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 キングの城には一応休息所もあるがあまり使われている気配はない。
        
         キング自体は王の間か、研究室とも併用している自室に篭っていることが多いし
        
         他の者たちは任務で外へ長期滞在も多く、それ以外の者はキングと同様に部屋に篭っていたりする。
        
         なので休息所に誰かがいると目が惹かれるのだ。
        
         グランドは足を止めてじっとそのソファで寛いでいる人物を見つめる。
        
         パイレーツだった、座った状態でテーブルに足を投げ出している。
        
         近づいてみると眼帯と帽子の鍔で解らなかったがすでにスリープモードに入っているようだ。
        
         こんなところで眠るなんて無防備極まりない。
        
         バーナーに焦がされたりキングやダイナモ、そしてマジックにイタズラされたりしても文句は言えない。
        
         寝ているほうが悪い、そういう場所である。
        
        「……」
        
         グランドは部屋に運んでやろうかとも思ったが、起動したての頃のパイレーツならともかく、
        
         今のパイレーツに世話を焼くと逆に噛まれそうだと思いなおしパイレーツの横へ座った。
        
         起すとうるさいかもしれないので起きるまで見張ってやろうという、グランドの思いやりであった。
        
        
  ****
        
        
「何をしているんだ?」
        
         感情が希薄な声がグランドの後ろから聞こえてきた。
        
         そちらを向かずとも声の主はゆったりとした足取りで歩み寄ってくる。
        
         コールドだった。
        
        「………何も、していない」
        
        「………」
        
         グランドの返答にコールドはしばし考えるように視線を宙に向け、そして戻す。
        
        「どうして二人でここにいる?」
        
         質問を変えてきた。
        
        「パイレーツが、寝ていた。だから見張り」
        
        「……あぁ」
        
         グランドの簡潔すぎる返答を少し考え、納得し、コールドは頷いた。
        
        「解った。別に見張りをしなくても、いいんじゃないか?
        
         ここには主(キング)と、私と、ダイナモしか残っていないのだから」
        
        「…」
        
         グランドはコールドに視線を合わせることなく、首を振る。
        
        「…寂しがる」
        
        「ははははははっ」
        
         なんて覇気のない笑い方だろう、とグランドは思う。
        
         どうして笑われているのかは気にならない、マジックで慣れてしまった。
        
         マジックはもっと可笑しそうに笑うが。
        
         コールドはやはりのんびりした動作で向かい側のソファへ座った。
        
        「かき氷でも食べるか?」
        
        「……」
        
         沈黙を拒否だと認識したコールドは「そうか…」と少し残念そうに呟きながら腹から拳サイズの氷を取り出して眺め始める。
        
         きっとどこかの地下水の氷で純度がどうのこうのと語り始めるだろう、グランドはそっとしておくことにした。
        
         しかししばらくしてふと疑問を感じた。
        
        「…なぜ」
        
        「?」
        
         唐突なグランドの呟きにコールドは氷から目を離しグランドを見る。
        
        「……」
        
        「……何が?」
        
        「何故そこにいる」
        
        「…あぁ、暇だから付き合ってやろうと思った」
        
        「あぁ…」
        
         納得したらしいグランドは顔を伏せてしまう。
        
         まったくコミュニケーションが取りづらい、しかしコールドにとって人付き合いに対し重要視はしていないので問題はなかった。
        
         マジックだとイライラしてしまうのだろうな、と考え小さく笑う。
        
        「うー…」
        
         静かだったパイレーツが唸りながら身を捩る。
        
        「起きたのか」
        
        「あー…?グランド?なんでもいい黙れ寝かせろ」
        
         言いながらグランドの膝の上を陣取って再び寝てしまう。
        
        「もしかして、そいつ酔ってるんじゃないか」
        
        「…なぜ、解った」
        
        「状況的にそう思った…」
        
         コールドが指を指すのでグランドはその先―――パイレーツの足で隠れていた床を見る。
        
         転がる無数の酒瓶。気づかなかった。というか見ていなかった。
        
         なるほど、飲んでいたのか。
        
        「しばらく、開放されそうにない」
        
         グランドはそう呟きながらパイレーツの頬を撫でる。
        
        「難儀なことだ」
        
        「あぁ…」
        
        「どうしてそこまで面倒をみているんだ?不思議で仕方がない」
        
        「…似てる、から」
        
         グランドは視線をパイレーツに向けたまま答える。
        
        「オレとパイレーツは似てる。だから、面倒を見る」
        
        「兄弟愛?」
        
        「わからない………」
        
        
           ****
「!!!!!?」
        
         パイレーツは変な汗をかいていた。
        
         ロボットだから汗など出ないが、状況が把握できずフル回転し熱を帯びた頭脳を冷まそうとする機能がフルで動いている。
        
         なぜ自分はグランドの膝を枕にして寝ているのか。
        
        「起きたか、パイレーツ」
        
         グランドが見下ろしながら淡々と呟く。
        
        「ッ!!!!」
        
         ガバっと逃げるように起き上がる。
        
        「な、なんの真似だ!!!?」
        
        「言っておくがグランドを枕にしたのはお前だからな」
        
         グランドの代わりにコールドが答える。
        
        「なっ…なっ…」
        
         顔を赤くするパイレーツ。
        
        「ふざけんな!起せよバカ!!!!!」
        
        「起しても怒られる。起さなくても怒られる。」
        
         グランドは困ったような声色で呟く。
        
        「起きたときにキスをプレゼントするといいらしい」
        
        「そうか、次からそうする」
        
        「何吹き込んでるんだよこの冷凍庫があああああああ!!!!!
        
         するんだぞこいつ、絶対次からするだろぉがああああ!!!!」
        
         パイレーツはコールドの胸元(というか扉といえばいいのだろうか?)をガンガン叩く。
        
        「家電製品は丁寧に扱っていただきたい…」
        
        「うっせぇ!!もう知らん!!!お前らなんか大キライなんだからな!!!」
        
         鉤爪をブンブン振り回しながら叫び、パイレーツは逃げるように出て行った。
        
        「リモートマインをバラ撒かれなくてよかったな」
        
        「……」
        
         コールドの呟きにグランドは小さく頷いた。
        
        
  
 
 
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