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 残りの業務内容を考えながら、マークは廊下を歩いているといきなり肩を掴まれ後ろへ引っ張られる。
 黒い影が視界を遮ったかと思えば唇に何かが触れて、侵入したモノが口内を掻きまわす。
「ぅ…!?」
 インサニアがキスをしてきたのだと脳が把握した途端マークは離れようとするがインサニアはマークの手首を掴み押さえ込んでくる。人目のある廊下なのにとマークは焦るが幸い人のいないときにインサニアは狙ってキスをしていた。
「い、んさにあ…」
「来い」
 インサニアはマークの腰に腕を回して看護婦との逢引きに使っている部屋にマークを連れ込む。
 以前は備品置き用の小倉庫のような扱いの部屋だったがインサニアと看護婦たちの共謀でそういうことをするための部屋となっていた。ベッドに押し倒されそのままマークは後ろからインサニアに犯される。
 院内ではいつもこうだ、ヤりたくて仕方がないとき、サっと済ませられるマークに手を出してくる。
「痛…いんさ、にあっ痛い…」
「……」
「うっ…んぅ、う…」
 唇を噛み締め、声を堪え、インサニアが早く終われるように力を抜いて極力抵抗せぬようにとマークは意識する。
 ゴム付きのインサニアのナニの圧がキツい、いつもキツくて慣れない。慣れるわけがない。
 揺さぶられているとき不意にインサニアが耳元に顔を寄せてくる。
「マーク、明日お互い休みだろう?お前の部屋に行くからな」
「…!」
 かぁ…っと耳まで赤く染めてしまうマーク。
 今夜のことを想像するだけで体が反応してしまった。
 ゾクゾクと湧き起こる教え込まされた快楽の波がインサニアのナニを締め上げ、その刺激に一人で勝手に達してしまう。
 インサニアの低い嘲笑いが聞こえる。
「うっうぅ…」
 腹の底から熱を感じる。インサニアが出したのだ。終わった。
 引き抜かれ剥き出しのナニを包んでいるゴムをマークは外してやり、タオルで汚れを拭ってやるとインサニアは表情一つ変わることなく身なりを整え出て行ってしまった。
 マークも接合部の痛みと違和感に耐えつつ身なりを整え部屋を出る。
 部屋の片づけはインサニアの愛人である看護婦さんたちがやってくれるので楽といっていいのか心苦しいといっていいのか。しかし全部一人でやれといわれても心が折れてしまいそうだ。
 業務に戻って作業をしているとアンナとカルロが賑やかに帰ってきた。
「あ、マーくん!明日インサニアくんとデートなんでしょ?アンナねぇ明日はインサニアくんの分まで切っていいから楽しみで楽しみで!」
 腕をぶんぶん振っていうアンナ。その後ろでカルロは優し気な目でアンナを見下ろしててマークは不気味さを感じた。
「俺とデートってインサニアが言ってたの?」
「うん、おうちデートでしょ?」
「そうなのかな…?そうかも…?でも俺とインサニア付き合ってないからね。お友達の家にお泊りだよ」
「そっかー。まぁゆっくり休みなよ」
(ゆっくりできないかな…)
 心の中で苦笑するマーク。
 インサニアに抱かれることに抵抗はある。あるのだが、仕方がないと受け入れている自分もいる。
 大学時代にインサニアにレイプ紛いの…いやレイプではあったが、事後承諾のセックスをして以来インサニアに対して甘くなってしまった。あの時のインサニアの壊れっぷりが恐ろしすぎたのだ、インサニアは脆い。支えがいるのだ。
 自分がその支えになっているはずなのだ。
「じゃあね~」
 アンナが去っていく。無論カルロも。
「カルロって仕事してんのかな…」
 マークは首をかしげる。マークは薬師の仕事もあるのでこうやって椅子に座っていることが多いのだが。
 マークの疑惑の目を向けられているカルロもちゃんと仕事をしている、しているのだがアンナにベッタリなのでイマイチ理解されていないカルロなのである。



    ◇◇◇◇



「……」
「急だから片付けてないよ」
 マークの部屋の中を見てインサニアが嫌そうな顔をするので突っ込む。
 汚部屋ではない、オタ部屋なのでちょっと散らかっているだけだ。
 踏んで割られたくないのでマークはインサニアを玄関に待機させてレコードなどを安全な場所へ避難させていく。
「整理整頓をしろ、という話なのだが?」
「片付けてるの!これはこれでいいの!ほら、どうぞ上がって」
 インサニアを招き入れる。
「すぐヤるの?」
「あぁ」
 じゃあ準備するから、とマークはシャワーを浴びに行く。
 インサニアはベッドに腰かけて待つ。ごちゃっとした部屋に不快感はある、インサニアの部屋が何もなさ過ぎるせいもあると思うが。
 ちなみにインサニアはシャワーを浴びない、浴びようとしたがマークがそのままでいいと我儘をいったからだ。
 どうもマークは匂いフェチの気があるので、インサニアは相手の性癖を尊重した。マークのことは変態だと思った。
「お待たせ」
 しばらくしてマークが戻ってくる。タオル一枚腰に巻いた姿だ。
 その姿を見てインサニアはいつも不思議に思う、インサニアは男が大嫌いで、男の裸なんて見た日には嘔吐だ。
 でもマークは平気。何故かは解らない。母の死がショックすぎて薬とアルコールに逃げた時期に錯乱していて犯したことがあり、そこで判明したことだ。
 身体を重ねれば解るだろうかというのも考えたことがあるが、今はもうただの便利な性欲の捌け口だ。
 女の様に過剰に粘着してこないのが楽でいい。穴として優秀。胸さえあれば。もっと優秀だったのに。
 昼間はさっさと終わらせたかったので解すこともしなかったが今からはちゃんとやる。
 ゴム手袋を嵌め、四つん這いにさせたマークの尻にローションを垂らしながら指先を挿入していく。
「んっ…」
 昼間よりも艶めかしい声色で呻くマーク。腰が指の動きに合わせて揺れて物欲しそうにもう反応し始めている。
 前立腺あたりやマークの好きな部分を指で強めに擦ると面白いぐらいに腰が揺れた。
 小さな声でインサニア、と呼び掛けて途中で飲み込む。催促してもインサニアはいうとおりにしてはくれないからだ。
 ただマークは熱で肌を赤くしながら涙をぽろぽろ零すことしかできない。
 指で刺激されるだけで我慢できないような体にされてしまっている、屈辱のようなものを感じながらもその支配に身を委ねている自分がいる。指の数が増えると期待で息が荒くなる。
 指が引き抜かれ、そして望んでいたものが抉るように入り込んできて―――マークは声を上げて腰を痙攣させる。
 インサニアがマークの腰を掴んで打ち付け始める。肌がぶつかり合う音が遠くで聞こえるような感覚。
「あっ、ぁ、ん、ぅ!いん、さ、に、あぁ…」
 はくはく、と呼吸を乱しながらマークが強請るように名を呼ぶ。
 インサニアはキスをしてくれる。強引に顔を向けさせながら。インサニアの舌が絡んでくる。この舌の熱さも混じり合う唾液もインサニアのものだと思うとマークは脳が痺れるような感覚と共に射精してしまう。
「キスでなんでイクんだ…」
 呆れた声。だがインサニアの黒い瞳はなんの感情も映していない。
「美味しくて…?」
 頭の回っていないマークはそう答える。
「……」
 インサニアは眉を顰めて顔を離し、再び責め始めた。





 お互いに何度か射精を繰り返し、マークの意識がぐちゃぐちゃになってきたころにマークはおねだりをし始める。
 抱き着かせてほしい、というおねだりがしつこくてインサニアは承諾した。
 正常位の体位でマークはインサニアに犯されながら抱き着く。インサニアの匂いに包まれているような感覚が興奮を煽った。インサニアは全裸ではない、ズボンだって中途半端に脱いでいる状態だ。
 だから余計にインサニアの匂いを感じれているような気がした。錯覚かもしれないが、マークはそう感じたのだ。
 そろそろ終わりだろうというときにマークは高まっているインサニアの不意を突いて耳を噛んだ。
 もちろん甘噛みだ。
「んッ…!?」
 インサニアの裏返ったような声と下腹部の増す圧迫感。
 マークはインサニアの頭を抱き込むように捕まえて耳に舌を這わせ噛む。息が荒いままなので息を吹きかけているようなことにもなっているだろう。インサニアは悶えてマークを引き離そうとマークの髪や手を掴むがマークは気にしない。
「やめ、ろっやめ…!!!」
「インサニア…すき、インサニア…!」
「やめ、ろ!」
 マークを引きはがす。
 耳が赤い、目も潤んでいる、初めてみたインサニアの表情。
「耳、弱かったんだ…」
「うるさい!うるさい!」
 インサニアの両手がマークの首を絞める。
 苦しくて苦しくて、マークは悶えるが気持ちよくもあった。体がおかしくなっているせいだと思った。
 インサニアの手が緩み、そのままナニを引き抜かれていく。
「はぁ、はぁ…最悪…」
 インサニアは辱めを受けた耳を手で擦りながらシャワーへ逃げていく。
 ちょっと勝ったような気になるマーク。
 もっと探せば弱い部分がありそうであるが、ムズカシイなぁとも思った。
 服を脱がないから。
「インサニアに好きって言っちゃった…」
 別に好きでもないのに勝手に言っていた。雰囲気に飲まれたのかもしれない。
 友達として好きだから…そう考えながらマークは疲労の限界で意識を沈めていった。
 


    ◇◇◇◇



 翌日夕方。
 ―――マークめ、生意気なことを。
 インサニアは不機嫌にマークが行った反撃を考えていた。
 女にあんなことされたら不快感しかないのに、マークだと不快感がなかった。おかしい、なぜ?どうして?
 悶々としながら帰路であるスラムの中を進む。
 潔癖症ぎみのインサニアだがここの汚さはなんとも思わなかった、自分の身体に合っていると思っているからかもしれない、自分の身体は薄汚れているから。母を孕ませた強姦魔の子である自分は父親と同じ穢れだ。
 父親と同じことをしてしまう、止められない、気づけばそうしている。気づけば、ではない、自分が望んでやっている。
 ―――吐きそうだ、こんな自分が嫌になる。嫌だ、嫌悪感が止まらない。
 セックスしているときだけ何もかも忘れられているのだ。
「先生」
 家に近づくと、家の前で待っていたらしい女性が声をかけてきた。
 全体的に地味な印象の女性だがインサニアの院外のセフレの一人だ。
「今日はヤる気分じゃない」
「かまいませんよ、ご飯を作りにきました」
 手荷物を少し持ち上げて微笑んでくる。
「勝手にしろ」



    ◇◇◇◇



 マークは大好きな曲を聞きながらぼんやりしていた。
 インサニアがいなくなると寂しい。しかし一緒に生活しているわけではない。
 明日職場で会える。しかし物足りないと感じてしまうのは欲深いかもしれない。
 そういうのはインサニアが嫌がることだから。
 熱を思い出して体が疼く。
「いや…だめだろ…そういうのダメ。俺はノーマルだし」
 気を紛らわそう、マークは次に流す曲を選ぶためレコードを何枚も引っ張り出し始めた。


おわり


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