無ければ彼女と結婚していただろうに。
『あれは…』
賑やかな声だなと思ってロビーに向かえばいつものメンバーが集っていた。
ゆらゆら揺れているマークがジョンに気づいた。
揺れているのは仕方がない、彼の両脚はもうなくて触手が支えているのだから。
『ブレナン先生、回診ですか?』
『そうだ。ここで何をしているんだ?』
『場所はどこでもよかっただけなんですけど。インサニアで遊んでただけ』
視線を床に向ける。
アンナがインサニアを解剖していた。
あいかわらずの解剖マニアだ。
『綺麗な解体ですよね』
『ああ、そうだな…』
ジョンはマークに頷きながらインサニアの内臓を一つ掴んで眺める。
まだ温かい。
腐敗臭もなく綺麗なものだ。
自分も含めて周りの者たちは死臭が漂っている。鼻を失っているのに感覚が残っているのが不思議だ。
スース―して不快な顔にあたたかな内臓を押し当てる。
『…落ち着くかも』
『顔の違和感なくなりますか?』
マークが嬉しそうに問うてくるので頷く。
『良かったねインサニア!解剖される理由が出来たよ!』
『ジョンくんこれも使う~?マーくん巻き巻きしてあげてよ』
『いいよ』
あれよあれよと顔を埋められていき包帯を巻かれる。
不格好であろうが、不快感は無くなった。
『インサニアくんの顔被ったほうがよくない?』
『それはちょっと…わたしの顔ではないし…』
『えー?そう?ぶにぶにしてるなー』
アンナはジョンの顔を揉んでいる。
『インサニアくんの中身がここにあるんだよねー、へへへ』
アンナに口づけされてジョンはドキドキする。
『許さない…』
カルロの視線が痛いが、何もしてこないだろう。
『あ、なんかこれいいかも。』
ジョンの顔に自分の頬をすりすりしはじめる。
『しばらく一緒にいようジョンくん!なんかこれいいかも!いいね!』
ツボに入ったらしい。ジョンはアンナを抱き上げる。
『では回診に付き合ってください』
『いいよー!』
『アンナを取られたー!』
『カルロくんのものになったことないからねアンナ』
手厳しいアンナ。
『ストゥルニ先生も一緒に回診行きましょう』
『いいやつなのが本当、なんか、もう…勝てない…』
『勝負になってないんだよなぁ…』
悔しがるカルロにマークはしっかりツッコミを入れていた。