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「あぁ~!チルちゃん、今日は七夕なんだって!」
 何やら携帯端末を弄っていたツンドラは突然奇声を発しながらソファの上で身悶え足元で寝ていたイッヌに襲い掛かり揉みくちゃに撫でまわし始める。
「知りませんよ」
 知っているが関わりたくないチルドはそれだけ言って手を止めない。今ホットケーキにチョコペンで絵を描いているので忙しいのだ。
「切ないよねぇ七夕…年に一度しか会えないんだって…ボクとトーチみたい…」
「あっちがこちらにこれないだけで会えてるでしょ」
「ずっと一緒にいたいじゃないか!」
「有給とって帰ればいいんじゃ?」
 チルドはツンドラの前にホットケーキを乗せた皿を置く。
「かわいいね~」
 クマの絵が描かれていて可愛い。チルドは無言で携帯端末でパシャシャシャシャと音を鳴らして連射している。
「はい、どうぞ」
 写真を撮り終えたので食す許可を出す。
「いただきまーす!」
「七夕ですが」
 チルドは食べ始めるツンドラを眺めながら話始める。
「短冊に願い事もするそうですね。」
「短冊はないからホットケーキにかこうか…」
 チルドはツンドラにチョコペンを渡し、ツンドラは2枚目のホットケーキににゅるにゅる書き始める。

 ―――チルちゃんと遊びに行きたい

「いやいやそこはトーチさんと世界一周旅行とか大きなことかきましょうよ」
「それはやろうと思えばいつでもできるし。チルちゃんと旅行行きたいよボク」
「なんだかなぁ」
 チルドは呆れた表情でツンドラを見る。
「私は旅行など興味が一切ありませんね…逆に人類の醜い部分を認識してしまいそうで嫌です。これ以上失望したくはない」
「うーん、楽しいことは楽しいと思うんだけどなぁ…1回やってみようよ」
「えー?」
 インドアなチルドは眉間に皺を寄せる。
 なかなか腰が重そうである。
「トーチのキャンプ場にいこう。ボクの友達をトーチに紹介したいしさ」
「…なんかソーラーさん並に熱そうでイヤですね」
「ボクの恋人を嫌がらないでよぉ!」
「まぁ…機会があれば行きますよ」
「完全に行く気ないね…?でも自然を感じれていいと思うよ。オーロラは観れないけど星は綺麗に見えるし、キャンプファイヤー楽しいしね」
 ツンドラはニコニコしながら語る。
「そうですか。動画で紹介というネタのために行ってもいいですね」
「もっと何も考えずに楽しもうよ~!でもすごいね、もう願い事かなっちゃったねぇ」
「あれ?ツンドラさんの中ではもう旅行は確定事項になってらっしゃる?」
「なってらっしゃいますよ。博士に相談しとくね」
「権力を使ってきましたか…」
 チルドは唸りつつも、ただ面倒だなぁと思うだけで嫌ではなかったので全部ツンドラに丸投げしてしまおうと思い至る。
 いつになるかわからないがツンドラのことなので近いうちに決行されるだろう。
 もっと叶いそうにない願い事はなかったのかとチルドは思った。

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