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 今のあんたがオレのことをどう思っているのか気になる。
 過去の産物だろうか?
 それとも苦い思い出を思い返させる厄介者か?
 あんたはちっともオレをまっすぐ見てくれない。



「リング!スカル!買い物に行きましょう!」
 カリンカにそういわれて暇人組である二機は断る理由もない。
 いつものように買い物に付き合う
 …のだが、スカルはソファに寝転んだまま動こうとしなかった。
「おい、お嬢の声が聞こえなかったのか?行くぞ」
「お前だけでいいだろ。それに今日は博士が帰ってくる日だしよ」
「だからそのための買出しだろう?」
「まぁ、スカルがお留守番したいならそれでいいわ。リングだけで」
「しかしお嬢…」
「いいのいいの、行きましょ?遅くなるといけないわ。
 スカル、お父様をよろしくね」
 カリンカへの返事代わりにスカルは手を振る。
「さぁてと」
 スカルはゆっくりを身を起こす。



    ****



 コサックが自室の部屋に入った瞬間だった。
 視界が回る。
 体が浮遊感に襲われたと思ったが、次にはドスンという音とともに背中に柔らかい感触。
 目の前にはスカル。
「…?」
 コサックはどういう状況なのか飲み込めず、困惑した表情でスカルを見るしかなかった。
 部屋に潜んでいたスカルがコサックをベッドに押し倒したのだということを理解するのに数分かかった。
 ゴクリ、と喉を鳴らすコサック。
「スカル…わ、わたしを殺すんだったらここじゃなくて別の場所で…」
「………」
 スカルは目を細める。
「誰が誰を殺すって?
 ちげぇーーーーよ…」
 すごい不機嫌な声。
 コサックは怒らせてしまったのかと焦る。
 ただでさえスカルは言葉が少ない。
 そして性格も難解。
「やっっっと二人きりだ。ここで腹を割って話そうと思ってな」
「え?あぁ、うん…何を?」
「お前、オレのことどう思ってんだよ」
「え…?」
「邪魔か?必要か?」
「なんだいその1か0かみたいな質問…」
「答えろよ」
「うぅっ」
 スカルに顔を掴まれて呻くコサック。
「邪魔では、ないよ…君は生まれ方が特殊だっただけで、わたしの、モノだし…」
 ハッ…とした表情になって顔を赤らめたり青ざめさせたりする。
「ち、違うんだよ、えーっと…君が私のモノというのは所有権の話で技術をワイリー博士から盗んだとかそういう
 なんかその辺は違うんだ、技術は彼のモノが多いけどほら、なんというか」
「パクれて嬉しかった癖に」
「うぅぅ…」
「いやそういう話じゃねーんだけどさ」
「え、そうなのか?どういう意図の質問だったんだ?」
「いや、まぁ…。とりあえずオレに対してただ後ろめたいっていうのは解った。
 そうか、それでお前はオレによそよそしく…」
「あぁ、えっと…まぁ色々ある…ね…ごめん」
「嫌われてるのかと思った」
「どうしてだ!」
 コサックが叫ぶので驚くスカル。
「お前の態度がわりぃからだよ」
「ウッ。そ、そう…すまない。違うんだ、君のような最高傑作を嫌うわけがないだろう…?」
「じゃあ好き?カリンカより好き?」
「……んん????」
 コサックは不意に冷静になったのか、スカルの顔を見つめる。
「会話が噛み合っていない気がしてきた、スカル」
「あぁ、さっきから全然噛み合ってねぇよ。オレは恋愛の話がしてぇーの」
「……人間のわたしが、好きだと??君が?」
「そういうことだ。」
 頷くスカルに、コサックは困惑する。
「カリンカの持ってる本で理解したが、オレはお前が好きだと思う。
 オレはお前とカリンカを見守る生活がしたい、死ぬまでな。
 オレはお前と一緒に居たい、死ぬまでだ」
「………」
「だから、お前がオレを嫌っているのではないなら…」
 マスクを外し、そのまま唇を押し当てる。
 舌を挿入したいところであるが、相手は人間。オイルを口に含ませるのはさすがに気が引けた。
「…ミハイル」
「ッッ!!!!」
「????」
 名を呼んだだけなのに、無理やりコサックに顔を手で押し返されて理解できないスカル。
「は、恥ずかしいだろ…」
 赤くなりながらいうコサックに、スカルのコアが小さく音を立てる。
「スカル、君のその感情は大切にしたいと思う」
「サンプルとしてか?まぁいいぞ、データとっても」
「…変なところでロボットっぽい発言しないでくれ」
「ロボットだし。まぁでも、オレはお前のこと解ってるつもりなんだよ。
 お前の裏側は本当欲望に塗れてる。まぁ一般的なレベルだと思うから気にすんな。
 他人の力を借りないと大胆に慣れないところがかわいいとおもう」
「君に心を抉られてる気がする…」
「嫌なら言い返せよ…。
 オレはミハイルの力になりたいし、ミハイルの力が必要だと思うんだ、どうだ?」
「…あぁ」
 コサックは改めてスカルの顔を見る。
 マスクを外したそこには整った顔、普段と変わりない無表情。
 最初のころは虚ろな黒い瞳を持った、死んだ表情だった気がする。
 今の彼は少し違う。

 ―――自分の心情の変化の影響か?

 ライト博士のように自分のロボットを「息子」とは認識できないタチであるが、
 少しだけ、目の前のロボットに対して特別な愛着を感じているようだ。

「お互いを支えあう、というのは基本だったね」

 コサックは手を伸ばしスカルの頬を撫でる。
 くすぐったそうに、スカルは笑った。

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