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アースさん受で冒頭に独自の設定(過去話)とメカバレがあります。
「機能テスト、ですか」
 アースは送られたデータから今回の作戦を把握する。
 新しく追加された機能のテストというものは、『ダークムーン』を実戦で指揮できるかどうかということだ。
 アースはスタードロイドシリーズの元となるプロトタイプ、サンゴッドより生まれた一号機。
 サンゴッドのようなパワーを求められていたがそれは叶わなかった。
 彼もサンゴッド同様『力』を使いこなせなかったのである。
 故に、今後生まれるシリーズのリーダーとして経験を積ませ、サンゴッドのためのブースターの役目も与えられた。
 ダークムーンはそのブースターのためのシステムの一つである。
(屈辱)
 顔色一つ変えることなく短い感想を心の中で呟く。
 彼はプライドが高かった、おそらくサンゴッドの次であったが故の期待が影響していたのだろう。
 他人の感情が見えてしまうが故に。
 彼に与えられた役目は人間の負の感情を取り込み、ダークムーンへ送ることである。
 そしてダークムーンが器として『力』をサンゴッドへ送りサンゴッドは本来の力を振るうことがきでる。
 直接アースが器としてサンゴッドに送ることはできるが、容量が足りなかったという。
 今回はアースとダークムーンがちゃんと繋がっているかどうかの確認だ。
(…ダークムーンは仮の機体で稼動するのか、本来の『器』としての起動はまだ先なのだな。…チッ)
 データを追いながらアースはダークムーンの下へ瞬間移動する。
「……」
 アースは思わず目を大きめに開く。
 サンゴッドがいれば「きょとんとした顔もできるのか」なんて呑気な感想を述べていただろう。
 アースの2倍以上はある大きさの一つ眼の黒い巨体があった。
「…ダークムーン?」
 アースは不可視レーザーをダークムーンに照射し『繋がる』。
『ムゥン?』
 返事をしながら首を傾げてくる。
「うん…なんだ、その。なんでもない」
 視線を反らしながらアースは答える。
(ちょっとかわいいと思ってしまった…。これで戦うのか…ギャップ萌えとかいうヤツか?)
「…半個体物質で出来ているのか」
『ムゥン』
 すりすりよって来るダークムーンの材質を確認する。
(マーキュリーより硬い…バラバラになっても元の形に戻れる程度、と思ったほうがいいな…)
 培養液の中にいるマーキュリーの姿を思い出しながらアースはダークムーンの手を撫でる。
 2号機のマーキュリーはゲル状の身体で出来ているロボットだ。
 しかしなかなか形が定まらないと聞く。
 こちらも起動テストが迫っているのであるが、なんとかならなければなんとかするつもりである。
 サンゴッドから生まれる兄弟たちに失敗作なんてものはない。あってはならない。
「今回の任務は把握しているな?」
『ムゥン!』
「あぁ、私が人間を狩って感情を集める。お前は見つからないところで隠れて待機しているんだ」
「ムゥン」



    ****



 虐殺は慣れている。
 ロボットを破壊するのもいいのだが、それでは負のエネルギーは集まらない。
 エネルギーが集まらないということは、戦場にでているロボットたちには心がないのだろう。
 では自分たちは何なのだろうか。
 そう考えると何故か人間への憎しみがふつふつと沸いてくる。

 ―――汚らわしい。

 そう思うと平気で人間を殺せた。
 学んだことは最初の一人はさっさと殺し、見せ付けてからあとは嬲り殺せばいいということ。
 そうするとエネルギーが集めやすい。
 だから今日も人間の体液に装甲が汚れてしまうのを我慢しながら殺していたら。

「あ!?」

 爆音と激痛。
 地を転がってしまう。
「……」
 腕がなかった。
(自爆か、やられた)
 人間を爆弾にしているとは思わなかった、油断していた。
 片腕を失ってしまった、残っているほうもガードしたせいで痛めたのか動かすのが苦しく感じる。
(瞬間移動…ジャミング!?)
 一瞬の焦り。
 それを狙ったかの如く、伏兵していたらしいロボットが地面から飛び出してくる。
 無数のケーブルを垂らしたロボットで、触手のようにケーブルはうごめいてアースを捕らえる。
 人の形をしていないせいか、より無機質さを感じた。
「くっ…」
 このまま捕らわれ敵側にデータを渡したくはない。
 ケーブルを引きちぎろうと掴んだ瞬間、高圧電流が全身を襲った。
「――――!!!!!」
 声がでているのかさえ判断もできなかったが、アースは絶叫する。
 電流が止み、アースはぐったりしながらもまだ抵抗しようとレーザーを発射しケーブルを数本焼ききる。
 本体を狙ったのがケーブルが邪魔をするのだ。
「ッあああ!?」
 ケーブルの先端が展開し、細いケーブルが現れアースの機体を這い始める。
 それだけならまだよかったのだが、先端は隙間を見つけると無理やり侵入してくる。
 メリメリといやな音が上がる、激痛が走る。
「やめ、ろ…!!」
 ハッキングもされ始める。
 こちらはプロテクトが発動してガードされているのでそうそう破られることはないだろうが
 物理的なものはどうしようもできない。
 このロボットは体内から破壊しようとしているようである。
 バキン、と下半身からいやな音が響いてきた。
 廃油を排出するためのノズル挿入口はそこにある、そのハッチを引きちぎられた。
「あ、あっあぁぁ…!!!!」
 規格外のケーブルが体内に侵入する。
「ひっ!」
 アースは身体を強張らせるが、抵抗にはならなかった。
 流れてくる電流に再び絶叫し、身体が恐ろしいほど痙攣を起こす。
 プロテクトを解除しろということだろう。
 そういう『意志』を感じる。
「嫌、だ…嫌…」
 ギチィッとケーブルで締め上げられる。
 身体がバラバラになりそうだった。
『ムゥゥーン!!!』
「!」

 グシャリと目の前のロボットが歪んだ。



   ****



「…すまない、お前を呼ぶつもりはなかったんだが、呼んでしまった」
『ムゥン?』
「全て私が終わらせる任務だ」
『ムゥゥン…』
 ダークムーンはぐったりしたままのアースを抱きしめる力を強めた。
『ムゥン…』
「痛いところ?いや、ない」
 アースは嘘を言う。
 全身激痛だ。
 しかし痛いと答えて何ができるだろう?
『…』
 ダークムーンはしばらくアースを見つめていたが、ふいに手を身体に這わせる。
「んっ…う…」
 唇を噛み締めてアースは刺激に耐える。
 ダークムーンは少し眼を見開いて戸惑っているようであった。
 今のはなんとなく触ったらしい。
 しかしそこで得られたものに驚いたのだろう。
「私のエネルギーでも…糧になったか…?
 ふふ、良い子だな。お前が私の代わりに任務を終わらせてくれるか…?」
『ムゥ…ン』
「う、あ…」
 ダークムーンの指が廃油排出口に押し当てられ、緩やかに中へ侵入してくる。
 形を変えて侵入してきているらしい、やはりマーキュリーのような柔軟性はないらしく、
 少し硬めのブロックが連なって侵入してきているような感覚。
「あ、っ…あ…」
 ダークムーンにしがみつきながら焼けるような痛みに耐える。
(あ、あっそこ、まで来てない…奥、きすぎっ…)
 声を出そうとしたがダークムーンのもう片方の手が邪魔をする。
 ビリッとした刺激のあとに続く激しい痛み。
「~~~っ!!!」
 アースは反射的に抵抗するように脚を、腕をばたつかせる。
 ダークムーンは暴れるアースを落とさないよう様子を見ながら指を動かす。
(なっ…んか、これ…へ、ん……)
「うっ…あ、ぁぁ…」
 艶のある声が出てくる。
 痛みが、だんだんと痺れてくる。
「あんっ……」
(!!!?)
 焦るアース。
「ま、ってダークムーン、身体が、待ってくれ…やめっ…!!!」
『ムゥン??』
 指を止める。
「あっ、止め…うぅ…止め、ないで…」
 涙を零し始めるアース。
「お、かしい…神経回路が融解して変な信号、送ってるのか…なぁ…」
 ダークムーンに顔を押し当てる。
「き、もち…イイ…うっあ…!」
 アースは顔を赤く染めながら仰け反る。
 ダークムーンはアースが望むままに刺激を与え続けた。
 アースは蕩けた表情でダークムーンの名を呼ぶ。
 なんだか嬉しい。
 ダークムーンはアースが大好きであるから、彼が喜ぶことはどんなことでもしてあげたい。
 先ほどまで痛みによる負のエネルギーが送られていたが今はぴったりと止んだ。
 ということは今は痛くないのだ、それはダークムーンにとって嬉しいことだった。
 もっともっとしてあげたいという欲求が生まれてくる。
 そうしているうちにアースは見たことのない蕩けた表情に変わっていき―――
 排熱が追いつかなくなったのか、アースの意識はシャットダウンした。



   ****


『何やってんのお前』
 ザリザリと雑音交じりの声がかかって、マーキュリーは一応振りむく。
「覗きだよ」
 ジュピターに答える。
「お前こそ何しにきてんだよ」
『マスク壊れた』
「…だろうな」
 マスクのない彼の酷い声でそんなことだろうとは思っていたが。
『メンテ室誰かいるのか?』
「…」
 マーキュリーが身を屈めるのでジュピターはマーキュリーに覆い被さるように中を覗く。
 アースとダークムーンが見えた。
 なんだかアースの表情が見たこともない表情だ。
 下半身がどうなっているのか、機材の影が邪魔してみえないが…
「あの表情をカタドリできねぇかなぁって」
『え、そこなんだ』
「セックスは別にどうってことない」
『賛同しかねるぜ…キモチイイのかなぁダークムーンって』
「あ、そっちなんだ…」
 お互いがお互いを理解できない状況に陥ってしまった。
「別のメンテ室にいかねーと多分まだ終わらないと思うぞ」
『仕方ねぇなー。しかしアース隊長も人間みたいなことするんだなぁ。
 人間で言うバター犬ってやつだろ?』
 言ってバリバリバリバリと雑音が走る。おそらく笑っているのだろう。
「おいあんまり声出すと気づかれ―――」
 ハッとするマーキュリー。
 ジュピターも硬直してしまう。
 ドアの隙間から見える…アース隊長。
 瞬間移動で音もなく移動してきたのだろう、ホラー映画よろしく、隙間から真顔で見下ろしてくる姿は怖い。
「ギャー!!!」
 逃亡するッスライムと鳥。
「…えぇい、見られた」
 顔を赤くしながら呟くアース。
 あの二人なら言いふらすことはしないだろうが。
「バター犬とはなんだ…たしかにダークムーンは愛玩動物的かわいさはあるが…」
『ムゥーン?』
 よく解っていないだろうダークムーンを、アースは撫でた。

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