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頭の中がぼんやりする。
痛みのせい?傷からの発熱のせい?
下半身が熱い。もうないのに体は手を使って藻掻こうとしている。
全部奪われた。人としての尊厳も大切な手足も。
「何も知らずにわたしの友人であれば良かったんだ。
嗅ぎまわらなければこんな惨めな『患者』ではなく晴れやかな『医者』でいられたのになマーク先生?」
俺に背を向けて歩き出すインサニア。
「また来るよ。お前の分の仕事もしなくちゃいけない」
そういって扉が閉められる。
だ…誰か助けて声が、声が出ない
声が出ない…助けて…
この病院全体がインサニアの凶器に感染したんだ
インサニア…
人を傷つけたくて仕方がないんだ
他人の苦痛を感じていないと
気が狂う狂人だ…ああ…
俺が惹かれていたのは その暗闇の部分ではなく て
俺 は… そんな部分に 惹かれて な イ…
唯一できる抵抗だった。
舌を噛み切った。薬で力の入らない身体のはずなのに、なぜか噛み切れるほどの力が出せた。
口の中が熱くなる。
俺はその熱さにインサニアにキスをされたときを思い出していた。
まだあの頃は、インサニアも人間だったかもしれない。
ただただ苦しい、笑わないとやってらんないぐらいに苦しい。
インサニアを憎く忌々しく、愛しく思ってしまうのはエリザベスの感情に引っ張られているのだろうか。
俺はインサニアをほうっておけなかっただけ。
人を殺すのを止めろというのがそこまで罪か?
みんなおかしい、みんなみんな。インサニアのいうことを聞いて。
エリザベスと感情が混ざってしまう、みんなを地獄へ引きずり込んでしまう。心臓を抜き取って、潰して。
知ってる人も知らない人もみんな一緒に。
俺がみんなと唯一違うのがインサニアに絶望したからだ、エリザベスと同じ、インサニアに絶望した。
信じていたのに。
インサニアはそれを笑って踏みにじってきた。
地獄ではみんな生前の行動を繰り返している。
マリサは肉塊になって苦しんでいる、監禁されていた俺を甚振って楽しんでいたのだから苦しんでいて欲しい。
アンナは足りない頭で解剖ばかりしてるし、カルロは黙ってアンナにくっついている。
エリザベスは地上でインサニアにベッタリだったけど、今日インサニアが死んだ。
天寿を全うして。ラクリマさんに守ってもらっていたから。
でももうラクリマさんは歌えない。インサニアは守られない。
エリザベスがインサニアの魂を引きずり込んできた。
愛しい、忌々しい、憎い、口から血が溢れ出てしまう。苦しい。
失った腕の代わりにしている包帯でインサニアを逃がさないよう捕まえる。
『ゆっくり楽しんでくださいなマーク先生』
エリザベスの声。
どう楽しめばいいのだろう。もう俺もインサニアも死んでいるのに。
カルロがインサニアに反応する。
カルロはずっとインサニアのこと好きだったけど、怖がって声もそんなにかけてこなかったもんね。
アンナがやっぱり解剖したがる。
バラバラにしたあと繋げてあげよう、死んでも死ねないから俺たち。
インサニアが悪夢だという。
俺たちを悪夢にしたのはお前なんだからなッ!!!
怒りなのか、絶望なのか、悲しみなのか、俺はインサニアを締め潰していた。
でも、また蘇るから。
ここはそういう場所なんだよインサニア。
そういう場所にしてしまったんだよ。
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