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薄暗い部屋。
窓はなく、照明もつけていない。光源はPCモニターから漏れる光のみだ。
「うーーーん」
ツンドラはモニターを睨み、唸り、天井を仰ぐ。
その姿はメンテナンス用のコードが何本か繋がり、片腕は根元から外されている。
腕は作業台に置かれ、それもコードに繋がれていた。
最初は作業による違和感からの臨時メンテナンスだったのだがちょっと弄ろうかな?と思い立ったのがいけなかった。
かれこれ一日唸っている。
時間は無限にあるので構わないのだが。細かい作業は作業用ロボに任せている。ロボットマスターの自分は指示と、緊急時の判断のみだ。
自分自身の仕事は急ぐものでもない。
納期などがあればこんな趣味に走っていなかったかもしれないが。
「もう少しだけ指細くしたいなーーーでもバランス悪くなるよねぇーーー!あーーーー!!!」
さっきからずっとこれであった。
違和感という作業による腕の歪みは既に直している。
「ツンドラマーン?ここにいるのー?」
パっと部屋が明るくなる。
「え!?!?」
素の低い声を出しながら振り返るツンドラ。
そこにいるはずがない少年がいた。
「あれ?ロックマン、来るって言ってたっけ?」
「ううん、カリンカちゃんが驚かせたいとかいってたよ」
「あぁーそっかー。姫のサプライズか~ありがとー…って!」
ツンドラは目を見開いてガバっと立ち上がる。
「だめ!!!はいっちゃだめ!!!!!みちゃだめーーーー!!!!!!」
「な、何を…?」
「全てをぉぉぉぉ!!!!!」
ない腕とある腕をぶんぶん振る。
コードが乱れて散らかっている物が引っ掻き回されてガタンガタン暴れている。
「そんな…えっちな本をみられた子じゃないんだから。ていうか片づけさせてよ、ほっとけないぐらい汚いよ」
「き、汚い!?!?」
心にダメージを受けるツンドラ。
「…ぼ、僕…汚い…?」
「え?あれ?変な言い方しちゃった!?僕ツンドラマンが汚いって言ってないよ?このお部屋片づけたいぐらい汚いけど…」
「ふぇぇ…」
「ツンドラマン、落ち着いて」
ロックはあやす様に言いながらツンドラの腰(ロックの身長的に背ではなく腰になってしまう)を撫でながら落ち着かせ椅子に座らせる。
「ほら、見てごらん…この有様を」
「……」
見回すツンドラ。
いつからだろう、作業に没頭するとこうなるのだ。ツンドラは一応整理整頓を心がけている。暇なので掃除をするしかないともいう。
「き、きたないね…」
「煮詰まってるみたいだし気分転換にお掃除していい?」
「う、うん…僕もやるよ…」
ツンドラはコードを外し、腕を装着し始める。
待つのも何なのでさっそくロックは片づけ始めた。
「このパーツ大きいね」
「さわっちゃだめぇ!恥ずかしいから!」
「な、なんで…?」
「僕の昔の体の一部だから!見ないで!!!」
「あ、キラキラしてるパーツだ。これも大きいね」
「あぁ、僕の甲羅だ。」
「…こ…甲羅?ってなんで目を閉じてるの」
「直視するのが辛くて」
「じゃ、じゃあ端に寄せて布かけておくね…?」
一通り片づけたのでロックとツンドラは休憩に入った。
今まで居たところは作業場ということで、移動してリビングとして使っている部屋にいる。
「ツンドラマンの残滓に触れる機会があるとは思わなかった」
コーヒーを飲みながらロックは呟く。
「いわないでぇ!」
頭を抱えて叫ぶツンドラ。
「そんなに前のデザイン嫌なの?」
「ち、ちがうんだ…!前のデザインだったころの苦労がフラッシュバックしちゃうだけで…。
うまく滑れない、苦痛」
「お、重たいなぁ…」
「今も悩んでるんだよねぇー。もう少し弄りたいんだけど」
ツンドラは自分の手を翳しながら呟く。
「んー…僕はこのままでもいいと思うけどなぁ」
ロックは身を乗り出してツンドラの手を握って眺める。
「例えばね?この手をアシッドマンの手に付け替えるより、今のこの手がツンドラマンって感じがして僕は好き」
何故アシッドの名を出したのかは、ロックの記憶の中で指が細くてきれいな手が彼しかいなかっただけだ。
「ふーん…」
ツンドラはパチパチと瞬きしつつ自分の手を見つめる。
「あ、でも削りたいなら削ってもいいと思うよ、ツンドラマンの身体だし。無理のない範囲なら…。
ダメだったら戻せばいいしね」
「失敗したからって理由で戻すのは、嫌かな」
「そうなんだ」
「うん…」
ツンドラは無造作にロックの手を握り締める。
「ツンドラマン? ひゃっ」
突然立ち上がるツンドラに引き上げられて、抱きしめられる。
手は握られたままだ。
「君の手との握り心地、いいよね。僕のペアになってほしいなぁ」
「それはお断りします」
「えー、なんでぇ?」
ツンドラはロックの身体を支えながらくるくる回る。
「だって僕家庭用ロボだもん」
「……そう、だったね」
目を細めるツンドラ。
ロックを床に降ろす。
「僕お仕事しなくちゃ、ロック」
「うん、でもその前に僕と少し遊ぼうよ。そのために来たんだから」
「え?」
「最近チルドマンとお料理してるんでしょ?カリンカちゃんからプロから料理教えてあげてって、お願いされてさ。
僕別に料理はプロじゃないんだけどね」
「ふふ、姫も世話焼きだ」
「だよね。ふふ」
ロックと、ロックの視線に合わせるように屈んだツンドラは顔を見合わせながらクスクス笑った。
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