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 アースは不愉快だった。
 自分の体が忌々しい、不愉快。
 昔の身体であればどんなに良かったことか…今は一部分を残してレプリカだ。
 一度滅んだこの体を地球人が修復したのだ。
 修復したのはあのロックマンを作ったライト博士だ。
 もちろん自ら進んで、ではない。
 WRUがルーラーズであっただろう残骸を回収しその修復の依頼をしたのだ。
 しかしお人よしながら頭はしっかり回っているらしい。
 条件をつけての修復。

 『修復後のスペースルーラーズは人道的に扱うこと』

 地球人に情けをかけられたことも腹が立つ。
 そして負けた相手の飼い主に修復されるとは己の命を断ち切ってやりたいところだった。
 しかし現在サンゴッドの修復にとりかかっているらしい。
 もし、成功したときサンゴッドの側にいなければならない、死ぬわけにはいかない。

 アースは目を開く。
 忌々しい、体中に接続されているコードが視界に入ってくる。
 メンテナンスと称してこうしてデータを取ってくる。
 しかしデータをとっても解析はままならないだろう。
 どうも観察していてわかったことだが、この星は科学技術にムラがある。
 ライト博士とワイリー博士を中心に科学技術がズバ抜けているのだが、そうでもないところもある。
 自分達がワイリー博士に拾われたのは幸運だったのだろうか、それとも不幸だったのか。
「えー、これどうなってるのかって?」
 サターンの声が入ってくる。
 そちらへ目を向けると、技術者と親しげに会話をするサターンがいた。
 余計腹が立ってくる。
 サターンはリングを翳しながらどう説明したものか、と考えているようだった。
 そのリングはレプリカではなく本物であるが、サターン自体のエネルギーの関係でもうブラックホールは扱えない…ということにしている。
 彼らなりの保険である。
 下手に利用されたくないからだ、自分達は地球人の道具ではない、全てはサンゴッドのために存在しているのである。
「ブラックホールを利用したワープ方法はどういう技術なんだい?」
「俺も詳しくわからないんだよなぁ」
「え、でもコントロールしなくちゃいけないだろ?計算とか…」
「あー、そういうのカン」
「えっ」
 サターンはにっこり微笑む。
「なんとなく解るんだよ。ここだってカンジに。計算してるのかもしれねーけど。
 定義付けるならワームホールか、それに近いな、うん。
 あ、隊長おはよーございまーす」
「……」
 アースは身を起してぶちぶちとコードを引き抜き始める。
 サターンは「それじゃ」と技術者に呟いてアースに歩み寄る。
「皆もうメンテ終わって適当にしてるぜ」
「報告ご苦労」
「隊長、俺に付き合ってくれませんか?」
「…?」



   ****



 施設の敷地内にある『庭』に来ていた。
 敷地内といっても、やはり建物の中である。しかし土があり花や草木が茂っていた。
 温室…という言葉を思い出す。
「気分転換に、と思いまして」
「……」
 アースは興味なさげに眺めている。
「俺は好きなんっすよ、貴方と同じ髪の色してるから」
「お前は、私の髪が好きだったな」
 クスリとサターンに微笑みかけながら歩み寄る。
「そうですよー」
 サターンも微笑む。
「サンゴッドさまはどうだろうかなぁ?わたしの髪をお気に召していただろうか?」
 笑顔が歪んでいるだろうと、自分でも思った。
 サターンの表情が微笑から少し真面目な顔になる。
 そんな顔を望んでいたわけではない、もっと絶望した顔にならないのか。
 悲しい顔にならないのか。

 なぜこいつは、こんなにも―――

「サンゴッドさまは、あるがままに受け入れてくれるでしょう」
「知ったような、口を…きくな…」
 アースは顔を伏せてサターンの肩に寄りかかる。
「でもアース隊長も解ってるんでしょう?サンゴッドさまのことは。
 俺ら以上に」
「………」
 サターンはアースを抱きしめると、アースの腕が身体に回ってくる。
 微かに震えている。
 すすり泣きはじめる。
 自分だけに見せてくれる弱い姿。

 否。
 
 自分以外に見せてはいけないと、アースのために自分に全て吐き出してもらおうと考えたことがある。
 そうすればアースも楽になるのだ、独りで抱え込みすぎているから。
 少ししてサターンはアースに押されアースを手放した。
「…」
 アースはいつもの真顔に戻っていた。
「サターン…」
 サターンを見つめながらアースが口を開くが、すぐ閉じる。
「……」
 そしてそのまま背を向けて離れていった。
 ―――「ありがとう」とも「すまない」ともいえない。
 言える立場ではないからだ。
 それをお互い理解している、だから余計に寂しさを感じた。
 だがお互いの距離を詰めることはできない。
 解っている、解っているからこそ…ここからの変化は望まない。
「…冷たいな」
 濡れた肩に手をやりながらサターンはぽつりと呟いた。



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