大猫
「にゃんにゃーん♪」
「サスちゃんが無限に可愛い」
猫耳をつけてはしゃぐサスペリアの姿にラクリマは身悶える。
ラクリマの猫好きはこの域まで達していた。
「ビアンコとお揃い♪」
サスはラクリマの飼い猫である巨大な白毛玉ビアンコに抱きつく。
一般より大柄な猫であるビアンコはサスペリアより少し小さめだがサスペリアからみれば自分と同じぐらいのサイズだ。
枕がわりにもなる。サスペリアはビアンコを気に入っていた。
そんな光景が繰り広げられるなか、インサニアは部屋の隅っこに座り込んでサスペリアとビアンコを睨んでいた。
猫アレルギーではないのだが彼は生まれつき猫や子供といった小動物が大嫌いなのである。
(くそう、ジャガイモと毛玉にラクリマのハートを奪われている…)
ギリギリと奥歯を噛み締めるインサニア。
ラクリマは表情を緩ませ悶えている。あんな顔は自分には見せてくれない。
「ハッ…そうか!」
気付き、立ち上がるインサニア。
そしてラクリマの部屋に向かいとあるアイテムを探し出す。
「ラクリマ!見ろ!」
「何よ」
振り返るラクリマ。
「にゃん」
インサニアも猫耳をつけていた。
「にゃんこ…」
明らかにラクリマの態度が変わる。
いままで冷たい目だったのが一変し愛しそうな目に変わったのだ。
恐るべしにゃんこパワー。
「お前の好きな猫だぞ。さぁ可愛がれ、今すぐ可愛がれ」
ラクリマに抱きつくインサニア。
構ってもらえていなかったことが意外と彼に寂しい思いをさせていたようだ。
しかしラクリマは首を横に振る。
「まだ可愛さが足りないわ…」
「なにぃ!?」
「サスちゃんみたいな可愛げがない」
「なんだとぉ?」
サスペリアを睨むインサニア。
「にゃ…にゃあ…」
父の視線にビクビクするサスペリア。
しかしインサニアは罵倒することなく、一呼吸置いてラクリマの方に視線を戻す。
「にゃん♪」
にっこり微笑んで愛嬌を振りまくインサニア。
しかしラクリマはため息を吐いて再び首を振る。
「純粋さがない…ていうか貴方って表情しか変えてないのよね…中身も猫になりきらないと」
「無茶いうなよ、私は人間だぞ」
真顔に戻るインサニア。
「サスちゃんは猫らしいわ」
「ジャガイモも毛玉も一緒じゃないか」
「聞き捨てならないわね。ジャガイモ?毛玉?私のサスペリアとビアンコが可愛くないってことかしら?」
ぐわしっとインサニアの襟首を掴み上げるラクリマ。
「ぶっちゃけあいつらのどこが可愛い?」
「まぁなんて人!あなたねぇ!娘を愛しなさいよぉぉぉぉぉ!」
ブンブンとインサニアを振るラクリマ。
細い腕をしているのに凄い力である。これが愛のパワーかもしれない。
「ま、ママ!パパを虐めちゃだめだよぅ」
ビアンコを抱きしめながら叫ぶサスペリア。
「サスちゃん…私に似て優しい子…」
うるうるしながらインサニアから手を離し、サスペリアを抱きしめる。
「くっ…ラクリマは私のことが嫌いなのか?」
「え?なんで?」
「わたしだってお前にそんな感じに抱きしめられたい!!!!」
「子供ですか貴方は」
「……」
一刀両断されてサスペリアを睨みまくるインサニア。
「大人気ないパパよねー」
ラクリマはそういいながらサスペリアに頬ずりする。
インサニアは立ち上がり何やら自分の寝室へ向かう。
そしてそのまま出てこなくなった。
「スネたか…」
「ママ、パパを虐めないで…。サスなんだか悲しいの」
「サスちゃん…!ママに似て優しい子…!わかったわ、仲直りするから泣いちゃダメ」
「うん…」
むぎゅーっとラクリマに抱きしめられ続けるサスであった。
◆◆◆◆
インサニアと出会ったのは彼が勤務していた病院にラクリマが患者としてやってきた時だ。
過労とストレスで喉を痛めてしまったラクリマの担当医が彼だったのである。
インサニアは彼女に一目惚れし(オペラや映画に興味がなかったためラクリマを知らなかった)、手術後に彼はラクリマへ猛烈アタックを開始した。
何度も断ったのだが結局その根気に負けて結婚を承諾した。
態度はデカいし強引で我侭な男は、実は自分よりも年下で金持ちの孫であることがのちに判明する。
そういう性格になってしまった原因がなんとなくわかった気がしたラクリマだったがそれは見当違いだったらしい。
結婚式当日、財閥を現役で統括する祖母がやってきてインサニアと大喧嘩に発展した。
孫の結婚式に来て何が悪い、と祖母。
お前なんか呼んでない帰れ、の一点張りのインサニア。
そしてそのままインサニアはラクリマを連れて帰ったのであった。最悪な結婚式だった。
あとで解ったことだがインサニアの母親と祖母はインサニアを産むか産まないかでもめたらしく母親はそのまま家を飛び出しインサニアを女手一つで育て上げたらしい。
その生活はかなり厳しい上に貧しかったらしく、そういう経緯でインサニアは祖母を恨んでいるようである。
祖母の方は跡取りが欲しいとかなんとか言い出して和解を求めているのだが、和解は一生ないかもしれない。
金に汚いインサニアでもプライドはあるらしいのだ。
一度「お金持ちになれるのに勿体無い」とラクリマは彼に言うと不機嫌そうな顔で「母さんを酷い目に合わせたヤツの金などいらん」と答えた。
それにはちょっと好感が持てたラクリマであった。金に執着している割りにそういうことも言えるんだなぁ、と。
「…起きてる?入るわよ」
ノックをしながらラクリマは寝室に入った。
インサニアはベッドの中に潜り込んで丸くなっている。
ラクリマはベッドに歩み、腰かけてインサニアの背中を撫でた。
「もう、私は貴方のお母さんじゃないんだから世話やかせないで」
「…サスペリアに馴れ馴れしい」
「親子なんだから当たり前でしょ!」
「サスペリアばっかりずるい」
子供みたいなことをいうインサニアだが、本人は至って真面目である。
もう少し心を広く持って欲しい。
「貴方はもう大人なんだからそれぐらいガマンしなさい」
「…ラクリマは私のものだ」
インサニアは顔を出して振り向き、ラクリマの白い手を握り締める。
「貴方の物でサスの物ってことじゃだめなの?」
「ダメだ」
「どうしてよ」
ラクリマはため息を吐きながら、あやす様にインサニアの髪をゆっくり撫で始めた。
「どうしてサスペリアにやらなくちゃいけないんだ」
「私はサスペリアの母親なんだから当然なんです。…貴方のお母さんもそうだったでしょ?」
「……」
ふてくされるインサニア。
「変なところで子供なんだから。サスちゃんの方が大人だわ…」
「わたしは大人だ」
「だったら子供の前でダダこねないでね」
そういってラクリマはインサニアにキスをする。
インサニアはそれを受け入れ、ラクリマを抱きしめると濃厚なキスを返す。
「サスペリアのどこが嫌いなの?貴方の子よ?」
「私の子だからだ、汚らわしい…」
吐き捨てるように言う。それはサスペリアに対してだけではなく、自分に対しても言っているような気がした。
「貴方は貴方じゃない」
ラクリマは彼が昔に話してくれた出生のことを思い出しながら「父親は父親、貴方は貴方よ」と言い聞かせながら頭を撫でる。
「私は…」
インサニアはラクリマを見る。真っ黒い瞳でラクリマを見上げる。
「父親と同じだ。強姦まがいのこともしたし、医者になっていなかったら私はきっと殺人犯になっていた!
この血が憎くてたまらん!あいつと同じ血が流れていて同じことをやっているんだぞ…!」
「サスちゃんは良い子よ!貴方だって良い人」
「っ…? 良い人?」
「多分」
視線を泳がせながら呟くラクリマ。良い所を上げるのは、ちょっと考える時間が欲しい。
「貴方…わたしには普通に接してくれるじゃない。」
「それはラクリマのことが大好きだからだ」
「じゃあサスちゃんも好きになって」
「ヤダ」
そっぽを向くインサニア。
「言い方を変えます、貴方のことが好きな私はどうすればいいの?」
「え?」
「私もサスちゃんも貴方が好きなの。なのに貴方は自分のことが嫌いでサスちゃんにも八つ当たり。
私たちの気持ちはどうしてくれるんですか?」
「…………」
泣きそうな顔をするインサニア。
「もー…」
ラクリマはため息を吐きながらインサニアの横に添い寝し、抱きしめた。
香水か化粧の匂いが漂ってくる。
インサニアはラクリマに会うまで化粧っ気の薄い地味な女性とばかり付き合っていた。
だからラクリマと結婚すると知った知り合いたちは皆驚いたものである。
ラクリマは仕事上の関係で華やかなものを好む。
そんないままで付き合っていた女性と正反対の女性に、インサニアは心奪われたのである。
「うぐ!?」
いきなり呻くインサニア。なにやらドスンと重い音がした気がする。
ラクリマが視線をずらすとインサニアの腹の上にビアンコが陣取っていた。
「あらビアンコ。お寝むなの?」
ビアンコは何故かインサニアの上が好きらしく好きあらば乗っかってくるクセモノだ。
「どけろラクリマぁ!!!」
「いいじゃない。猫アレルギーじゃないんだし」
「不潔!汚い毛玉がぁ!!」
「ビアンコ、入っちゃだめだっていったのに」
サスペリアがちょっとビクビクしながら入ってくる。
「サスペリア!この毛玉をどけろ!!」
父親に叫ばれてビクッとなるサスペリア。
「別にいいわよサスちゃん。こっち来て一緒に寝ましょ」
微笑むラクリマにサスペリアも顔を緩ませて嬉しそうにベッドの上に上がってきた。
もともと二人用のベッドなので子供と猫が増えただけで狭さは感じない。
「勝手に決めるな!」
「はいはい。ん~サスちゃん可愛い~」
サスペリアに頬ずりし、ラクリマはインサニアを挟んで反対側にサスを寝かせる。
「ママ?」
いつもと違う配置に戸惑うサスペリア。
いつもならサスが真ん中になるはずなのだが。
「パパがスネちゃってるから二人で慰めましょうね~」
そういってラクリマはインサニアにくっつく。
サスペリアも最初は戸惑っていたが、母が進めるので従ってインサニアの腕に抱きついた。
「嬉しい?テネブレ」
「ぜんっぜん嬉しくない」
「素直じゃないんだから」
むくれる夫に、ラクリマは苦笑した。
END
↓↓↓当時のあとがき↓↓↓
地獄一家の日常の1コマ
ビアンコのモデルは映画「インフェルノ」の「涙の母」が抱いてたデカネコです。
↑↑↑ここまで↑↑↑
地獄一家って呼んでたんだ…w
このときはまだラミレスというキャラも産まれてないんですよねぇ。