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「…うーん、特にどこも異常は見られないな」
「当然だろう?俺は完璧で完全で美しいからな」
 ジェミニはマグネットに答える。
「ジェミニ」
 マグネットは真っ直ぐにジェミニを見つめる。
「スネークと喧嘩したんだろう?」
「スネークが言ったのか?」
「シャドーだよ、シャドーが何かあったんじゃないかって。俺に聞いてくれって」
「ふん、俺とスネークが喧嘩をするだなんて前からあっただろう、何を今更。壊れているのはシャドーじゃないか?」
 笑みを浮かべ、目を細めて言うジェミニ。
「…ジェミニ、お兄ちゃんはね…ジェミニもスネークも大切にしたい。
 でもジェミニがスネークを大切にしないのならお兄ちゃんはジェミニを怒るよ、残念だけどね」
「勝手に怒れば?俺は何も間違ったことはしていない」
「ジェミニ」
 去ろうとするジェミニの腕を掴むマグネット。
「触るな」
「いや触るね」
 ジェミニをそのまま引き寄せ抱きしめる。
「俺はジェミニのこと、綺麗だと思うよ、とても美しいよ?」
「そりゃあどうも、アリガトウ」
「でも心は醜いと思う。今のジェミニの心は醜いんだ」
「ま、マグッ……マグネットォ!?」
 ジェミニの形相が変わる、ものすごい勢いでマグネットに掴みかかってくるが、マグネットは平然とそれを受け止めた。
「図星なんだろ?ジェミニはよく自分を見つめているから気づいちゃったんだろう?
 スネークに対して自分が行う醜態にさ、自分の中身が醜いって。
 だから余計にスネークに冷たく当たっちゃっていたんだろ?違う?」
「ッ………」
 ギリッと奥歯を噛み締めながらマグネットを睨み続けるジェミニ。
「ジェミニは正常だよ、でも心が正常じゃない。心だけは俺たちにはどうしても直せない、自分で直すしかないんだ」
 言い聞かせるようにマグネットは言う。
 しかしジェミニの目は酷く揺れ動いている。
「俺は、俺は…完璧だ、心だって完全で…全部スネークのせいなんだ、あいつが蛇だから…。
 あいつ、あいつが…いつもあんな目で俺を見ているのが悪いんだ!
 まるで俺を見透かしているような…!醜い蛇のクセに美しい俺のことをわかっているような、そんな目…!
 ああ、可哀想な『俺』!君のことを理解しているのは私だけなのに。
 そうだ、俺を理解できているのは『私』、君だけなんだ……!!!」
「ちょ、ジェミニ?ホログラムでてないよ?」
 『独りっきり』で口走り始めるジェミニに驚くマグネット。
「落ち着いて、ね?ちょっと過負荷がかかってるみたいだから、落ち着こうね?」
 マグネットはジェミニを椅子に座らせる。
「ごめん、別に責めたかったわけじゃないんだ。そんなに取り乱すとは思わなくて…俺が悪かった」
「………」
 低く、深く、息を吐くジェミニ。
「俺は俺だ。スネークじゃないんだ」
「うん、そうだね。ジェミニは美しいね」
 よしよしとジェミニを抱きしめて頭を撫でるマグネット。
「そう、美しいんだ…俺は…美しい……」
「美しいから、スネークを苛めちゃダメだよ?苛める分だけ醜くなるから」
「醜く…スネークになっていく……」
「ならないよ、ジェミニはジェミニ」
「俺は、俺…うん…解ってる……解っている……」
 手で顔を覆いながら、ジェミニは震える。
 マグネットはもうそれ以上なにもいえなかった。



   ◆◆◆◆



「センパーイ、こっち終りましたー」
 スネークが纏めたデータが詰まったメモリーを投げてくる。
「早いな」
 それをフラッシュは受け止めながら、眉間に皺を寄せて呟いた。
「はぁ、まぁ…集中したんで」
「普段集中してなくても早いのに…」
 ちょっとショックなフラッシュ。
「あぁ、普段は先輩眺めながら仕事してるんでー」
 へらへら笑うが怒る気になれない。
 久しぶりに見るスネークはどこか憔悴しているように見えたからだ。
「お前なんかあっただろう。」
「いや、まぁ…抱いて慰めてくれます?」
「するかバーカ」
「ですよねー。先輩が気にすることでもないですよ」
「バカ、先輩だから気にするんだよ」
「……あぁ、俺は孤独じゃない」
 ぽつり、奇妙なことを呟く。
「あん?」
「いえ、別に」
 スネークはふにゃりと表情を変えてフラッシュに抱きつく。
「他にお仕事あります~?」
「もうねぇけど、ここに居たかったらいていいぞ。」
「なんで先輩って俺の考えてることわかるんですか」
「顔にでてる」
 答えながらフラッシュはスネークの柔らかいほっぺを摘んだ。





 しかしずっとフラッシュの部屋にいるわけにもいかず、スネークはサード区へ戻った。
 深夜の時間帯なので騒がしい気配はない。
 セカンド区が騒がしすぎるという気もするのだが。
 休息所を覗くと、マグネットとシャドーが飲んでいた。
「あ、おかえりー。遅かったね」
「一緒にいかがだろう?」
「んー…」
 スネークは少し考える素振りを見せて、ゆっくりとした足取りで入っていく。
「ジェミニは?」
「今日は見ていないでござるから、部屋に篭っているのでは」
「あ、ちゃんと検査はしたよ?」
 マグネットはスネークにグラスを渡しながら言う。
「正常だったよ、メモリーも電子頭脳もおかしなところはない」
「……嘘だ」
「でもね、多分だけど心の方が壊れてる」
「心?」
「うん、そっちはどうしようもないからなぁ。パーツを交換してはいおしまいってワケにもいかないし」
「あいつの心は完璧じゃないのか」
 スネークが呟く。
「自我が強いんだから、心だって―――
 ジェミニは自己完結型だし、なんで壊れるんだよ」
「完璧じゃなかったんだよ。自己完結型だったからなお更に、脆い」
 マグネットは残念そうに目を細めた。
「どういう……?」
「拙者にはよくわからぬ話でござるなぁ。まぁ飲もうスネーク殿!」
「いや、やっぱりいいや。ごめん」
「あ、スネーク!」
 グラスをマグネットに返して出て行く。
(心が脆い?ジェミニの心が?ありえない!)
 スネークは頭の中でそのことばかり考える。
(だってあいつは何も受け入れないんだ、自分しか見てなくて、自分しか…見えていなくて……)
 考えが、纏まらない。
 部屋に入り、スネークはギョっとした。
「遅い」
 ベッドの上にジェミニが横になっている。
「な、部屋のロックは!?」
「あんなのお前が打ってるとこ見て覚えりゃ誰でも入れるだろ。暗号入力式じゃなくて型番識別式にするべきだな」
「何の用だよ…もう、俺に構うな」
「俺の言いつけ守る気ないの?媚売るなっていったじゃねーか。どうせフラッシュマンに甘えてたんだろう?
 だから遅かったんだよな帰ってくるの」
「決め付けるな。何なんだよお前は!俺のこと嫌いなくせに!」
「そうだ、そうだよ…お前が大嫌いだよ!お前のせいで俺がこんな惨めなことになってしまった!!」
「!?」
「…ううん、違うな。うん、そうだな…ふふふ」
 何やら独り言をぶつぶつ言い始める。
 まるでホログラムと話しているような雰囲気だ。
(…まさか、ホログラムを出してるつもりなのか?)
「あれ?」
 虚ろな目をして声を上げるジェミニ。
「俺はどっちだ、私だったか?あぁ、わからない!俺は俺だけど、俺と私はどっちだった!?」
 異様な光景にスネークは動けなかった。
「いいや、俺も私もジェミニだから。ね?スネーク、なんでお前頭がいいのに俺の心はわからないの?
 俺と私の心はお前のせいでぐちゃぐちゃになってしまったじゃないか」
「わけ、わかんない…」
「俺は心も完璧だった、でもお前が現れてから壊れていってしまった、俺は蛇が嫌いだ。
 蛇が嫌い、怖い、完璧な俺のはずなのにこの矛盾が………お前のせいだスネーク!
 お前のせいで俺は、私は、壊れてしまったんだ!
 美しさを失って、醜くなってしまったんだ!!!」
「俺のせい…?」

 違う

 呑まれるな、ヤツの舞台に上がっては……

 しかし、脚が、動かない

 誰か、助けて……

 こいつに、俺も壊されてしまう。


 頭の中では解っているのに心が恐怖で固まってしまっている。
 そうか、ジェミニもこういう状態なんだ。

 違う

 同一視してはいけない、ヤツは…ヤツで、自分は自分だから―――

「スネーク、おいで?」
 微笑んで手招きするジェミニ。
「……いや、だ」
「来いよ、壊すぞ」
「っ…」
 スネークは震える足でジェミニに歩み寄った。
「スネーク…お前は醜いなぁ…俺は美しいのに…」
 ジェミニの表情が、怖い。
 笑顔なのに無表情だ、なんの感情も出していない。
 心が壊れているからか、それとも奥底に別の感情を隠しているのか。
「憎愛って言葉を知っているかスネーク。人間は愛情を憎しみに変えたり、憎しみを愛情に変えたりするんだと。
 俺はお前が憎いが、憎んで憎んで、憎みまくったら愛になるのかな?愛になれば蛇が好きってことになって完璧に戻るのかな?」
「…さ、さぁ。俺たちロボットだぜ?」
「なるほど。じゃあインプリンティングはどうだろう。お前を愛せばそのまま愛になるかもしれない
 お前が愛しいということはつまり蛇が嫌いじゃなくなるってことだから―――」
「ジェミニ、お前、どうしちゃったんだよ……」
「マグネットが俺の心が醜いといったんだ、確かにそうだ。マグネットは謝ったが別に俺はマグネットに対して何も思うことはない。
 俺もそう感じていた、ただ認めたくなかっただけだ。
 でも指摘された途端、もう俺の中で支えていたものが壊れたような気がした」
 だからホログラムを出せないのだろうか。
 ふとそう思った。
 きっと、ホログラムはもうジェミニを支えてくれない。
 ジェミニ自身の心が壊れて上手く操れなくなったのだろう。
「俺の心は醜いんだスネーク」
 笑顔が、怖い。
「お前は醜いな?スネーク」
 こいつの、意図を理解したくない。
 つまり、こいつは―――
「俺はホログラムじゃないぞ!」
 思わず叫ぶスネーク。
 しかしジェミニは笑みを浮かべたまま表情を変えない。
「しばらくの間じゃないか。俺は完璧なんだ、すぐにお前のことを好きになってしまうさ」
「だから、俺が嫌なんだよ!俺はお前のこと好きでもなんでもない!」
「美しい俺が愛せない?おかしいな、美しいのに…醜いものは美しいものを愛せないのか?俺はお前を愛すというのに。
 じゃあスネークをぶち壊してやろう、何度もな。何度も直して何度も壊してやる」
「っ……」
 やりかねない、今の精神状態のジェミニなら本当に実行する。
「解った、じゃあジェミニ…少しだけ、付き合ってやるよ茶番に」
「茶番?俺は真剣なんだぞ」
「あぁ、もうなんでもいいよ。で、俺はどうすればいいんだ?ホログラムの代わりだろ?でもお前の真似事は嫌だからな」
「別にそこまで強要しないさ。お前は俺の言うことを聞けば良い。ふふ、今からお前は完全に俺のものだ」


    ◆◆◆◆


 それからジェミニと何度も性行為した。
 ジェミニは部屋にいるとき、ホログラムと喋っているか鏡を眺めているか、戯れるかの3つの行動を取っていた。
 3つ目の戯れが性行為だ、これが手っ取り早いと思ったのだろう。
「スネーク、目を背けるな。美しい俺と繋がっているところを見ろといっているだろう」
 スネークの頭を掴んでジェミニは言う。
「っあぁ、あぁぁぁ……」
 涙と、口からオイルを流しながらスネークはジェミニと自分が繋がっている部分に視線を向ける。
「お前本当に変態だな、繋がってる部分を見た途端に締めてきやがる!そんなに興奮するのか!」
「ちが、う…!」
「否定するな、好きなくせに。お前は俺にそうされるのが好きなんだ」
「うっ…」
「イキそうか?本当、お前は我慢できない子だな」
 ジェミニの動きが激しくなる。
「ッあああああああああ!!!!」
 スネークはジェミニにしがみ付きながら達する。
「あ、あぁぁ……」
「スネーク…お前は醜い」
 耳元で囁くジェミニ。
「うあ、あぁ…じぇみに、は…うつくしい、です……」
 声を絞り出しながら、その言葉を紡ぎだす。
 言えと言う、そう言わされる。
「うーん、今度はお前が動けよ。見ててやるから」
 スネークを起して、ジェミニは横になる。
 ジェミニの上にスネークが乗っかっている状態になった。
「うわ、あ…」
 体位が変わり、より深く入り込むのでスネークは身震いし、力の入らない脚に力を込める。
「ほらスネーク」
「うぅ…」
 腰を上下に動かし始めるスネーク。
 先に出されたオイルがかき回されて卑猥な水音を立てている。
「じぇみ、にっ…じぇみに、じぇみに……!!」
「へぇ、可愛いなお前。そうやって媚売ってるんだ?」
「悪いのか、悪いのかよ…」
 泣きながら呟くスネーク。
 冷却するために流れているのか、心から泣いているのかはわからない。
「嫌いじゃない」
「じぇみに、きれい…きれい、きれいきれいきれい……」
(もうダメだ、こいつに壊されてしまう)
「いいぞ、もっと言え」
 ジェミニの目が暗い。
「きれい……―――」
(心が、壊れる……)
 スネークはもう限界だった。


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