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「うーん、今とっても不本意」
 マーキュリーは唸りながら呟く。
 彼は今天井に張り付いていた。半身潰れてしまっている。
 グラビティーの重力下に支配されているためだ。
「君が邪魔するからでしょ」
 グラビティーはマーキュリーを見ることなく呟きに答える。
 その手は淡々と端末を弄っていた。
「それ手伝ってやろうとしただけじゃん?」
「それが邪魔なの。」
「すぐ終わると思うんだけどなぁ」

  ズゥン…

「…」
 圧力が強くなる。
 黙っていろということらしい。
(器用なことで…)
 重力制御を行いながら演算処理を行っているのだ、器用としか言いようがない。
(このままじゃあどっちにしろ帰ることもできねーし、終わるまで待つか…)



  ****



「君、なんでボクのところにくるの?」
 グラビティーはマーキュリーから貰ったE缶を飲みながら問う。
「お前とは話が合いそう!」
「君の主観でしょ?別にボクは君と話はしたくないんだよね。無駄だし」
「時間の浪費ってことか?」
「何も得るものがない」
 キッパリと答えるグラビティー。
「君はボクから何を得たいわけ?」
 マーキュリーは首をかしげ考える。
 おそらくグラビティーにどう話せば伝わるのか考えているのだろう。
「時間の共有による満足感を得る」
「ボクを支配したい?」
「その欲求も多少は。しかしオレはお前が知りたい。オレはお前に興味がある。
 何故だろう?」
「さあ?」
 マーキュリーはグラビティーに詰め寄る。
「この感覚は初めてなんだ。だから付き合ってくれ」
「嫌。ボクは興味ないもん。君のこと」
「じゃあどうしたらオレに興味を持つ?」
「諦めて。いいかい?他の人たちを参考にして考えて。」
「うん?」
「ウェーブと君のところのネプチューン。この二人はどういう関係?
 きっとネプチューンが純粋にウェーブをスキなんだろうね?これに当てはまる?」
「なんか違う気がする…」
「そう。じゃあ次、ジャイロと君のところのジュピター。
 この二人は宗教みたいな自己概念の合致だね?ボクたちそういうのじゃないね?」
「そうだな」
「じゃあ次。ナパームと君のところのマースだけど。相手の何か特徴的なものに興味は?」
「あー、んー?似てるような、違うような」
 マーキュリーはウンウン唸る。
「グラビティーという存在を知りたい。外見とか中身の構造を知りたいんじゃないんだよ。
 うん、おかしいよな。初めてだこんなの」
「知的好奇心の対象にされてるってこと?」
「そういうことだな」
「…」
「なんで嫌な顔するんだよ~」
「邪魔なの」
 グラビティーは空っぽになったE缶をマーキュリーに投げる。
「ボク、君の相手をする気がないの。ボクにはボクの充たしたいモノがあるから」
「じゃあ10分だけオレのための時間にしてくれねぇ?」
「なんで?」
「E缶飲んでる時間だから」
「…」
 グラビティーは少し考えるそぶりを見せるが、OKをしてくれた。
 安定したエネルギーを確保したと認識したのかもしれない。






 それからはマーキュリーとの10分間の交流が始まった。
 何のことはない、ただの雑談。
 それで彼の何が充たされるのかグラビティーはさっぱり理解できない。
「本当意味わかんない」
「ピギィ!?」
 思わず呟いてしまったが、横にいたウェーブが過剰にビビる。
「君じゃないよ」
「あ、あぁ独り言か…びっくりした、怒られたかと思った…。
 何かあったのか?」
「マーキュリーが意味わかんない。ボクを知りたいとかで意味のない会話を交わすようになったんだけど。
 それで得られるものがあるとは思えないんだよね」
「う、うーん…」
 何を言えばいいのか解らず唸るウェーブ。
 グラビティーは不思議そうに呟くのだ、決して嫌がっていない。
 グラビティーは人見知りではあるが、基本的には他人に対して一切の関心がない。
 だからちょっと不思議に思う。
「どうして追っ払わないんだ?」
「……」
 グラビティーが見上げてくるのでしばし見詰め合う二人。
「本当だ。」
「…多少、お前も興味があるってことじゃないのか?」
「君に言われなくても察したよ」
「ご、ごめん」
「無意識の部分で何かあるのかな。ボクは彼に全く興味はないんだけど」
「じゃあほっとけばいいだろ…」
「モヤモヤするんだよ」
「なんだ。意識してるんじゃないか」
「君が余計な事言ったせいだからね?」
「ご、ごめん…」
「やめて泣くんだったら出てって。ウザい」
「う、うぅ…」
 素直に出て行くウェーブ。
 毎回のことなので気にしないグラビティー。
 さてどうしたものか…ただの固体に興味を持つわけがないのだ。理由が思いつかない。
 マーキュリーの体質には多少興味は抱けるが、別にそこまで執着心はない。
 マーキュリーの話す内容も別にどうってことのないものばかりで―――
(………)
 あんなに会話、今までしたことがあっただろうか?
(無意識に存在を刻み込まれている…?)
 唸るグラビティー。
 もしマーキュリーが満足してしまったら、自分は一体どうなってしまうのだろうか?
 興味以上の不安が沸いてくる。
(おかしい、思考がファジィすぎる…『無意識』を意識するなんておかしい…切り捨てるべきだ)
 ここでウェーブなら『泣く』という行為で思考を止めるのだろうが、グラビティーには出来ない芸当だ。
 少し彼を羨ましく思う。

 明日、少しマーキュリーに付き合ってみよう。

 少し変化をつければ見えないものが見えてくるはずだ。

 別に自分は変わりたいわけでもマーキュリーを知りたいわけでもない。

 純粋に今生まれてしまった問題に対処したいだけなのだ。



 どうしよう、10分間という制限時間が足かせになりそうな『予感』がする―――




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