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ふわふわな記憶で勢いで書いたものです

 初めは誰かが背中にぶつかってきたのかと思った。
 ただそれにしては湿り気もあったし弾力もあって、不快感がすごかった。
「カルロくん?」
 少し前を歩いていたアンナが足を止めて振り返る。
 俺は何がぶつかってきたのか振り返りたかったが腹部の激痛にそれどころではなかった。
 腹から肉色の突起物が生えている。本能的に引き抜こうと握るとそれは肉の弾力でそれは手に巻き付き腕に絡みつきながら締め潰してきた。
 訳の分からない状況だが左耳あたりも激痛が走ってそこから意識が途絶えた。
 アンナは不思議そうな顔で俺をずっと見ていた。



 意識が戻ると、俺だけが意識があるんだなぁ…と気づいてしまった。
 腹から自分の内臓と混じって肉色の塊が垂れているし、左目がないのに周りの景色が変わらなくはっきりと見える。
 潰された右腕は肉色の塊が垂れていた。
 俺たちは食われたのだ、この肉の塊のような者たちに。
真っ白く無機質だった病院は色んな人間だったものが散乱し肉塊に混ざりあって穢されて
 愛しいアンナは相変わらずのんびりしているが服が赤く染まっていて、返り血ではないので服の中がどうにかなってしまっているのだろう。
『かいぼー♪かいぼー♪』
 生前の口癖(好きなこと、と言えなくもない)を言いながら指揮棒のように愛用のメスを振り回してふらふらインサニアを探し歩いている。
 アンナの後頭部は削られていて中身がたまに零れるので、俺はそれを拾って詰めてあげる。
 落ちると他の肉と混ざってしまうのだが、仕方がない。分けようがない。
 俺は意識はあるが、漏れる声がうまく言葉にならないし体も勝手にアンナの後ろについて回っている。
 生前の行動をなぞっているのだろうか。きっとそうに違いない。
 俺は死ぬまで他人(ひと)の後ろを着いて回るだけだったなぁ…。
 でも家のしがらみがなくなったし今の人生満更でもないかも。インサニアがここに堕ちてくるまでこのままだろう。
 あぁインサニアに会いたいな。みんなそう思ってる。
 インサニアのためにみんな地獄に堕ちたのだから、みんな待つだろ。
 インサニアが愛しい、幼馴染なのにインサニアは俺のこと覚えてもくれなかったけど、ポっと出のマークにインサニアを取られちゃったけど。アンナもインサニアを好んでいるし!あいつはモテる。
 あの真っ黒い…闇のような眼が良い。
 あいつが残酷であればあるほど愛しく思う。
 いつここにインサニアが来るだろうか。みんな待ち遠しい気持ちだろうな。たぶん。




『あはははは!』
 ご機嫌なマークが何かを引きずってやってきた。
 死んでからの方がテンションがバカに高い。生前はあれ、遠慮していたのかもしれない。
 でもインサニアに遠慮せず踏み込んだら死に追い込まれたので、どっちが良かったのか解らないが。
 俺は一歩引いていたから何もされなかった。それも良かったのかどうか、わからない。
 マークは舌を噛み切って死んだので喋ると口から血が溢れてきて不便そうだが発音はしっかりしている。
 俺がよく見えるのと同じ仕組みかも。
『インサニア!』
 引きずっていたものはインサニアだった。ついにここに堕ちてきたのだ。良かった。
 インサニアはマークの包帯にぐるぐるに巻かれていた。
『インサニアくん!かいぼーしてあげるね!』
『インサニア、繋げてあげるからね!』
 アンナとマークが楽しそうに笑う。良かったな。楽しいもんな。
 二人はインサニアとともに手術室に歩み始める。
 インサニアの顔色は悪い。
 真っ黒な瞳は誰とも目を合わせようとせず遠くを見ている。
「…悪夢だ」
 ぽつりと零れる。インサニアの呟き。
 ああ、俺たちって友達じゃなくて悪夢なんだ…。

 ちょっと悲しい気分になった。



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