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ジェミニは美しい。
はじめて見た時、心を奪われた。
それからずっとジェミニを目で追っている。
彼は自分しか見ていないせいか、こちらの視線に気づくこともなければ、気づいても自分が美しいからだと自己完結してしまう。
それでも満足だった。
****
マグネットは今日もジェミニを眺めている。
「ジェミニに告白でもしちゃえば?」
「うにゃー!?」
タップが声をかけてくるのでびっくりするマグネット。
「あーびっくりした。告白って!?なんのことだろ!?」
「隠せると思ってんの?」
「はっはっは、マグネット殿は純真でござるなー」
天井から降ってくるシャドー。
「襲えばいいのでござるよ」
「マグ兄がそんなことできるわけないでしょ。てか嫌われるだろ」
「いたたたたた」
タップに頭を拳でぐりぐりされるシャドー。
「微笑ましいなー」
タップとシャドーを眺めてほわんほわんオーラを出すマグネット。
「俺はお兄ちゃんだからね、ジェミニを見守るだけで満足なんだよ」
「ヘタレ」
「ヘタレでござる」
「違うよ!お兄ちゃんヘタレじゃないもん!」
「ま、告白したとしてもスネークと昼ドラ展開になりそうだけど」
「それはそれで見物でござる」
「お前…スネークの親友でしょ?」
「親友ゆえ!」
最低な親友を持ったなぁ…と呆れた顔で呟くタップ。
マグネットはほんわり笑顔で弟たちを眺めていた。
◆◆◆◆
マグネットは性格は大雑把であったが、メタルを参考に作られているためか他者の管理能力は高かった。
ゴハンも作るし(性格が災いして味はいいが見た目が悪いという代物だが)、兄弟機のメンテナンスなども行っている。
兄弟がちょっとした怪我をしてよくマグネットに修理を頼みに来るものだった。
なのでマグネットはよくメンテナンスルームにいた。
そして今日も一人、やってきた。
ジェミニだった。
『マグネット、修理して』
手で顔を覆っているジェミニの横にいたホログラムが言う。
「あ、あぁ…顔、怪我したの?」
「……」
手を引いて、顔を上げるジェミニ。
思わず息を呑む。
ジェミニの顔が鋭利な何かで何度も抉られている。
裂かれた人工皮膚の間からオイルが流れていた。
「痛い…痛いんだ……」
「いったいどうしたの!?」
ジェミニをメンテナンス台に誘導しながら問いかける。
「別に…」
「別にって、酷いよこれは」
「スネークに、されただけだ…別にお前には関係ない。スネークが、そう…俺に嫉妬したのさ」
笑みを浮かべるジェミニ。
「アイツは醜いからな、俺がこんなにアイツのことを好きだといってやっているのに信用してくれない。
…美しすぎるのも罪だな。ふふ、ふ……あぁ、痛い…マグネット、痛いよ…」
顔を覆いながら訴えはじめるジェミニ。
慌ててマグネットは作業に取り掛かった。
痛いのは顔の傷ではなくて、心の傷ではないだろうか
マグネットはジェミニに対してそう思う。
ジェミニとスネークの関係は知っている。
二人の間に愛などはないだろう、互いに傷つけあっているだけなのだ。
ジェミニはただ錯覚しているだけだ、スネークが好きなんだと言い聞かせているだけなんだ。
この子の心は常に境界線の境目にある。
ロックマンに負けてから、そんな危うい精神状態に陥っている。
いつ心が崩れ堕ちてしまうかわからない。
「よし、綺麗になった。ほらホログラム、綺麗になっただろ?ジェミニの顔」
ジェミニの頬を撫でながらマグネットはホログラムを見る。
『あぁ、完璧な『俺』に戻ったな』
「キスしてもいい?」
『…』
ホログラムは目を細め、小さく笑みを浮かべながら頷く。
マグネットはマスクを外してジェミニにキスをする。
ジェミニが今、起きていることは解っている。
ホログラムは自立プログラム型ではなく、ジェミニがリアルタイムで操作していることを知っている。
でもそれをマグネットは指摘したことはなかった。
自分はジェミニのありのままの姿を受け入れたい。
ジェミニとホログラムは独りだが二人なのだ。
だから、ホログラムに話しかけたりしてあげる。
「ジェミニ、ごめんね…ごめん……」
「んっ…」
ジェミニの唇を割って、舌をもぐりこませる。
ジェミニの目が開かれる。
無感情の目で見つめてくる。
ジェミニにとって、自分はその程度―――
「そんなに、スネークの方がいいの?」
「だって俺はアイツを好きだし、あいつは俺のことが好きなんだ。
あいつは俺を壊そうとしてくるから好きに決まってる」
虚ろな目で呟くジェミニ。
「俺じゃダメかな?俺もジェミニのことが好き、愛してる。
あのね、これ以上傷つくジェミニは見たくないんだ」
「お前は嫌だ」
「どうして?」
「俺に優しいから嫌だ。俺のことわかったような気でいるお前が嫌だ。
お前は俺を壊せるか?無理だろう?スネークは俺を壊してくれるさ」
目を細め、笑顔を作るジェミニ。
「お前は、優しすぎるよ…マグネット…」
ジェミニは宥めるようにマグネットの頬を撫でる。
「好きな子に優しくするのは、当たり前じゃないか…」
マグネットはぎゅっとジェミニを抱きしめた。
◆◆◆◆
それから数回ジェミニの修理を行った。
痛々しい姿のジェミニはいつも笑顔だ。
ジェミニは美しい。
どんな姿になろうとも、心奪われたそのときから気持ちは変わらない。
今でも愛し続けている。
愛情を受け入れてくれなくてもジェミニはここに来てくれる。
それで満足だった。
END
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