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「はぁー、ここってキツい区域だって聞いてたけど生物もいるんですね」
チルドは感心した様子で呟きながらワンコをなでなでしまくる。
「あーいらっしゃーい!ちょっと今手が離せないんだけどね!!」
ツンドラはそういいながら鉄の棒をフルスイングして氷塊を砕いていた。
「これ砕いておかないと次のブリザードで僕の寝てるところまで転がって来るんだよねぇ」
「大変ですね」
チルドの管理している区域はクレパス内に保管したDNAの保存という役目もあって比較的穏やかだ。
一方ツンドラは極地開拓と調査という目的があるため結構ハードであるが、それをロボットマスター1体と作業ロボ数体、犬数体でこなしているのだから凄い。
「…ストーリー撮っていいですか?」
「インスタやりはじめたの…?別にいいけど…え、いや砕いてる絵とっても面白くなくない…?」
「自然の美しさが伝わります」
「そうかな…?」
首をかしげつつツンドラは作業を続ける。
二人の交流が始まったのはギア事件のあとになる。
同じ被害者という共通点のあるツンドラに興味をもったチルドがやってきたことが始まりである。
人に飢えていたツンドラはチルドを受け入れ友達になっていた。
作業を終えたツンドラは犬ぞりにチルドを乗せて走らせる。
ツンドラは横を走っていた。いつものことである。
そうして調査基地に辿りつき、二人は中で暖かな飲み物を用意する。
いつもこのような流れだ。
チルドはスマホを手放さない。テレビっこのツンドラは何が面白いのかよくわからないが、たまに動画を配信してくれるので良いものだという認識だ。
「チルドみてるとヒューズって子思い出すんだよねー。似てないのに似てる」
「なんですかそれ」
頭の氷を解除しコーヒーを飲みながらチルドは呟く。
「なんていうのかなぁ…仕事に対して真面目なんだよね」
「仕事は真面目にやるものですよ」
「そうそう、そういう感じ」
「もしや彼も人類が滅べばいいと思って…?」
「いや地球温暖化のことは興味ないかも…あ、でもエネルギー関係だからどうなんだろうね…。変電所の管理してるロボだけど元の電力が…」
ただヒューズは何も感じることなく仕事をこなしていくであろうとツンドラは思う。
直接関係ないからだ。
ツンドラも関係ないことだという認識があるのだが、チルドの仕事を否定するような感覚になるので口には出さない。
そもそも氷が解けているのは事実なので氷がなくなって滑れなくなるのは大変困るのだ、チルドには頑張ってもらいたい。
「私の仲間ではなく人類の手先ですか…」
―――人類を滅ぼす方向以外で頑張ってもらいたい。
「チルちゃんのそういうとこがダメ~~~~!」
「心外です。ダメではないですよ。私は地球温暖化の原因に気づいてしまったのです…人類のDNAは私がきちんと管理しましょう」
「人がいなくなったら誰が僕のダンス見るの…?やだよ…?」
「私が見ますよ?」
キョトンとしていうチルド。
「ちがうの~~~~~!!!僕は観客が詰まったリングの上で滑ってワーって歓声を浴びたいのー!!!」
「人形を置きましょう」
恐ろしい代替え案を提案してくる。サイコパスかと思わずツンドラは思った。
「これ以上僕に孤独を演出させて喜ぶの君だけだからね!?たぶん他の人は引くよ!」
「いい案だと思いましたが。というかツンドラは一体何を目指してるんですか…。ここで仕事してるのに妄想して」
「妄想じゃないから。趣味。君のブログみたいなもん。」
「私のブログ、仕事の延長ですけど…」
「趣味だと思うけどなー…」
「まぁいいですよ。何でも。あとでワンちゃん撮ってもいいですか?」
「そういうとこ~~~~!!!」
指を差しながらツンドラは叫ぶ。
「人を指さしてはいけないんです。で、ツンドラ、何か楽しい話とかないんですか?」
「無いよ。あったら毎日楽しいよ…常に毎日ブリザードとの格闘だよ…あ、そうだチルちゃん、ちょっと相談なんだけどさー」
ツンドラが急に立ち上がって奥へ行く。しばらくして戻ってきたツンドラの手には発泡スチロールの箱。
パカっと中を開くと伊勢海老が入ってた。
「…なんで伊勢海老?」
「わ、わかんない補給物資の食材の中に入れられてて…姫の悪戯だと思うんだけど。この前お高級なお肉だったし」
「…お歳暮とかお中元の余りとか回されてるんじゃ?」
「あぁぁー…ってロシアにそんな文化あります???」
「知りませんけど????で、相談ってなんですか?」
「どう食べようかって思って。一人で伊勢海老食べるの悲しすぎるから一緒に食べて…」
「まぁそれぐらいだったらいいですけど」
チルドは少し考える。
「お刺身ってインスタ栄えしないですよね…ありふれてて…エビフライ、いっちゃいますか?」
「いや食べ物で遊ばないで…。あとそれインスタよりツイッターじゃない?ウケるの…。でもまぁ揚げ物食べたくなってきたからエビフライいこうか」
「あ、なんか急に伊勢海老のお味噌汁も飲みたくなってきましたがお味噌ありますか?」
「あ、あるけどぉ…!でも作るの僕なんだよねぇ…!!」
「大丈夫です、クックパッドで頑張りますから」
「こ、こわいよぉ…!」
チルドは調理室へツンドラを押していく。
そしてパパっとエプロンをつけて慣れたものだ。料理は慣れていないが。
人間はおらずロボットしかいないのにこのような場所があるのに最初チルドは首をかしげたが「気晴らしが必要」とのことで納得した。
よくわからないが納得した。
そうしてツンドラの気晴らしがテレビだったわけで、その延長がアイスダンスになるのだ。
「あ、そうだ次こっちの補給物資に食材を入れてくれることになったのでここに運びますね」
「なんでぇ!」
「一緒にご飯食べましょうよ。楽しいでしょ?」
「寂しくないし楽しいけど…作るの僕…」
「私よりツンドラのが手先器用ですからね。」
「そうかなぁ…別に僕料理上手じゃないでしょ…?」
「うーん」
チルドは首をかしげて考える。たしかに上手というよりは並の下、男の料理といったほうがいい。
でも食べたいな、と思ってしまうのは―――
「私、貴方の料理だから食べたいのかもしれませんね」
「う…」
見てわかるほど照れるツンドラ。
「ほ、褒めても何も増えないからね!!」
「別にオカズの一品を求めてないですよ。さぁ作っていきましょう。動画撮っていいですか?」
「なんでも撮りたがるこの子…」
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