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今日は晴れ。太陽の光を反射する雪原はキラキラと輝いていて幻想的に見えるかもしれない。
しかしチルドにとっては見慣れている景色なので何の感情も浮かばなかった…いや、ブリザードじゃなくてよかったなぁという気持ちはある。
ここはチルドの管轄よりも環境が極悪なのでブリザードなんてしょっちゅうだ。
「チルちゃ~ん!」
地平線からソリを引っ張るツンドラと犬たちが駆けてくる。
いつも思うが犬の必要性はあるのだろうか?
ソリには大小さまざまな隕石が積まれており、中には見た目より重いものもあって犬には引かせられない…とツンドラが引っ張るのだ。
やっぱり犬はいらなくないだろうか?
チルドは犬の存在価値に疑問を抱くが自分には関係ないこととして考えないことにした。
「今日も大量ですね」
「ああ!石拾いって楽しいからいっぱい拾っちゃうんだよね」
「犬かな?」
「片付けてくるから中で待ってて」
「はい」
二人は一旦別れ、チルドは居住棟に向かいツンドラはソリと石と犬を片付けに倉庫へ向かった。
****
「今日は紅茶を飲もう!フレーバーティー!」
「それはインスタ栄えですね」
「だよねー」
ツンドラは圧力鍋で湯を沸かし始める。この拠点地は気圧の関係で普通に沸かすと沸点が70度になり紅茶の適温である約100度に届かない。なのでケトルではなく圧力鍋なのだ。情緒がない。
「ウチにサモワールあるんだよ。なんかオシャレなやつ。オシャレだからここにも飾っておきたいよね…ここじゃ使えないけど…」
「非合理的ですね」
食いついてこないチルド。別にいいのだ、生産性のない会話をするのがこの二人なのである。
ツンドラは透明なティーポットを出してきて茶葉を入れる。茶葉の中に薄いオレンジ色のしなびた何かが混ざっているのにチルドは気づく。
「これはなんですか?」
「花だよ~。金木犀。季節を感じられるでしょ?」
「馴染みがないですね」
「ここで土地柄の差がでてしまうとは…」
「トーチさんなら通じたでしょう。人選ミスです」
「えー、でもチルちゃんと飲みたかったんだよ。ここ季節感じられないし。お花で季節を感じるの、素敵でしょ?」
「そうですね、素敵です」
頷くチルド。多少インスタ栄えのことも考えてしまうが、もともと自然を感じるのは好きだ。
沸騰した湯をポットに注ぎ少し蒸らす。鮮やかな紅茶の色が出てくる。
舞う茶葉の中に混じっていた金木犀も花を開いて可愛らしく思えた。言葉には出さないが。
「普通の紅茶の色ですね」
「紅茶だからね。烏龍茶ベースのもあるらしいけどボクはよくわからないよ。これもお嬢様からの頂きものだしね」
ツンドラはティーカップに紅茶を注いでチルドの前に置く。
「淹れた紅茶に摘みたての金木犀を浮かせるとかもあるみたいだよ」
「ふむ。これが…なんか匂いもします」
「なんか匂いって…もっとレポートして」
「紅茶とは違う香りが金木犀でしょうか?紅茶に香りづけをしている、ということですね。なるほど。味は…紅茶です」
「はい…紅茶です……もっと…喜んで欲しい」
「いい茶葉ですね。紅茶としても美味しいです。ゲーミング紅茶なら盛り上がったかもしれませんね」
「ンなお茶あったら見てみたいわ」
ツンドラも自分で入れた紅茶を飲み始める。ベリー系のヴァレニエをもぐもぐしながら。
チルドもストレートを味わったので砂糖を入れたりして味を確認していく。
「ティーポットが透明なのも花びらが散るのを見せるためですね。そういえば中国茶にそういうのありましたよね。花が咲く…」
「あるね~!かわいいよね!今度それやろう!」
「はい、栄えますし。…秋なんですね。秋の香りを覚えました」
飲み干して空っぽになったティーカップを見つめながら呟く。
「おかわりするかい?」
「はい」
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