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「何もなかった」
「しかし……」
 スネークはシャドーにきっぱり言い切ってくる。
「拙者スネーク殿のこと心配してるだけでござるよ?
 別に、ジェミニ殿がスネーク殿にひどい仕打ちをしたからといってジェミニ殿へ闇討ちなどしにはいかぬし…。
 どちらかというとスネーク殿を慰めてあげたいでござる」
「俺って超良い友達持って幸せだよ」
「そうでござるか!」
「おう!だから心配すんなって」
「うぐぐ…」
 スネークに頭をぐりぐり撫でられて唸るシャドー。
 なんだかフラッシュに似てると感じるのはきっとスネークがフラッシュにこういう感じに扱われているからだろうと思った。
「しかし友達でござるか…」
「ん?」
「恋人でもいいでござるよ?是非」
「うっせーケツにサーチスネーク突っ込むぞバカ」
「拙者真剣なお付き合いをしたいだけでござるのにー!」
 よよよと泣くしぐさをするシャドー。
 冗談なのか本気なのかよくわからないのがシャドーという男である。
「蛇になって出直して来な!」
「ハードル高ッ!!」
「まぁお前のこと嫌いじゃねーよ。嫌いだったらこうやってつるんでねーし?
 そうだ、帰ったら飲まねぇ?付き合ってやるよ」
「本当でござるか!わーいっ!」
 スネークは一人で飲むほうが好きなのだが、シャドーは誰かと飲みたいタイプらしい。
 よくメタルやマグネットと飲んでいるのを見かける。
 普段一緒に飲んでくれないスネークからのお誘いに若干浮かれまくっているシャドーを眺めながら、スネークは緊張が解けていく気がした。
 ジェミニにあんなことをされたのはさすがに衝撃的過ぎたのだ。
 えっちなことはシャドーとよくヤってはいるが、ホログラムが触れてきたとはいえ、ジェミニが自分に触れるということは今までなかった。

 頭の中…いやもっと奥が、ズキズキする…

「スネーク殿。大丈夫でござるか」
「あぁ、大丈夫」
「辛ければいつでも拙者が傍にいるでござる。友達ゆえ!」
「…ありがとよ」
 スネークはぎゅっとシャドーのマフラーの先を掴んだ。



   ◆◆◆◆



 まず目に入るのは美しい自分。
 なんて美しいのだろうか、どうしてこんなにも美しいのだろうか。
 嗚呼もっと眺めていたい。嗚呼、永遠に永遠に―――

 目の前の自分の顔が歪む。憎悪に歪む。
 どうしたことか。まるでスネークを見るときの自分ではないか?
 微笑んでいて欲しい、その顔はスネークに対してだけのものだ。

 おかしい、なにかがおかしい。

 なぜ俺を睨む?


「………あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ」

 目の前の自分の、その輝かしいアーマーに写りこむ俺の姿はなんだ?

 周りを見回す。



 そこらじゅう鏡だらけの世界。






 嗚呼、可笑しい。



 何故だ、何故









 俺はスネークの姿をしているのだ










「ッ……ああああああああああ!!!!!!」
 悲鳴を上げながら飛び起きるジェミニ。
「はぁーっ…はぁーっ…はぁーっ…」
 身体が熱い、排気しようと息が上がる。
 慌てて近くに立てかけている鏡の前へ駆け込むが、いつもの姿だった。
「夢…またあの夢…」
 鏡に寄り添い、崩れこむジェミニ。
「何故あんな夢を見るんだ…俺は俺じゃないか。蛇なんかじゃない。俺はとても美しい」
『大丈夫か『俺』、安心してくれ。君は美しいよ』
 ホログラムが現れて囁く。
「あぁ、美しい」
『美しい』
「…何故俺は、スネークにあんなことを…何故…何故…?」
『……』
 ホログラムは何も答えない。
 本体が混乱しているからだろう、身動きもせずただじっとジェミニを虚ろな目で見つめている。
『…忘れよう『俺』。どうでもいいじゃないか、蛇なんて。私と君がいればそれだけでいい』
 ぎゅっとジェミニを抱きしめる。
「うん…そうだな、俺と君がいれば…」
 ジェミニは甘えるようにホログラムに寄り添う。
 しかし、何なのだこの胸がざわめく感じは。
 落ち着かない、安堵感が得られない。いつも得られているあの安堵はどこへ行ってしまったのか。
 脳裏であのスネークの目がチラつく。

 あの紅い瞳―――冷たい眼差し。

「スネークのせいだ!あいつのせいだ!いつも俺をバカにしたような目を向けて!
 俺を美しいとも思っていない!醜い蛇め!」
『あいつは所詮蛇なんだ』
「ッでも、でもな…」
 ジェミニはホログラムに顔を向け、訴えるように声を絞り出す。
「俺以外だとあいつ笑うんだ、シャドーの前とか、マグネットの前とかスパークの前とかフラッシュマンの前とか
 あの目じゃないんだ!あの目じゃない……!!!!今も絶対俺の知らないところで笑ってるんだ、知らない目なんだ…」
『かわいそうな『俺』…蛇はひどいヤツだ』
「本当、ひどいやつだ…。だから俺はあいつにあんなことをしたんだ、表情がかわると思って」
『変ったね』
「変ったな」
 同時に微笑む本体と立体。
「もっと見たいな」
『うん、君が望むなら手伝うよ。君の笑顔は素敵だ』
「ありがとう『私』。ふふ、ふふふ…あははははっ」
『ははははっ』
 しばらく二人の楽しそうな笑い声が部屋に響いた。

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