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ツンドラとヒューズはフラワーパークに来ていた。
ブラストの招待で遊びに来たのである。
他のメンツはともあれ、コミュ能力がちょっとアレなヒューズとこちらもやはりコミュ能力が意外とアレなツンドラは集団行動から外れていた。
ツンドラは併設されてるスケートリングで滑りはじめヒューズはそれを眺めていた。
うわー滑りやすいーなんて言いながら滑っている。あたりまえである。北極にあるツンドラの銀盤はツンドラのお手製であり、彼の力技でもって
平坦にしていたのだ、水を張って凍らせて作るスケートリングとは別物である。悲しい。
しかしツンドラも弁えているのか「これ飛んだら割れるね…」とジャンプは自重していた。
「ねぇーヒューズ」
ジャッと音を立てつつヒューズの目の前で止まって詰めよってくるツンドラ。
「君は滑らないのかい?この美しい僕の滑りに見惚れているのは解るけど、今日は遊びに来ているわけだし」
「ポインポインパークに行きたかった」
「ブラストが泣くからそれ」
「冗談だ。俺はこれでも楽しんでいる。貴様は貴様で好きにしていろ」
「えー?一緒に…あ!そうだ!」
ツンドラがリングから出る。
「ウサギさん見に行こうか!」
「ウサギさん!」
ヒューズの顔が緩むがすぐに締まる。
「行くぞ」
「うん、行こうね~」
ヒューズの手を掴んでツンドラは歩き出した。保父さんかな?
動物の触れ合いコーナーでヒューズはウサギたちを眺めていた。
触ってもいいんだよ…?というツンドラの問いかけに「浮気になってしまう…」とペットに思いを馳せつつ眺めていた。
飼っているペットは猫であっただろうか、ウサギとウナギである。その子たちは気にもしないと思う。
「どっちがウサギさんかわかんないねぇ」
ツンドラはしゃがみ込んでいるヒューズとウサギを見比べながらクスクス笑う。
「貴様の目は節穴か…?」
「え?冗談だよ?ねえねぇ餌買ってきていーい?」
「はっぱの方にしろ」
「注文多いね君…ガチだ、ウサギガチ勢…」
固形の茶色いフードではなく野菜を買ってくるツンドラ。
ヒューズはそれを一枚ずつ食べさせていく。
食べる姿が可愛い。
ヒューズの顔もにっこりでかわいい。
「ふ、ふふふ…」
隣で笑いが漏れるツンドラは完全に不審者である。
しかしツンドラの奇行を奇行とも思わないヒューズは黙々と己の欲求を満たすのみだ。
ニッコリ顔で淡々と欲求を満たす男である。これがウサギの餌やりでなかったらただのサイコパスである。
「あ、いたいた~!やっぱここだよなー!」
ブラストがやってくる。
そこにはツンドラと、絶望顔のヒューズ。
「なにそのこの世の終りみたいな顔」
「今ちょうど最後の一枚食べさせたところだから…」
「何か用か」
立ち上がるヒューズの顔はもう元に戻っている。
「お前の表情筋どうなってんの…?まぁいいや。ちょうどいい時間だし一緒に休憩でもしないか?って」
「いいねー。ヒューズいこうよ」
「ん」
ぎゅっとツンドラの手を握るヒューズ。
(保父さんかな…!!!!!)
ブラストはヒューズの可愛さに身悶えるのを堪えた。
あまりにも身長差がありすぎるせいだ。
◆◆◆◆
おやつタイムだったのでみんなカフェで一息ついていた。
「ヒュ~ズ、かわい~ねぇ~」
ラバーが土産物屋から買ってきたのだろう、シモベーぬいぐるみをヒューズの隙間に差し込んでいく。
腕の中、胸元肩頭…とにかくジェンガのように積まれていく。
「なんでブラストマンぬいぐるみがないんだよ!買えよ!!!!!かわいいだろそれも!」
「やだ…ナルシストがいるよ」
「お前がいうかぁ!?」
ツンドラに突っ込むブラスト。
「えぇ?僕ナルシストじゃないよ?アイスダンスしている僕はビューティフルだけどね?これは綺麗に魅せるための衣装だから」
「ロボが衣装とかいう…」
「ブラスト、闇が深ぇ…覗いちゃだめだ…」
ブロックがブラストを止める。
人の努力を闇扱いである。むしろ深淵のような扱いである。
ラバーはヒューズをシモベーぬいぐるみで埋め尽くすのに満足した様子でニッコリしながら今度はアシッドに目標を変えた。
「アシ~ッド!」
「あ、こら」
ラバーがアシッドの横にあった紙袋を器用にガサゴソと開いて中からぬいぐるみをだしてくる。
ブラストマンぬいぐるみである。
それを器用に摘まんでちょいっとアシッドの顔の横にひっかけるのである。
「ッ…」
ブラストとヒューズ以外は顔を背けて笑いを堪えた。ラバーは常にニッコニコなので。
笑ってはいけないフラワーパーク24時である。
ブラストは萌えで死んだのでテーブルに顔を打ち付けていた。
「こらラバー。人の物を開けちゃいけないよ?」
「ごめ~ん☆」
ラバーに甘いアシッドであった。みんな割とラバーに甘かった。
ちなみにパイルもトーチもブラストマンぬいぐるみを買っている。トーチは焦がさないように気をつけてほしい。
「ヒュ~ズ、そのぬいぬいあげる~!」
「ん」
「ブラストマンぬいぐるみもあげるぜ!!!!」
「いらん」
「なんでだよ!!!」
理不尽な目にあうブラストであった。
紙袋にみっりちはいったシモベーぬいぐるみは2袋となった。ラバー買い過ぎである。
一つはヒューズが持ち、もう一つはツンドラが持っている。
空いた手はお互いの手を繋いでいる。
二人はヒューズの社宅に向かっていた。ツンドラはまだ数日留まるので翌日から仕事ではない。なのでヒューズを送り届けているのだ。
「ワットを見せてやろう」
ヒューズはそういってウキウキとツンドラの手を握っているのだ。
表情はまったく変わっていないが、きっとウキウキしているとツンドラは思っている。妄想かもしれない。
社宅…というか寮と言った方がいいかもしれない。ウナギは公共リビングに水槽が設置されていてヒューズが世話できないときに他の社員が
みてくれているそうだ。
部屋にウサギのワットがいて、ヒューズはまたニッコリ顔でご飯をあげている。
こちらもヒューズの仕事が仕事なので、部屋は施錠せずお世話を頼んでいるらしい。
(はー、ヒューズ用のコミュニケーションツールだねぇ…)
ヒューズの性格を思い返して納得するツンドラ。
ヒューズ自身は自覚をしていないのか気づいていないのか…。
「ぜんぶひっくるめての君なんだねぇ」
「?」
ツンドラは「独り言だよ」と呟きながらヒューズの頭を撫でる。
「今日のデート楽しかったね!」
「デートとは二人っきりでするものではないか?」
「あれほとんど二人っきりだったでしょ…」
息を吐くツンドラ。
ヒューズは少し視線を宙に向けてからツンドラに戻す。
「確かに。そうか、デートだと認識できていなかった」
「別にいいよ。僕も言わなかったからね」
言わずにそれっぽく思えるようにはなってほしいところではあるが、ツンドラはまぁいいかと考えるのをやめる。
「僕、そろそろ帰るね」
「あぁ、気をつけて―――」
ツンドラはひょいっとヒューズの顎をすくい上げて、マスクを外して唇を押し当てる。
「またワットを見に来るね。シーズンが終わったら」
「…」
ヒューズは自分の唇を指で触れながら、ほんのり頬を赤くする。
ヒューズに感情がないわけではないのだ、ちょっと…だいぶ…感情の表現が極端なだけで。
「愛しい僕のウサギちゃん、仕事で無理しないでね」
クスクス笑いながらマスクをつけ直し、ツンドラは手を振って出ていく。
「それは、ツンドラの方だろう…」
ヒューズはそれをいうだけでいっぱいいっぱいであった。
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