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「夢を見た」
メンテナンスが終わり、ジェミニがぽつりと呟いた。
「夢?」
マグネットはその声を拾い、問いかけるように呟く。
「ま、マグ、マグネット……」
酷く狼狽したジェミニを見るのは初めてだ。
マグネットの腕を掴んでくる。恐れ怯えるように、ではなく縋りつくように、力強く。
「怖い夢だったの?」
あやす様に問いかける。
ジェミニは左右に首を振る。
「俺が、スネークだった。」
「君が?おかしな夢だ。君はスネークじゃないのにね」
「あぁ、おかしい…おかしい……」
よっぽどショックだったのだろう、しばらく腕を掴む手を離さないので落ち着くまでマグネットはそのまま待っていた。
その後、ハード、タップと続きスネークのメンテナンスをした。
「メンテナンス終了だ。どしたー?冴えない表情だぞ」
マグネットはスネークの顔を覗き込む。
スネークはいつもと違ってなんだかぼんやりとした顔だった。
「…夢を見た」
「へぇ、ロマンチストだな」
そういえばジェミニも同じこといってたなぁ、と心の中で続ける。
それを言わなかったのは口にするとスネークのご機嫌が損なわれてしまうと思ったからだ。
ジェミニの名を聞くだけで、スネークの目は酷く冷たいものになってしまう。
「リアリストなんだけどな。メモリーの動作不良か、な…。
でも見たことない顔だった」
起き上がりながらスネークは手で蛇の頭を撫でながら呟く。
ジェミニと違って彼は飄々としたものだ。
「誰の夢をみたんだ?気になるならおにーちゃんにいってごらん!」
「ジェミニだよ。ま、関係ないから忘れとく」
メンテナンス台から降りるスネーク。
「ん。次スパークを呼んできてくれ」
「了解っと」
メンテナンスルームを出て行くスネーク。
「お互いの夢を見るとか不思議なこともあるもんだなぁ。ジェミニの夢はホラーチックっぽかったけど。
意識しすぎてるんだろうか、お互いに。もっと仲良くなればいいのに」
マグネットは独り呟き、ウンウンと独り納得していた。
◆◆◆◆
シャドーとスネークは帰宅後、マグネットも仲間に入って酒を飲み交わしていた。
「スネーク殿、スネーク殿、重いでござるよ」
「珍しいなスネークが先に潰れるのは」
シャドーとマグネットは、シャドーに寄りかかるスネークを見て呟く。
まだ意識はあるようなのだが、電子頭脳の動きは鈍っているようで動きがぎこちない。
「なぁマグネット…ジェミニに異常はなかったのか?」
「何?」
「メンテさぁ、したじゃんかぁ…」
呂律が怪しい。舌が長い分、酔うとスネークの発音は聞き取りづらい。
スネークはシャドーにしがみ付いたまま、マグネットを見上げるように視線を向けた。
「あいつおかしい、ぜったいおかしい!」
「何かあったのか知っているかシャドー?」
「詳しく話してくれなかったので内容は知らないでござるが、ひどいことをされたようでござる」
「ふーん…。異常はなかったよ? ただ、そうだな…ジェミニは君の夢をみたそうだからイライラしていたんじゃないか?」
「夢……」
ぎゅううっとシャドーの腕を掴むスネーク。
「スネーク?」
「八つ当たりかよ、八つ当たりであんなことすんのかよ、やっぱり頭おかしい!!
シャドー、キスしろキス、ジェミニのこと忘れられるぐらいにキスしろよぉ!」
「ちょ、ま、待っ…!マグネット殿の前だし、すねーっク…!!!」
押し倒されキスをされるシャドー。
触れ合うキスではなく貪るような濃厚な方のキスである。
スネークの舌に翻弄されてしまいされるがままのシャドー。
「こら!ダメでしょそんなことしちゃ!シャドーも抵抗しなさい男の子なんだから!」
(いや男だからとかそういう問題でもないでござる…)
マグネットが磁力を操ってスネークをシャドーから引き離す。
「じゃあマグネットでいい」
マグネットにしがみ付き、長い舌で頬を舐めながら呟くスネーク。
「あぁもう好きにしなさい」
「えへへーマグネット優しいから好きだぜー」
そしてそのままちゅっちゅ、とマスク越しにキスを始める。
「抵抗は?」
「マスク越しだからセーフ」
「反則でござる」
「んー、ちょっと飲みづらいなぁ」
スネークを抱えつつもう片方のグラスを掴んでいる手を見つめながらマグネットは残念そうに呟いた。
数時間後。
「はずかしっ…!俺なにやってんだよもう!」
酔いが冷めてきたスネークは手で顔を追いながら叫ぶ。
「かわいかったよ」
「甘えるスネーク殿かーわいーでござる」
「うっせぇバカどもめ!」
顔を赤くし怒鳴るスネーク。
「もしかして一緒に飲んでくれないのは酔うと甘えるからなのかなってシャドーと話してた」
「ちげぇーよ!今日はたまたまだよ!!」
「飲みなおすでござるか?まだ酒は残っているでござるよ」
「いやいい、残り飲んどいてくれ。もう帰る」
立ち上がるスネーク。
「なんだ残念。また飲もうなスネーク」
マスク越しで目元しかわからないのだが、マグネットはほんわりとした笑顔を浮かべているのだろうと感じた。
「お、おう…」
返事だけ返し、スネークはそそくさと部屋へ戻っていく。
「照れ屋さんだねー」
「素直な性格ではないでござるな。」
「シャドーがスネークの友達になってくれてるからだいぶ性格が丸くなったと思うよ」
マグネットは目を細める。
「シャドーがスネークと仲良くなるまでは、暗かったからねぇー。笑わなかったし。」
「ふむ…」
シャドーは記憶メモリーを漁ってスネークを初めて目にした日を思い出す。
自分の起動に立ち会わなかったスネークと出会ったのは天井裏だった。
『スネークマン殿でござるか!初めましてでござる!シャドーマンと申す。』
『あっそ。俺忙しいから』
冷たい目で一瞥し、スネークは左目を紅く光らせていた。
のちにサーチスネークとコンタクトしている最中は光るということを知るのだが、そのときは知らなかったので何をしているのかわからなかった。
『…もしかしてこれを探しているのでござるか?さっき別の場所でエネルギー切れを起しているのを見つけたのでござるが』
懐から動かないサーチスネークを取り出すと、スネークは驚いた表情をした。
慌ててシャドーの手から奪うようにサーチスネークを掴むと頬擦りし始める。
『よかったー!どこにいったのかと思ってたんだよ!ありがとうな!』
さっきの目とは打って変わって、にこやかな笑顔を向けてくる。
それが蛇を模している彼とのギャップを感じさせて、シャドーも思わず微笑んだ。
恐らく笑ったのはこのときが最初だったのではないか、シャドーはそう思った。
◆◆◆◆
スネークは自室に一歩入り、硬直していた。
穴の空いたサーチスネークが一匹転がっている。
「よう、お前の部屋はシンプルだな。趣味が覗きだからモノがいらねーのかな?」
ジェミニがベッドの上に座って微笑みかけていた。
「おい、これ……」
「俺、蛇が嫌いだから撃った。それだけだ、見てわからないのか?」
ジェミニは立ち上がって残骸を踏む。
「お前の蛇は利口だな。一匹見せしめに殺してやったら寄ってこねぇ」
「ッ……お前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
スネークは目を見開いてジェミニに飛び掛る。
ヴン……
一瞬ジェミニの姿がブレた。
「!?」
薄れたジェミニを掴むことができず、そのままずしゃあっとスネークは床に倒れる。
(―――ホログラム!?)
『アハハハハハッ!!!『俺』が早々お前の汚い部屋に入ると思ってんのかよ!バァーカ!!』
「ッ…」
スネークは振り返りながら、ジェミニのフリをしていたホログラムから距離をとる。
ジェミニの得意なかく乱戦術だ、相手を挑発して手を汚さずに狩っていく。
呑まれたらだめだ、近づいてはダメだ。
あいつの『即興劇』に付き合ってはいけない。
「…何のようだ」
『シャドーとマグネットと、遊んで楽しかった?』
「は?仲間に入りたかったのか?」
『違うよ…バカ蛇…私と『俺』はねぇ…』
ホログラムの笑みが怖い。
どうしてここまで歪んだ笑みを浮かべられるのだろうか。
スネークは地を蹴って駆け出した。
『――!!』
ホログラムは思ったとおり実体化していなかった。
そのまま通り過ぎ、ドアのロックに手を伸ばす。
「あっ!?」
ドアが開いた、その前に―――
ニヤリと笑みを浮かべたままのジェミニが立っていた。
「逃がすかよォ!ぜってぇ逃げると思ってたぜ、だってお前は俺の行動読めるもんなぁー!!!」
「うぐっ!」
胸を思いっきり蹴り飛ばされ、部屋の中へ戻される。
―――あぁ、もう逃げれない。既に彼の『即興劇』の中だった。
―――主役はジェミニ、俺の役はなんだろう…何をやらせたいのだろう…
「身体が軽いからよく飛ぶな。」
『美しい蹴りだったよ『俺』』
「ありがとう『私』」
ホログラムがスネークを逃がさぬよう、腕を掴んで後ろへ回させる。
「サーチスネークを使おうと思うなよ、全部ぶっ壊してやる。大嫌いだから今すぐ壊してやってもいいんだぞ?」
『しない『俺』に感謝しないとなスネーク?』
耳元でホログラムが囁く。
「………」
舌打ちし、スネークは視線を背けたままだ。
「…話の続きだがね、私たちはお前の笑顔が見たいんだよ」
「……は?」
何を言い出すのだろう、この男は。
「笑え」
「え、いや…無理だろ?お前何言ってんの?本当に、マジで何言ってんだよ!!」
「あははは、そうそう、そうやって感情を俺に向ければいいんだよスネーク」
満足そうに目を細めるジェミニ。
「でも足りないなぁ!ずっと俺を見ていればいいんだよなぁ!
他のやつらに笑うな、媚を売るな!触れることも許さない!!!」
「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇ!何なんだよお前は!俺にどうしろっていうんだよ!」
「今いっただろ」
「意味がわからねぇんだよ!なんでだよ、なんでそんなことしなくちゃいけないんだよ!
俺のこと嫌いなんだろ!?だったら構うな、触るな!俺を見なければいいんじゃねーか!」
「………言い忘れてた。俺に口答えするな」
無表情になって呟いた、その瞬間スネークはホログラムに押し倒され、ジェミニの蹴りがスネークを襲う。
「うぐっ…がっ…やめ、っ…!!?」
ホログラムも加わって踏みつけるように何度も蹴り始める。
左腕を踏みつけられ、内部でバキリと嫌な音が上がった。バスターへの変形はもう無理そうだ。
「痛い痛い痛い!!!!」
「口答えした罰だよスネーク!」
「止めろ、ジェミニッ…やめ…」
ジェミニは前衛用に作られた戦闘用だ、後衛支援用のスネークとは耐久性も力も違う。
『おっと、あんまりやると意識が飛ぶな』
「まぁいいだろう。スネーク、理解してくれたか?」
微笑んで問いかけてくる。
「ッ……」
スネークは唇を噛み締めながらジェミニを睨んだ。
「あぁ、ダメだな。まぁいいや。そもそもお前に従わせようとするのが間違いだったのかもしれない。」
『蛇だからな』
「躾けてやろう」
『たっぷりと身体に教え込めばさすがのお前も素直になるだろ』
ジェミニは何かのチップを取り出すとホログラムに渡す。
首筋を弄られる。
バキッと、小さな音がした。そこは普段ロックをかけているので無理やり装甲を引き剥がしたのだろう。
「あっ…!?」
スネークの首筋や蛇メットにはハッキング用に様々な接続用端子が内蔵されているのだが、その一つにチップを入れられた。
「!? ッ、うわ、あ…!?」
情報が駆け巡る。
データが上書きされていく、止められない。
ロボットが擬似的にセックスを出来るようにするためのチップの類だと理解した。
ただジェミニのこれは乱暴なもので、刺激を全て快楽に変換するものだ。
ズキズキと痛む腕の刺激が、痺れるような快楽に変わっている。
これでは頭がおかしくなる。
どこでこんな粗悪なモノを手に入れたのかはわからないが、ジェミニがスネークに何をしようとしているのか痛いほど解った。
「へぇ、良い顔になったな。気持ち悪いのはかわらないけど」
蕩けた表情になるスネークを見下ろしながら呟くジェミニ。
「なーなー、シャドーにもそんな顔するのか?」
「しゃ、どー…?」
電子頭脳の処理が追いついていないようで、スネークは口から透明なオイルを垂らしながらジェミニを見上げてくる。
「なぁ。こういうことするんだろ?」
「ん…する、けど…。でも、こんな……」
「あぁえろいことしてるんだったらそういう顔するんだろうな」
冷たい目をして独り納得するジェミニ。
「今日からその顔は俺の前だけにしろ」
「ぁ…?」
「お前の乱れっぷりを見といてやろう。ふふふ」
ジェミニはベッドに腰掛ける。
『お前こういうの好きなんだろ?まぁ楽しめよ』
「ひぁっ!?」
ホログラムに後ろから抱かれる。
邪魔なズボンを剥ぎ取られ、そのまま慣らしもせぬまま捻じ込まれる。
「ぁぁっあ、あぁぁ!!?」
『ほら『俺』にもよく見えるように脚は閉じるな、開け』
「いや、だ、…!感じすぎっ…て……!!!」
『あははははっ!感じすぎるだってさ!』
まだ入れたばかりだというのに既にスネークのナニは限界らしい。
涙を溢しながら必死にスネークは首を左右に振って嫌がる素振りをする。
「イっていいんだよ?」
ジェミニはスネークに近づいてナニを足の裏で踏みつけた。
「ッ―――!!!?」
ゾクゾクとした刺激が走り、スネークは身を仰け反らせながらガクガク震え上がる。
『踏まれてイキやがった』
「本当にマゾだな。気持ち悪い」
「ッ…あ、うぁ……」
イってもチップのせいなのか、治まる気配がない。
「汚れた、舐めろ」
「あっ……」
紅茶に塗れた脚を思い出すスネーク。
『舐めろ』
ホラグラムがスネークの頭を掴んで前に突き出させる。
「……」
スネークは舌を伸ばす。
今度は紅茶の味ではなく、嫌な廃油の味がした。
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