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捏造過去話
「うーん」
 マーキュリーは手で顔を覆いながら唸る。
「マーキュリー」
 アースが声を掛ける。
「アースか?顔借りてもいい?」
「…だめだ。昨日の顔はどうした?」
「なんかまとまらなくて」
「困ったものだな。そろそろ顔も固定してもらわないと我々が困る。
 外見の登録はもう球体でどうだ?」
「そりゃあ困る」
 じゅるりとマーキュリーの顔が現れる。
「どう?かっこいい?」
「個性的かと」
「むっずかしいなー!平均的な顔ってどんなんだよー。
 あ、なんか用事だろ?なに?」
「ジュピターが今日起動するといわなかったか?」
「あぁー、忘れてなかったけどオレもいかないといけなかった?」
「古株だし」
 アースはそれだけ呟いて姿を消す。
 先に跳んだらしい。
「古株って…まぁ、そうだけど…オレお前の予備じゃないからな…。
 うーん、もっと人間の顔観察しないといけねぇなぁ」
 ぶつぶついいながらマーキュリーは起動実験場へ向かった。



    ****



「……」
 ジュピターの起動は静かなものだった。
 眼を開いてキョロリ、キョロリと周囲を確認し、研究員たちの質問に答えていく。
 一通りが終わった後やっとアースたちの番になった。
「今日からお前を預かることになる、アースだ。こっちはマーキュリー。
 何かあればマーキュリーに聞くといい」
「オレに押し付けんなよ…」
「…」
 ジュピターはマスクを外す。
 少し幼げな面影を残す顔であった。
「初めまして」
 鳥のさえずりのような澄んだ声だった。
 しかし笑う眼は冷たいものを感じた。



   ****


『声はこのままでいいんですよ隊長。』
 ザリザリと雑音を混ぜながらジュピターがいう。
「私が気に入らない。耳障りだ」
『ならば潰しましょうか』
 ジュピターは微笑みながら自分の喉に指を押し当て発声器を潰す。
「潰しても直す。貴様の行動は『無意味』だ」
「……」
 嬉しそうにニコニコして手を叩く。
(どういう性格の設定をしたらこうなるんだ…)
 目の前の鳥は全て、自分を含めて全てに価値を見出していない。
 価値があると認識できない。いや、認識することを拒んでいるのかもしれない。
 このままでは自滅するのも時間の問題だろう。
「ジュピター…」
「?」
「この世を破壊するのはサンゴッドさまだ、そしてお前を壊すのも…。
 だからお前の今の行動は慎め。その喉を潰すのはサンゴッドさまの指だと知れ」
「……」
 アースは優しくジュピターの頬を撫でる。
「お前の後続機が近日起動する。その面倒も見て欲しい。」




   ****



「ジュピターがあんな感じだ、マーキュリー…フォロー頼むぞ」
「あのなぁ」
 マーキュリーは呆れた表情を浮かばせる。
「オレお前にフォローされまくってんのに他人のフォローできると思うか?」
「信頼はしている」
「信頼で解決できてたら苦労しねーな!ううん…」
 マーキュリーはまた顔を覆う仕草をする。
「そんなに安定しないのか?」
「お、オレが誰なのか不安になると…こうなる」
「マーキュリー…」
 アースはマーキュリーを抱きしめる。
「…お前に顔を貸してやりたいが、それは出来ない。
 お前はマーキュリーだからだ」
「あぁ…」
「…ん」
 アースは出来上がったマーキュリーの唇にキスをする。
 舌を入れるとただの空洞だが、触れるうちに口として形になっていき、舌が触れ合う。
「マーキュリー…」
「ふふ、お前に名前呼ばれるとくすぐったい」
「? どういう感情だ」
「さぁ?」
 マーキュリーは軽く笑いながらアースから離れる。
「またオレが[[rb:何 > だれ]]なのか解らなくなったら名前呼んでくれよ。」
「勿論」
 頷くアース。
 あぁ彼は好意からこの行動を行っているわけではない。
 業務的に、そう、彼は彼の目的のために円滑に事が運ぶようにただ我々が動けるように自分を犠牲にして―――
 彼の目的を察しているのはおそらく自分だけだろう。
 その目的をとめる気はない、マーキュリーにとって大切なものはこの星ではなくアースたち、仲間だ。
 だから甘えてしまう。
 アースの行動を好意として受け取ってしまえと思ってしまう。
「ごめんなアース」
「何が?」
「なんでもねぇーよ」

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