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どら焼き食ってるハムスター
「こんばんは」
「…はい、コンバンワ」
 にっこり微笑んで見上げてくるロックにアシッドはおうむ返しのように返事を返す。
 突然の訪問で動揺してしまった。
 仕事が立て込んでいて疲労の余り幻覚でも見ているのかと思ったが、本人は目の前にいる。
「アシッドマン、休憩もせずに詰めてるって聞いて心配になっちゃって。
 ちょっとだけ休憩しよ?」
「あ、あぁ…しかし―――」
 グイっと背を押されて研究室を追い出される。
「……オイッ!」
 アシッドは締め切られたドアに向かって叫び始める。やれ俺抜きで実験できるのか、やれお前たちちゃんと調合できるのか…その返事は「我々も休憩するのでアシッドマンも休め」の一点張りであった。
(みんな休憩したいよねぇ…)
 ロックは苦笑する。
「アシッドマンの部屋にいこっか、皆休憩室使うだろうし」
「…納得いかん」
「まぁまぁ」
 ロックはアシッドの手を取って引っ張っていく。何度も来ているので部屋の場所は把握している。
 そして部屋の中もロックは把握しているのでアシッドをソファに座らせるとテキパキとロックは自分用の飲み物とお茶うけを用意し、アシッドの前にはE缶を置く。
「おつかれさまー」
「まだ終わってないんだがね」
「あまり煮詰めるのもよくないよ?ライト博士も飲まず食わずで籠っちゃうから引っ張り出すの大変。
 それに比べるとアシッドマンは簡単だから楽だね」
「それはどうも…」
 アシッドはロックがどら焼きにかぶりついている様子を眺める。
 彼はロックが何かしている仕草を眺めるのがとても好きだ。楽しいし飽きない。
「…食べたい?」
「別に…」
「美味しいのにな…」
「…ふむ。」
 アシッドは目を細めて細長い指で自分のマスクに触れる。
「口、つけてみようか」
「もしくはどら焼き味のE缶の開発だね…あぁ、でも食感がわからないよねぇ」
「いや今も味は解らないんだが…いやいやそもそも別に俺はどら焼きに興味を示してるわけじゃないよ?君が食べてるからだよ?」
「……」
 ロックはキョトンとしたあと頬を少し赤らめて小さくどら焼きをパクつきながら視線を逸らす。
 どら焼きは離さないようだ。
 アシッドは目を細めてニヤニヤする。
「俺の興味は実験と君のすることだね。見ていて楽しいよ」
「観察されてるの、恥ずかしいなぁ…アシッドマンも何かしてよ」
「……例えば?」
「………うーーーーーん」
 ロックは腕を組んで考え込む。
「アシッドマンって実験以外で何が出来るの…?」
「……うーん」
 アシッドは立ち上がりロックの横に座りなおす。
 そしてロックの黒髪の柔らかさを楽しむように頭を撫ではじめる。
「良い子良い子」
「えー、僕されてばかりじゃない?」
 ムっとしながらも悪い気はしないらしいロックは抵抗せずそれを受け入れる。
「アシッドマンの手、好きだからいいけど」
 ロックはアシッドの手を摑まえると頬ですりすりと擦り寄って甘える。
「どう好きなんだい?」
「優しい手?そうだ、お父さんって感じがするよねー」
「そっかー、お父さんかー」
「僕の方が年上なのにねー」
 クスクス笑うロック。
 この笑顔が好きなので、アシッドもつられて微笑みながら柔らかい頬を指で撫でる。
「くすぐったい…」
「そうかい?」
「うん」
 ロックはアシッドの指をきゅっと握りながらまたどら焼きを齧る。
「休憩も、悪くないね」
「でしょ?」
「…君がいるからだよ?」
「うーん、複雑。これからも普通に休憩してね?アシッドマン」

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