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        「むむ……」
        
         パイレーツは唸りながら目を覚ました。
        
         チキチキチ…とカメラアイが焦点をあわせようとする。
        
         海での生活を基本にしているためこの片目より聴覚センサーの方が優れている。
        
         目はまだぼんやりしているが耳はハッキリしていた。
        
         周りの音をすぐに拾っており、パイレーツは状況を把握しようとしていた。
        
         モーター音とソナーの音。
        
         船だろうか?しかし揺れがないし周りは薄暗い。
        
        「気がついたか?」
        
        「あ?」
        
         よく覚えているその声にパイレーツは間の抜けた声を上げてしまったと思った。
        
         できれば…低い声だったから相手には不機嫌そうな声色に聞こえていればいいのだが。
        
         焦点が定まる。
        
         目の前に見慣れたケツアゴ…じゃなかった、ダイブがいた。
        
        「なんだこりゃ?」
        
         後ろ手に両手を拘束されている。
        
        「暴れないように拘束している。大人しくしているんだな。
        
         スプラッシュ嬢から連絡を受けて潜水艦でお前を回収したんだ、わかるか?」
        
         頼んでもいないのに簡潔な説明をしていくれる。
        
        「あー…」
        
         パイレーツは目を細めながら納得した。
        
         あの人魚型ロボットと矢張り口論になり武力行使に出たのまではいいのだが、色々とあって海に落ちたのだ色々とあって。
        
        
        
         ―――空の飛べる仲間がいるのはずるい。
        
        
        
         そこで怪我でもしたのだろう、応急処置されている脚を見る。
        
         パイレーツを運ぶのが癪だったのか、スプラッシュの意図はわからないが潜水艦という足をもっているダイブに運搬を任せたようだ。
        
        「ここはお前の潜水艦か…息苦しいな外の空気吸わせろ」
        
        「今はお前がバラ撒いたリモートマイン地帯を通過中だ、それにロボットに息苦しいも何もないだろ!」
        
        「チッ」
        
         舌打ちしながらパイレーツはふてくされる。
        
         リモートマインを全部爆破させて無理にでも浮上させてやろうかと思ったがどうも電波が届かないようだ。
        
         ダイブはパイレーツが黙り込んだので背を向け潜水艦の操作をしているロボットに話しかけたりしている。
        
        (クソが。海の上と逆の立場になってんじゃねーか)
        
         ただ船の上の場合、ダイブは船酔いで沈んでいるが。
        
         いやしかし、息苦しさは本当だ。自分だけなのだろうか。
        
         たしかにロボットだから気圧も酸素の濃度も関係は無いはずなのだが。
        
         しばらくしてダイブが振り返り声をかけてくる。
        
        「大丈夫か?大人しいのも気持ち悪いな。まさか脚の怪我以外にも怪我でもして―――」
        
        「してねーよ。…ちょっと気分が悪いだけだ」
        
        「本当に大丈夫か?お前素直じゃないからな」
        
         ダイブはパイレーツを抱き上げる
        
        「ンなぁ!!!?」
        
        「ここじゃ狭いし、まぁ狭いのは代わりないが俺の部屋にリペアツールがある」
        
        「だから、怪我してねぇよ!!!」
        
         ぎゃーぎゃー喚くがダイブは聞く耳持たずでパイレーツを部屋に運び拘束を解いてベッドの上に座らせた。
        
         確かに狭い部屋だが、ダイブがデカいせいもあるとパイレーツは思った。
        
        「で、どこを怪我してるんだ?!言え!!」
        
        「ち・が・うっ!テメェ本当にバカだな!さわんな!!!」
        
         取っ組み合いを始めるダイブとパイレーツ。
        
         ガシャンガシャンとパイレーツの凶悪な右手がダイブを挟もうとしているし左手のバスターはダイブに狙いを定めようとしている。
        
         そんな腕を掴んでダイブは押さえ込もうとしていた。
        
        「折角リペアしてやろうと拘束解いたのに!暴れるんじゃない!!」
        
        「ウルセッ―――」
        
        
        
          バキッ
        
        
        
         もともとケガをしていた脚から痛々しい音が響き、パイレーツはダイブから離れベッドの上で悶絶した。
        
        
        
           ****
        
        
        
        「スプラッシュ嬢が直したのにお前はまったく…」
        
        「うっせぇ…」
        
         ダイブのリペアは正直上手とは言えなかった。
        
         慣れぬ手つきでせっせと処置を施している。
        
        「…本当に、息苦しいのは確かだけどよ」
        
         ぽつりとパイレーツは呟く。
        
        「ん?」
        
        「こっち見るな」
        
         ガツンとダイブの頭を叩く。
        
        「お前…人が治療してるのに…!」
        
        「聞けよ。」
        
        「息苦しいのがどうかしたのか」
        
        「俺は海の底が嫌いなんだ、気分が悪い」
        
        「海のロボットがそんなこというのか」
        
        「お前だって船酔いしてんじゃねーかよ!!!!!」
        
        「揺れるんだから仕方がないだろ!!!?」
        
         ダイブは顔を上げて叫ぶ。
        
        「む…」
        
         パイレーツの表情を見てダイブは黙った。
        
         よっぽど酷い表情をしていたらしい。
        
        「暗いのが苦手なんだ、キングもそう。キングが怖がるからかな。
        
         いや、ただ単に俺が怖いだけか。あぁ、怖い。クソ、息が詰まる」
        
        「悪かったな…あと数分で浮上できるからそう伝えて―――」
        
         言葉が最後まで発することが出来なかった。
        
         パイレーツの唇で塞がれて―――
        
        「……」
        
        「……」
        
         パイレーツは顔を離してトンっとダイブを突き離す。
        
        「気分転換になんねー寝る」
        
        「あ、おい!!!?」
        
         ダイブに背を向けてごろりと横になるパイレーツ。
        
        「到着するまで起すなよリモードマインばら撒くぞ」
        
        「お前は本当に何を考えているのか理解できないな!」
        
         呆れた顔で言いながらダイブは部屋を出る。
        
        「襲っていいんだぞダイブ!?優しく抱いてやろうか!!!?
        
         むしろ脚の怪我さえなければあのまま押し倒して突っ込んだけどな!!!」
        
        『ふざけるな!!そこで大人しく寝てろ!!』
        
         ドアの向こうでダイブの怒鳴り声。
        
        「……チッ。奪えたの唇だけかよ。バカじゃねーの俺」
        
         舌打ちしながらパイレーツはスリープモードへ移行していった。
        
        
  
 
 
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