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 キングはふと思い出したかのような表情を浮べた。

 そして通信回線を開く。

「やぁロックマン。」

 通信の相手はかつての敵であったロックである。

「ごきげんよう、元気そうで何よりだ」

 回線の向こうでロックがわたわたしているようで、キングはクスクスと笑う。

「何?君の直通回線をジャックすることなんで造作もないことだよ。

 まぁそんなことは置いといてだね?君に頼みがあってね。

 バーナー君に餌…じゃなかった、ご飯の用意をするのを忘れてね?

 よければバーナー君に作ってやってほしいのだが。ご飯を。

 君が行かないとバーナー君は飢え死にしちゃうんだろうね、私は悲しいよ。

 え?私?外出中でね。しばらく帰ってこれない。じゃあヨロシク」

 一方的に喋って通信を切る。

「ワザとでしょう?」

 横からマジックが呟く。

「私だってウッカリすることもあるんだよ」

「ロボットは食べなくても死にはしません」

「ははは、そう妬くなマジック。バーナーくんみたいじゃないか」

「アレと一緒にしないでくださいっ!!!」



   *****



「こんにちは!」

「……?????」

 買い物袋を下げたロックがやってきたのでバーナーは変な顔をする。

「キングに頼まれてバーナーのご飯を作りにきたんだ」

「は?別に…」

 作らなくてもいいし、という言葉を飲み込むバーナー。

 『キングに頼まれて』とロックは言った。

 つまりロックを拒否することはキングを拒否することであり、断ったことがばれたら何をされるかわからない。

「とっとと作って帰りな」

「機嫌悪いの?」

「違う!落ち着かないだけだ!ココ今日は俺一人しかいねぇんだからな!」

「ふぅーん…」

 ロックは「だからキングは心配して僕をここに向かわせたのかな?」なんて考える。

「お台所はどこ?っていうかこの基地にあるのかな…なかったらバーナーに火を借りないと」

「別に俺がコンロ代わりにならなくてもあるよ。キングしかつかってねぇけど。こっち」

「え、キングがお料理するの?」

 バーナーの後ろを歩きながらロックが意外そうにいう。

「キングは、モノ作るの好きだから。今は物騒なもの作れないからって興味もったもんに手を出しててさ

 料理もその一つかな。作るだけ作って食べないんだけど。俺が食べさせられてるんだぜ?」

「君のために作ってるんじゃないの?」

「まさか!」

 バーナーは手をパタパタふる。

「ただの気まぐれよ!」

「そうかなー」

 ロックとバーナーは他愛のない会話をしながらキッチンに到着する。

「わぁ、お台所っていうより厨房みたい…」

「一般家庭の台所ってどんなのかしらねーけど、あの人がそういうの好むと思うか?」

「うぅん…ごめん、思わないかも…」

「だろ?使いづらいか?火貸そうか?」

「大丈夫だよ、バーナーは少し待っててね」

「おう」

 ロックが仕度をはじめ、バーナーはそんなロックを興味深げに眺めていた。

「キングが料理してる姿はギャー!って感じだったけどお前だとなんか様になってんのな」

「僕これでも家庭用ロボだよ?これが本職なの」

「あ、そういやぁそうだったっけ。俺はロックマンのイメージが強いな。

 でも今のお前の方がいいかもしれねぇ!」

「あ、ありがと…」

 ロックは少し頬を赤くして照れるようにバーナーから視線を外す。

「………」

「…?」

 バーナーはロックの反応に首をかしげ、そしてもしかすると気に触ったのかもしれないと思う。

 繊細な感情を読む、という行為に対してバーナーは得意な方ではなかった。

 こういう場合、どうするか―――

「もうちょっと時間かかるんだろ?俺適当に時間潰してくるから出来たら教えてくれよ」 

「あ、うん。」

 バーナーは戦線離脱という行動を取った。

 パイレーツやダイナモがこの場にいればバーナーの背中を蹴り飛ばして阻止していただろうが

 生憎その場にはロックしかなかったのでバーナーはすんなりと出て行ってしまった。




   ◆◆◆◆




 バーナーの目の前に並べられていく料理。

 良い香りが食欲を刺激する。

 もちろんロボットなのでそれは感覚的なものなのだが。

「派手じゃねぇーけど美味そうだな!」

「そうだねぇ…キングの料理は見たことないけど豪華そうだし…それに比べると僕のは地味かもね…」

「こういうの家庭的っていうんだろ?美味いじゃんコレ」

 気持ちがいいほどにもぐもぐと食べ始めるバーナー。

「俺こっちの方がいいかなー」

「ありがと…」

「おいロック、こっちこいよ」

「?」

 手招きされるのでロックは立ち上がってバーナーに歩み寄る。

 するとバーナーはロックを軽々と抱き寄せると膝の上に乗せた。

「一緒に食べようぜ。」

「これバーナーのために…」

「いいじゃねーか。付き合えよ。ほれ」

「むぐ」

 料理を一口押し込まれ、ロックはもぐもぐとそれを食べる。

「雛鳥みてぇで可愛いなお前」

 いいながらケラケラ笑うバーナー。

 やはり笑い方の癖なのか邪悪さが少し残っているがそれは表情のみであろう。

「バーナーの方がかわいいからね?」

 言ってロックもバーナーの手からフォークを奪って料理の一つを突き刺し、バーナーの口へ運んだ。

「俺は別にかわいくねーよ」

「そうかな?可愛いよ」

「可愛くない。むぐ」

「バーナーこの後どうする?ずっとお留守番なら僕の研究所にきなよ、皆居るし暇つぶしになるよ」

「あー、それもいいけど流石にそれはな……」

 バーナーは頬を掻く。

 魅力的な提案だが研究所の甘ったるい雰囲気は慣れない。

「ちょっとだけでいいから一緒にゲームでもして遊ぼうぜ」

「うん、いいよ!」

 嬉しそうに頷くロック。

(やっぱり俺よりこいつの方が可愛い)

 バーナーは納得できない、と思った。




   ◆◆◆◆




「おやおやこれはこれは」

 時間にして深夜。

 キングはマジックと共に帰還すると、ソファの上でバーナーとロックが重なって眠っていた。

 テレビゲームをしていたらしく機器とソフトが散乱している。

「起しましょうか?」

「それはかわいそうだ、ベッドに運んでやろう」

 キングはニコニコしてヒョイヒョイとロックとバーナーを脇に抱える。

「ロックマンを寝かせるベッドがありませんが」

「何を言っているんだいマジック。私の寝室のベッドがあるじゃないか、しかも大きい。

 川の字になって寝ればいいだけじゃないか」

「キングもご一緒に寝るというのですかぁ!!!?」

「そうだよ?ふふ、ライト博士の研究所へ届けてお泊りもいいが邪魔が多いだろう?

 わー楽しいなぁー。両手に花だよ、あはははははは!!」

 爽快に駆け出すキング。

「キングぅぅぅ!!?いやぁわたしもご一緒したいぃぃぃ!!!」

 悔しがるマジックだが、キングから誘われていないので涙を呑んだ。






「さすがに大声上げてると起きるよ」

 ロックは呆れた顔をしつつ、しかしぐっすり眠っているバーナーを少し羨ましく思いながらキングにいう。

「失礼したね。ついテンションが上がると声を出さずにいられなく」

(キングってちょっとフォルテと似てるところあるなぁ…)

 製作者が同じだからだろうけれども…。

「僕は帰ります」

「泊まっていかないのかい?」

 寂しそうな顔をするキング。

「バーナーくんのがっかりした顔を朝に見るのはいやだなぁ」

「うっ…」

 確かにバーナーに黙って帰ることになるのだからそうなるかもしれない。

「…というか、キング…しばらく帰ってこないんじゃ」

「しばらくっていうのは個人差があるよね?嘘はついてないよ私は」

「もー知らない。じゃあ寝るから!」

 ロックはキングとの間にバーナーを引っ張り寄せて、バーナーにしがみ付いて眠る。

「怒らなくてもいいのに」

「キングは素直にお願いするっていうこと覚えたほうがいいよ」

「………」

 キングは何も言わず、笑みを浮かべてバーナーの横へ寝そべる。

「二人とも可愛いね」

「キングは可愛くないよ」

「だろうね。お休みロックくん。明日の朝の朝食、お願いするね」


「うん、おやすみ」

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